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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
20/169

 S18 VS Moomoo

 どの位の時間を眠って過ごしたのだろうか。歩き疲れたせいか、三人は深い眠りに落ちていた。夕方の海風が陸風に変わる頃、その頬を撫でる風向きの変化にマイキーはふと目を覚ました。

 見上げた視線の先では雄大なGrande Rock Piasが今日も天を指し示していた。寝起きのせいか若干の傾きを帯びているように見えたが、おそらくは気のせいだろう。そしてGrande Rock Piasからは何やら今巨大な影が空を舞い始めていた。


「何だ……あれ」


 鳥では無い何か。だがその正体は距離が離れすぎていてマイキーの視覚では確認出来なかった。東の空へと飛んでいくその不可思議な影の軌跡を追い、そして目を背ける。確認出来ない以上、これ以上は気にしても仕方が無いと考えたのか。薄っすらと口元に笑みを浮かべるマイキー、その表情は何を読み取ったのだろうか。

 薄暗くなった空を見上げながら、身体を起こすと隣で寝ている二人を起こさないように海岸へ向って歩き始める。朧気な記憶の中であの冒険者達が話していた岩場は既に潮で満たされていた。


「どんだけ寝てたんだ。早く夕食の材料集めないとあいつら食う物ないぞ」


 寝ている間に髪の毛に吹きついていた砂を払い落としながら、マイキーが海を眺めていたその時だった。

 ふと海原に浮かび上がった一つの影。その影に気付いたマイキーはまた何かしらの漂流物の影かと考えていた。だが、それはどう考えても木棺の形状とは異なっていた。それどころか海の中をまるで泳ぐように水泡を立てながらこちらへと向ってくる。その姿にそこでマイキーの表情が変わった。


「まさか……モンスターか」


 海面に水飛沫を上げるその姿は紛れも無く生物の証だった。

 咄嗟に銅剣を引き抜いたマイキーの前に今静かに海辺へと上陸するその黒毛の獣。艶やかな体毛から滴り落ちる雫を砂浜に撒き散らしながらゆっくりと足を運ぶ。薄暗い闇の中で光るその蒼白の瞳は今マイキーへと向けられていた。


Meeeeメェェェェ


 鳴き声はまるで山羊のようだった。だが海から這い上がってきた今の光景を見ればこれは山羊では無い。敢えて表現するならば海羊か。

 だがもはや今はそんな事はどうでもいい。問題はこの生物が自分達に害を与える生物であるか。要はアクティブか、ノンアクティブか。そこが問題なのだ。

 鋭い眼差しを向けて構えるマイキーの元へ今ゆっくりと近寄る海羊。二人の距離が今零に為るかと思われた瞬間、海羊はマイキーの横を通り抜け森の中へと姿を消して行った。

 額に滲んだ汗を拭い今、銅剣を腰元に収めたマイキーは静かに仲間の元へと向う。

 この非常時に爆睡しているその姿に心底呆れながらも、起こさなかった自分にも非が有る。寝惚けた頭に突然突きつけられた事態にどうかしていたようだった。


「おい、お前等起きろ。夕食獲りに行くぞ」


 マイキーの言葉に今ゆっくりと身体を起こす二人。

 

