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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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 S12 縞猫の髭

 草原の砂利道は非常に緩やかな傾斜を帯びて北へと伸びていた。

 砂利道と草原の境界線である路端には、所々に立て札が掛けられておりスティアルーフからの距離が約一キロメートル毎に記されている。

 マイキー達は街から三つ目の立て札を通り過ぎた所、約三キロメートル程離れた地点で、砂利道から大きく逸れていた。草原に見かけた銀色の獣影、その影を追って草むらの中へと駆け込んだのだった。膝元まで伸びた緑々しい雑草を踏み分け、鬱蒼と茂った葦間を一気に駆け抜ける幾つもの人影。


「ジャック、そっちから回り込め」

「了解」と身を翻したジャックが獲物に対してマイキーの対軸へと駆け込み行く。


 獲物の正体はFoxiフォクシーと呼ばれる銀色の狐だった。

 その美しい風貌から、レアモンスターだと勘違いしたのが事の始まりだった。

 懸命に走り追い駆ける四人の冒険者から縦横無尽に草原を逃げ回るフォクシー。その動きは非常に俊敏で、捕らえる事は難しい。

 マイキーによって誘導されたフォクシーの進行上に立ち阻むはジャック。左右の逃げ道はアイネとキティが塞いでいる。追い込まれたフォクシーは銀色の耳をピンと張り辺りを見渡していた。ここで漸く袋のねずみへと追い込んだと一同が認識したと同時、突如駆け出した獲物が小さな影目指して突進する。


「キティ!」


 マイキーの掛け声と同時に眼前に迫る銀色のモンスターを前に、キティは銅の短剣を持ったまま完全に硬直していた。

 腰は完全に引け、足は今にも後退りしそうな格好で彼女が必死に恐怖と戦っていたその時、フォクシーは後方に尻餅を付いたキティの身体を飛び越えて悠々と逃げ去って行く。

 慌てて一同が駆け寄るとキティは短剣をしっかりと握り締めたまま俯いていた。


「……ごめんなさい」


 一同に見つめられ完全に罪悪感に襲われ落ち込むキティを前に優しく励ますアイネ。


「気にしないでいいんだよ。誰だって初めから出来る訳ないんだから。またチャレンジ」


 そんな二人の様子を見てか溜息を吐き、獲物が逃げた方向へ視線を流すマイキー。

 彼が溜息を吐いたのは決してキティを責めてのものでは無かった。


「思った以上に厄介だな。逃げる獲物を追うって行為がこんなに大変だとは夢にも思わなかった」

「全くだ。動きも早いし、これじゃ狩りの効率悪すぎるぜ。まだ比較的、動きの鈍いウーピィの方が狩り易い」


 ジャックの言葉に項垂れて考え込むマイキー。


「認定試験に出てたクレリックの納品アイテム『綿兔の涙』。これは多分、今までの情報から照らし合わせる限り綿兔ってのはウーピィを指してる。その難易度から考えても、このクラス認定試験の納品アイテムって、この周辺で取れる確率が高いんだよ。ハンターの納品で必要になる『銀狐の尾』って多分あのフォクシーだろ。最悪なパターンだ」

「ソルジャーの『縞猫の髭』ってのは何が落とすんだろうな」とジャックが香煙草を取り出しながら呟く。


 彼が求める納品アイテムもまた恐らくはこの周辺のモンスターが落とすであろう事は予測が付く。だが、どうにもこれは一筋縄で行きそうにも無い。

 キティには可哀想だが、ウーピィを狩る事も想定に入れて行かなければ現状この大陸での生活が成り立たない。彼女がクレリックになるためにもウーピィを狩る事は必須なのだ。


「戻って街の手前でウーピィ狩るか」


 マイキーの言葉にキティが悲しげに肩を落としたその時だった。

 草原に茂る葦の合間で過ぎるその黒い影。その影の動きをジャックは見逃さなかった。鋭い眼差しを向けたまま無言で歩み始める。

 その表情の変化に気付いたマイキーが葦へと近付いて行くジャックの後姿を追う。

 声を出しては気付かれる恐れがある。二人が無言のコンタクトを取りながら、葦へと近付いて行く。二人の行き先にアイネとキティもまた注意を凝らしていた、その瞬間。

 葦から勢い良く飛び出してきたその影を反射的に交わすジャック。ジャックの髪を空中で薙いだその影は、後ろで剣を構えていたマイキーの縦薙ぎの斬撃によって地面へと叩き落される。


Myaaaミャァァァ


 剣先で抑えつけられ地面で暴れるその生物。茶色味を帯びた毛並みに真白なストライプの入った体長五十センチメートル程の猫。長く美しい縞模様の尾を入れればその全長は一メートルには及ぶだろう。

 片手に持った剣でしっかりと釘刺して置きながらマイキーはPBを開き、その情報を確認する。


Micnoaミクノア Catキャット。Lv5」


 マイキーの言葉に乱された髪を整えながらジャックが口笛を鳴らす。


「随分と攻撃的な獲物だな。普通獲物は逃げるもんだろ。なるほど、コイツが縞猫って訳か」


 そう呟きながら暴れる縞猫の首根を掴み、大人しくさせたジャックは掴み上げて宙吊りにする。


「確か、認定試験で必要になるのは『縞猫の髭』だったよな」


 縞猫の鼻元に伸びた長い白髭に手を伸ばすジャック。

 次の瞬間、ビクンと身体をくの字に曲げて暴れ鳴き声を上げるミクノアキャット。


Myaaaミャァァァ!!!」


 その獲物の様子に目を伏せるキティ。


「悪い、悪い。髭抜いただけだって。そんな怒るなよ」


 抜いた数本の白髭を片手にマテリアライズを宣言するジャック。

 『Materialize』のボイスコマンドによってカード化出来るアイテムには条件がある。その条件とは基本的に手で持てる物、その条件を満たしかつ、この世界でアイテムとして定義されている物であればカード化を行う事が出来る。

 彼の宣言によって、握られていた数本の白髭は煙を立ててカードへと変換された。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

〆カード名

 縞猫の髭


〆分類

 アイテム-素材


〆説明

 東エイビス平原南部に存在するMicnoa Catの白髭。

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 カードを手にしたジャックは一度マイキーに投げ渡しその内容を確認させる。

 マイキーは受け取ったカードの内容に目を通すと「ただの杞憂だったか」とそう呟いた。

 何故なら、モンスターからカードを入手する方法はドロップ品以外に有り得ないと考えていたからだ。モンスターから無理矢理剥ぎ取った局部をマテリアライズする事が出来る、この情報はある意味貴重だった。


「倒すだけがアイテム収拾の道じゃないって事か」


 マイキーの言葉にジャックは首根を掴んでいたミクノアキャットを解放すると、彼は悲痛な鳴き声を上げ騒ぎ立てながら尻尾を巻いて葦の中へと逃げて行った。

 入手した認定試験のアイテムはこれで一つ。

 この大陸での生活は依然見通しが立たないものの、向う先はただの暗雲という訳でも無さそうだった。

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