S9 オークションハウス
港に聳える赤煉瓦の倉庫。それが目的のオークションハウスだ。
太陽はまだ南中する手前で燻っている頃、眩い陽射しに手を翳しながら一同は立ち並ぶ赤煉瓦の建物の一棟へと入って行く。
「ねぇ、これって幾つも建ってるけどどこも一緒なのかな」と問い掛けるアイネ。
「いや、出品されてるアイテムがランダムに各倉庫に展示されるみたいだ。基本的にはPBでリストから出品されたアイテムを確認するからどこ入っても一緒だな。現物見たい人だけ展示品を探しに倉庫回る事になるんだろきっと」
マイキーは回転式のガラス扉を潜るとオークション会場へと足を踏み入れる。
中は外気と比べて温度が低く、ひんやりとした冷気で満たされていた。その気温差に羽織っている黒斑鳥の羽服を引き締める一同。
入り口すぐの両脇へ開けた空間正面の壁際にはオークションハウスの説明書きが真白な大きなパネルとして掲げられていた。
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■当オークションにつきまして
この度はオークションハウスへご来場頂き誠にありがとうございます。ここは第三展示場になります。展示場内では中央エリアに設置されています端末カウンターからパーソナルブックを接続して頂き、デスクトップに表示されますオークションアイコンをクリックして下さい。そちらのメニューの方から各種案内が出ておりますので、出品される場合は出品フォームへ、入札される場合は入札フォームの出品リストからご希望される商品をご確認下さい。端末カウンターにて表示されます展示位置にて、出品商品をご確認頂く事が出来ます。出品される品目が多い場合、出品物の展示については時間によって抽選表示させて頂いております。
○「出品」と「入札」について
本オークションにおける「出品」と「入札」に関しましては、まず出品に関してプレイヤーの皆様は手持ちのアイテムに対して「最低希望落札額」と「出品期間」を決定して頂きます。入札者の方はそれに対し、期間内に最低希望落札額以上、又は前の方が書き込んだ入札金額以上の金額を提示をする事で、出品期間終了時に入札金額の最も高かった方が落札者となります。出品については最大五個まで出品して頂く事が可能です。また出品されたアイテムには「即札価格」と呼ばれる規定額以上の入札が行われた場合に、出品期間の終了を待たずに即札を行うシステムも新規導入させて頂きました。出品の際は是非ご利用下さい。
■ご来場頂きましたプレイヤーの皆様へ
館内では他のプレイヤーの皆様のご迷惑になりませんよう、良識ある行動を宜しくお願い致します。また館内での飲食、及び喫煙はご遠慮頂きますようお願い申し上げます。
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会場案内を流し読んだ一同は、赤壁を横切り展示室へと進む。
ひんやりと涼しい会場内には、様々な出品アイテムが透明なケースの中に入れられ台座の上に飾られていた。さながら博物館のようなそんな雰囲気を一同は楽しみながら、出品物を眺め始める。
「高そうな品物が一杯あるね。見て、ほら。あの月兔石って最低希望落札額15000ELKだって」とアイネ。
銀色に輝く六角錐型のその輝石の前で呆ける一同。
キティはそのケースの前で張り付くようにその輝きに見惚れていた。
「ちょっとこのオークションハウスってのはまだ俺達にとっちゃ場違いだな」とジャックの言う事は尤もだった。
先行プレーヤーによる高額アイテムが立ち並ぶ会場内で、ただただ高額品の展示会と一同がオークションハウスを割り切り始めたその時だった。
ふと視線を流していたマイキーが、会場の一角に置かれたアイテムに目を留める。
「ん、あれって」
マイキーの視線の先に一同もまたその視線を沿わせる。
そこには小さな台座に置かれた植物の球根が一つ置かれていた。黄金色に輝くその球根にはマイキー達は見覚えが有った。
それは、緑園の孤島で激戦を繰り広げたあの奇怪な生物ピグミッツのドロップ品に間違いない。
台座前に記された出品アイテム名には『金色玉葱の球根』と記されていた。その台座を前に固まる一同。
一同が固まった理由は見覚えがあるアイテムがこのオークションハウスに並んでいたからではない。固まった理由は他にある。
問題は出品アイテムに付記された落札価格だ。最低落札希望価格は『1200ELK』。だがその希望価格はいくつもの打ち消し線によって上書きされていた。
その現在の落札価格はなんと『3250ELK』。
「お、おい……これ」
ジャックが余りの驚きに声色を乱すと同時に、マイキーはPBを開き凄まじい勢いで中央エリアへと駆け込んで行く。
その様子を呆気に取られて一同が眺めていると、中央エリアに設置された端末カウンターと数分格闘したマイキーが真剣な眼差しで戻ってきた。
「出品した。売るぞこのアイテム」
余りにも真剣なマイキーのその表情に、息を呑む一同。
マイキーが設定したのは最低落札希望価格1500ELK。即札価格は値段を吊り上げるために敢えて5000ELKに設定して置いた。数字に深い意図は無い。本来なら最低希望落札額も3000ELKと設定したいところだったが、多少競り合わせた方がバイヤーの熱も上がるかもしれないと、そんな安易な考えからだった。
まるで必当の宝クジを買ったかのような気分に陥った一同は、出品アイテムである黄金色の玉葱に大いなる期待を込めて、オークションハウスを後にするのだった。