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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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〆第二章『転職新世』

挿絵(By みてみん)


 悠久の平原は風に獣の匂いを運ぶ

    一歩踏み出れば決して驕ってはいけない

   ここでは狩るモノと狩られるモノ、それが全てなのだから

(作者不明『滲んだ冒険日誌』より)



 ■創世暦ニ年

   四天の月 水刻 5■


 夕暮れ時を越え辺りは暗闇に染まりつつあった。藁々を出た三人は黒女神像の花園を横目にギルドへと緩やかな傾斜を上がって行く。夜村を照らす月明かりの下、黒斑鳥の装備に身を包んだ三人の冒険者はそのままギルド横のさらなる傾斜を帯びた木道へと足を掛ける。

 薄暗い緑林のトンネルを潜りながら、辺りの風景を目に焼き付ける三人。そこは美しい木立だった。この辺りは木漏れ日の丘と呼ばれ、日が昇る頃には幻想的な光の幕に覆われると云う。残念ながら緑園の孤島の探索に勤しんでいた三人にとって、その神秘的な光景を目にする事は叶わなかったがそのうちまた目にする機会もあるだろうと、今夜三人はこの島を旅立つ事を決意したのだった。

 そして月明かりの漏れる木道をニ百メートル程歩いた先には突然、視界が広がりそこには美しい農園風景が広がる。


「ここがエルムの農園か。ここで小麦を栽培してたんだ。成る程ね」


 一面に広がる小麦色の稲穂を前に三人は丘から伸びた畦道を通り、北の船着場を目指す。段々状になった農園には小麦の他にも様々な野菜が収穫されているようだった。その色とりどりの豊かな実りに微笑を浮かべながら、三人は丘の麓に広がる広大な海原へと視線を向けた。

 海へと続く細い砂道の先には、丸太で組まれた小さな船着場が。そこにはまさに今蒸気を巻き上げて入港してくる一隻の大型の汽船の姿が見えた。


「大きな船。あれに乗って行くのかな」とアイネ。


 三人は足早に畦道を駆け下りると、船着場へと導かれて行く。

 船着場に停船したその船へと続く渡し板の入口には虹色の鉱石で象られたアーチが掛かっていた。


「綺麗なオブジェだね」とアイネの言葉にマイキーがその虹色の輝きを見つめながら呟く。

「オラクルゲートだ。これがいわゆる人工オラクルを生み出してるんだ。レクシア大陸に行く資格の無い者をふるいに掛けてるのか」


 三人がアーチを潜るとそこにはまるで身体をすり抜ける様に虹色の波紋が浮かび上がった。

 その波紋の流れを身体で感じながら三人は船着場のチケットカウンターへと向う。丸太で組まれた素朴なその発券所には数名の冒険者がPBを端末に接続し、手続きを行っていた。

 三人はそれぞれカウンターに向き合うと、そこでPBを広げ発券フォームを開き始める。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 本日は当ブルーラインシップをご利用頂き誠にありがとうございます。

 こちらではエルム-スティアルーフ間のご乗船チケットを販売しております。

 

 ▼普通定期船のご案内


  ○料金:100ELK

  ○航程日数:2泊3日<48時間>

  ○定期便:10:00/12:00/14:00/16:00/18:00/20:00


  →チケットのお求めはこちら


 ▼高速定期船のご案内


  ○料金:300ELK

  ○航程日数:1泊2日<14時間>

  ○定期便:17:00


  →チケットのお求めはこちら


◆―――――――――――――――――――――――――――◆


「普通定期船と高速定期船ってあるけど、どっち?」


 隣から覗き込むアイネにマイキーはキーボードを素早く弾き、一枚の券を発行する。


「普通定期船でいいよ、100ELKだし。てゆうか時間的に普通定期船しか選べないだろ。今19:43だぞ」

「あ、本当だ。じゃあ普通定期船の20:00のチケット買うね。部屋も選べるんだ。ミニスウィート以上は別料金になるのね。スタンダードなら船代に含まれてるみたいだし、私このままでいいかも」