「ん……ここどこだ?」と完全に寝惚けたジャックの隣で目を細めながら辺りの様子を見渡していたアイネが突然悲鳴を上げる。

 その悲鳴に目を覚ましたジャックが海原の方へと視線を投げ、そこで身体を硬直させる。


「な……なんだあれ」とジャックの呟き。


 マイキーは海原へと振り向きその光景に思わず微笑を零した。

 固まる一同の前に広がる光景。それは暗い海原の中から這い上がってくる無数の海羊達の姿だった。暗闇の中で光る無数の光に完全に動揺する二人。

 寝起きの二人にはこの世の終わりにでも映ったのだろう。確かに次々と上陸しては身体を震わせ水飛沫を飛ばしながら森の中へと消えて行く彼らの姿は想像を絶する光景だった。


「あれが本日のメインディッシュ。夜子羊ムームーでございます。お目覚めはいかがですかジャック様。アイネ様」


 マイキーの言葉に開いた口が塞がらない二人はただ呆然と森へと消えて行った夜子羊の大群の軌跡を追っていた。


「あれを……狩るのか」


 漸く(ようや)事態を把握したジャックがその場に立ち上がり砂を払い始める。

 その隣で依然、腰を着いたまま立ち上がらないアイネの前にマイキーは手を差し出す。


「お嬢さん。そろそろ立ち上がってはくれませんか?」


 執事めいたその言葉にアイネはまだ寝惚けた瞳でマイキーを見上げる。


「キスして」


 唐突なアイネの言葉に手を差し出したまま、苦笑するマイキー。


「キスしてくれなきゃ立てないかも」とアイネ。


 そうして森へと無言で歩み出すマイキーの後に続くジャック。

 二人の姿に「ちょっと冷たくしないで」と立ち上がったアイネが慌てて二人の後を追う。そこには漸くいつもの調子が戻ってきたようだった。

 森の中に入った三人はその様子に息を呑む。完全に昼間とは一変したその景色。

 暗い森の中からは、昼間の生物達の気配は完全に消えていた。当然、そこにはシーフロッガーの姿も無い。あるのは森の到る所に散らばる無数の光る眼。


「とりあえずはまず一匹狩ろう。リンクする可能性もあるから弓で釣って海岸に引き寄せて戦う」


 マイキーはそう語ると装備を弓に変更して見せた。

 彼の指示に従って海岸近くの茂みに身を隠すジャックとアイネ。マイキーは一人森の中で獲物が群れの中から孤立する瞬間を探していた。

 暗闇の中で光る眼が移動する。群れから離れるように海岸へその足取りが向いた。


――今だ――


 マイキーの手から放たれた一筋の軌跡が夜子羊に向かって突き刺さる。

 その衝撃に驚いた獲物は鼻息を荒立てながら一直線にマイキー目掛けて突進して来る。駆け出すマイキーの後ろ背中を追って海岸へ向って森から飛び出そうとしたその時だった。

 砂浜に飛び出したマイキーを追って今、夜子羊もまた黒肢を砂浜へ向けたその瞬間。

 突然身体を襲った重い二つの衝撃に身悶えする夜子羊。そこには銅斧を構えたジャックと銅剣を携えたアイネの姿が在った。

 思わぬ奇襲に獲物が怯んだその時を見計らったかのように、正面では漂流者の剣を構えたマイキーが一歩ステップして踏み込むところだった。その瞬間、光り輝くマイキーの身体。


「Step In Slash<ステップインスラッシュ>」


 マイキーのWeapon Artsが炸裂すると同時に身体をくの字に曲げて倒れ込む夜子羊。


「畳み掛けるぞ」


 マイキーの掛け声と同時にそこへ一気に畳み掛ける三人の嵐のような攻撃に瞬く間に獲物は粒子化を始める。残されたのは一枚のカードだった。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

〆カード名

 夜子羊ムームーの肉


〆分類

 アイテム-素材


〆説明

 Moomoo<緑園の孤島近海に分布する海生羊>の食用肉。

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 手にしたカードをひらひらと手の平で舞わせて、カードをPBに仕舞い込むマイキー。

 夕食の材料にするならば、あとニ、三枚は用意しておきたいところだった。順調な滑り出しを見せるMoomoo狩り。

 三人はそれから十匹程の討伐を終え、三枚の夜子羊の肉の調達に成功した。

 Moomooが蔓延る夜の森を歩きながら食料の調達を始める三人。ジャックは暗闇にるあまりの視界の悪さに愚痴を零しつつあった。


「肉手に入れたしもういいんじゃないか。こう視界悪くちゃ食材なんて探せないだろ」


 ジャックの言葉にアイネは少し不服そうな顔を見せていたが、状況が状況だけに「しょうがないよ、海岸に戻ろうよ」とそう呟いた。だがマイキーは首を縦には振らなかった。


「そう早まるなよ。暗闇だって入手できる食材は在る。逆に今の時間帯だからこそ見つけやすい食材だって在るんだ」

「今の時間帯だからこそ? こんな暗闇で何が探せるんだ」


 ジャックの言葉にマイキーは今森の中に存在する一匹のMoomooを指差して見せた。


「Moomooはカードにも書いてあった通り、海生の羊だ。日光を嫌う夜行性の彼らは日中は海中に潜み、夜になると餌を求めてこうして島に上陸する」

「それが何だって言うんだ?」


 香煙草を口に咥えるジャックの問いにマイキーは微笑を浮かべた。


「連中の食糧、それはこの島に存在する奴等の大好物でもある」

「大好物?」と首を傾げるアイネ。


 ジャックの吐く真白な煙が漂う中、マイキーは一言告げた。


「赤椎茸。それが奴等の好物の名前さ」


 椎茸と聞いて輝くアイネの表情。確かに羊肉はメインディッシュに為り得るが、前菜も欲しい。

 この時間帯はその赤椎茸を求めて島の各地でMoomooが出回っている。逆に言えば、彼らの行く先にはその赤椎茸が存在するという事だ。

 今一本の倒れた古木に顔を下ろし何やらごそごそとまさぐり始める一体のMoomoo。

 その動きを見てすかさずマイキーが古木の幹に向かって身体を滑り込ませた。


「在った。情報通りだな。赤椎茸だ」


 マイキーの言葉に顔を輝かせる一同。

 倒れた古木の幹に繁殖した苔と一緒にそこには淡い紅色をした美しい見目の椎茸が大量に繁殖していた。

 今食事に夢中になるMoomooの横でその赤椎茸を一つずつ根からもぎ取りマテリアライズして行く三人。


「何か楽しいかも」と、そう笑顔で呟くアイネ。


 だが彼女を小馬鹿にする者など存在しない。大自然の中で生活する上でのその共同作業は現実では味わう事の出来ない貴重な体験に他ならない。

 その数、合計二十五本にも及ぶ大量の椎茸を入手した三人は今Moomooに向かって丁寧に挨拶をして背を向ける。


「ありがとなMoomoo」


 美しい大自然の生態系の中には、そこには確かな食の繋がりが存在した。


▼次回更新日:6/5

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