S15 調査予定
マイキーとジャックが村へと戻った頃、既に予定の時間を過ぎPBの時刻はPM3:00を大きく回っていた。二人は謝罪をするつもりでアイネと合流し、そこで彼女から驚くべき事実を告げられる事になる。
二人がGrande Rock Piasの調査に向っている間、村に残された彼女は暇潰しも兼ねて一人でクロットミット狩りを行っていたと云う話だった。上空を飛んでいる僅かなクロットミットを一人で狩っているうちに次第に彼らの生態行動のコツを掴み、一人でなんと約十五匹以上。Lv2のソロでクロットミットを討伐した時に得られる経験値が『4』である事を考えると、彼女が入手したその総経験値は『60』以上にも及ぶ。
――ごめんね。Lv3になっちゃった――
彼女が告げたその言葉はマイキーとジャックにとってGrande Rock Piasと同等か、それ以上の衝撃となったのだった。
だがよくよく彼女の話を聞いてみると、彼女は何も抜け駆けをして皆の和を乱そうとして行った行動では無い。三人でクロットミット狩りを行った場合、常に経験値には『4/3』でつまり『1』の余剰値が出る。これを解消するためにアイネがパーティから抜け、クロットミット狩りを誘導する役を引き受ければ狩りを効率化できるのではないか、という彼女からの提案だった。二人でパーティを組んだ際に得られる経験値は『4/2』。つまり三人で狩った時と比較するならば単純に二倍の効率を得る事が出来る。
結果として、アイネからのこの提案は三人にとって最高の好循環を齎した。
クロットミットの釣り場をいつの間にか熟知したアイネが誘導してきた獲物を断崖の窪みからひたすらに狙い撃ちするマイキーとジャック。
その日の狩りはPM4:03からPM6:48まで。たった三時間弱の狩りにも関わらず討伐した獲物の総数は三十匹を越え、いつしか獲物の狩り役を務めていた二人もまたレベルアップの視覚効果に包まれていた。
この世界ではたった少しの工夫を施すだけでその経験値効率が大きく変化する。それは狩場の変更、狩りを行う上での役割の調整など。今回で言えば、パーティの組み方を変えただけに過ぎない。
見事全員がLv3へと到達したこの日、三人はこの上無い充実感に浸りながら村へと引き返したのだった。
いつものように藁々で一浴びして身を清めると、レミングスの酒場で夕食を摂る。
柔らかなランプの光を受けながら、マイキーは今日見たあのGrande Rock Piasの話をアイネに聞かせていた。
「行った価値は充分あったよ。また謎も増えたけどな」と黒斑鳥の唐揚げを一口齧るマイキーの言葉を聞きアイネが羨ましそうに声を上げる。
「私もあのまま行けば良かった。そんなに凄かったんだ」
そんなアイネの反応にジャックが「あの道はお前には無理だろ」と言って上機嫌にビールを飲み干す。
「でもまた余計に分からなくなってさ。三つ目の開拓言語のGrande Rock Piasって結局何を指してるんだあれ。あの侵入不可の洞窟の事指してるのかな。だとしたら、あの洞窟の侵入条件って何だ。それがあの他の開拓言語が示してるのか。というかそもそも開拓言語ってまだまだこの島に転がってるのか。何か現地行ってみれば何かしら閃くかと思ったんだけど、ますます意味分からなくなった」
そんなマイキーの愚痴めいた呟きを面白そうに聞き流すジャック。
「お前でも混乱する事ってあるんだな」
愉快そうに笑い声を漏らすジャックにマイキーは「ほっとけ。ってゆうかお前も考えろよ」と言葉を投げ掛けビールを口に含む。
「何か今日緑園の孤島行った時、違和感あったんだ私。あ、話変えてごめんね」とアイネの呟きにマイキーが視線を彼女に振る。
「違和感?」
「うん、何か初めてあの島訪れた時と、何かが違うなって感じたの。それが何かは分からないんだけど」
アイネの不可思議なその言葉にジャックが神妙な面持ちで呟く。
「単純に位相がずれてたとか、じゃないのか」
「位相がずれてても、サーバーが用意したその内容は一緒だから中身は一緒さ。変わるとすれば中に居るプレーヤー達だ。それがアイネの違和感に繋がった可能性はあるけど、何か他に理由があるのかもな」
マイキーの言葉にアイネは自らの違和感の根源を探るように頭を捻っていた。
「情報サンキュ。アイネの感覚は何かと役立つからな。参考にさせて貰うよ」
マイキーの言葉に笑顔を見せるアイネ。
それからマイキーは静かに今後の動向について語り始めた。
「今後の動向だけど、予想を上回るペースでLv3に為れた事もあって。本格的に緑園の孤島の調査に乗り出そうと思う。そろそろシムルーの討伐も考えて行きたいし、サーチクエストの神秘の洞窟の場所も合わせて調査したい。予想ではこのどっちかにあの開拓言語が絡んでるんじゃないかと僕は思ってるんだけど。謎が解けない以上は足を使って現地調査するしかない」
「まだ島の西部と北部って行ってないよな」とジャックの言葉に頷くマイキー。
「とりあえずは明日は海岸線沿いに洞窟が発見されたって云う北部の調査に行こうと思ってる。さっき調べたら同じような洞窟が西部にも発見されたっていう報告があってさ。これで南北西の計三箇所で発見報告が挙がった事になる。もうこうなったら一つ一つ調査して潰していくしかない」
マイキーの言葉に二人が頷くと、彼はさらに言葉を続けた。
「明日から現地でキャンプする事も考えようと思ってる。だから個人的に必要になる道具を今日後で道具屋行って買っといて欲しい。テントとかさ。一番安いので50ELKの使い捨ての三角テントが売ってたから。それでいいと思う。その他必要になるキャンプ用具一式は自分の方で揃えるから」
「テントって事は野宿か。いいなそういうサバイバル」
ジャックの言葉にアイネは一言「お風呂は……」と呟いて発言を引っ込めた。
この世界では基本的に身体が汚れる事は無い。そもそもこの世界では身体から排出という機能が削除されている。唯一残されているのは発汗作用のみだが、それすらも表面的な演出に過ぎず、装備によって汗が蒸れるといった現象は発生しない。
だが、この世界がリアルであればリアルである程、理屈では分かっていても頭ではその現象を恐れてしまう。女性であれば尚更だ。
マイキーはそんなアイネの心情も少なからず理解しているつもりだった。自分自身、汗ばんだ身体を放置して置くのは何となく気が引ける。
「島の西部に淡水の綺麗な湖があるらしいんだ。最悪、そこで水浴び出来るけど。問題なのは宿と違って、人目に触れる場所って事だよな。他の冒険者に見られる可能性がある」
「それなら大丈夫。下着姿で入るから」
アイネの言葉にマイキーは微笑すると皆への今後の動向の確認をそこで終えた。
▼次回更新日:6/2