 二人のやり取りに素早くキーボードを弾き自らもチケットを購入するジャック。

 乗船チケットである一枚のカードを発行した三人は、今振り返り目の前に浮ぶ巨大な旅船を見上げる。

 総トン数90,000tを誇る大型船マリーンフラワー号。全長293m、全高61.7m。その乗客定員数は2000名を誇る巨大な旅船である。

 船の情報をPBで確認していたマイキーの肩をアイネが笑顔で「早く行こう」と優しく叩く。

 そこには真白な蒸気を上げる汽船に今乗り込む三人の姿が在った。夕闇に包まれた船着場に響き渡る汽笛の音。

 三人のこの世界での初めての船旅が幕を開ける瞬間だった。

 甲板の船頭へと駆け上がった三人の目に映る壮大な夜海。月明かりに美しい輝きを返すその幻想的な光景に酔いながら静かに振り返る。

 汽笛を上げたマリーンフラワー号は既に緩やかにエルムの船着場から遠ざかりつつあった。 イルカ島の北に存在する小さな港からレクシア大陸に向けて午後八時の便で出発した三人。出発間際、イルカ島の北部に広がる農園を船上から見下ろしていると、そこには農園に存在する案山子かかしと格闘する冒険者達の姿が見られた。

 畑を守るために設置されたあの案山子は、討伐すると稀に麦藁帽子というレアアイテムをドロップするとの情報がLocal Net Workに挙がっていた。ただし、案山子のその戦闘能力は序盤にしては非常に強力で、Lv2の冒険者が七人がかりで全滅という報告が挙がっていた。

 短い期間ではあったがイルカ島での生活はとても充実した日々だった。

 イルカ島から旅立った船の西側にはあの緑園の孤島の影が闇夜にはっきりと見て取れた。海岸で淡い光を放っているのは恐らくはランプワームだろう。あの光は地中から生えた全長1.5m程(地表に出ている部分は0.8〜1.0m程)のWorm<ワーム>と呼ばれる巨大なミミズのような生物が発している。夜行性である彼らは、地表部分先端から放たれるその光に集まってくる、小さな虫達を捕食しているのだ。

 美しい緑に包まれた鳥獣達の楽園、フロイスモール島。通称、緑園の孤島というその名の由縁の通り、そこには雄大な大自然が広がっていた。イルカ島と比較するとその総面積は広大で、その全長は53平方kmにも及ぶ。島の最高部と海域との高低差は約243m。島の中央部には休火山であるコロネオ火山が存在する。海岸から望めるコロネオ火山の頂きでは突き出た巨大な岩盤Grande Rock Piasが空を仰いでいた。


「ティムネイル諸島か。いい所だったな」と香煙草を咥えそう呟くジャック。


 神秘の洞窟に纏わるクエストを解き明かしたその報酬である周辺マップを見つめながら、マイキー達は船上で揺られていた。甲板の船頭の手摺りに凭れながら三人は自分達が過ごしてきた島の名をそこで初めて知ったのだった。


「また、ここには来る事になるだろうさ。謎が残されてる限りね」とマイキー。


 この島の謎はまだ残っている。彼らが解いた謎は表面的な謎に過ぎない。

 解く事で深まった謎。その謎が存在する限り彼らは再びこの地を訪れる事になるだろう。

 新たな旅立ちはこの地に懸ける情熱を静かに燃やす、冒険者達の決意に支えられていた。

 ■第二章開始のお知らせ


 本日より第二章『転職への道』を連載開始させて頂きます。更新は毎日一話、本章は全十七話を以て終了となります。

 第二章としては現状二十五話まで話を書き進めていたのですが、思った以上に話数が伸びそうなので一旦章を分断させて頂きました。

 収まらなかった話数については第三章へと回させて頂く予定です。

 さて、本章については生まれ変わったスティアルーフの街並みや転職システムなど説明色が強い章となりますが、転職システムについて先に一点だけ釈明させて頂きたいと思います。

 本章で公開されるクラスは四種のみとなりますが、ARCADIA正式リリース版では、GR<ギルドランク>によってクラス取得クエストが設定されています。つまり、GRが上がる度に新たなクラスへの選択権が生じます。現時点では掴みにくい内容だと思いますが、詳細は物語の中でご確認下さい。因みに、読者の皆様からご要望の高かった傀儡師オートマティシャンはGR3の取得クエストに設定しています。段階的にはやや登場は遅れますが、本作はかなりの長丁場となりますので、気長にお待ち頂けると助かります。その他、設定上では本作は現状二十三種のクラスを用意してます。この数値は可変的に動かすと思いますが、基本的には増えます。間違いなく(笑)

 拙作ではありますが本章も宜しくお願い致します。

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