表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
168/169

 S7 自己投射戦

 鏡の中から現れた人物は紛れも無い、その指先から表わされた姿形は誰よりも彼が熟知している。

 だが映し出された微笑は絶えず皮肉を吐いていた。

「誰よりも知っているなんて。本当にお前は自分の姿を見た事があるのか。お前が見た事があるのは鏡に映った自分の姿だろ」

 人間は皆生まれてから死に絶えるまで、自分自身の本当の姿を知る事なく死んでいく。

 自分の本当の姿を瞳に映し出せるのは他人だけだ。

「もし鏡が真実を歪曲させていたら、他人が見る自分が鏡とずれていたら? そんな事は杞憂さ。何なら鏡に映った自分を他人に比較して貰うかい? お前が抱えている問題なんてその程度、微々たる事なんだよ」

「お前は誰だ?」

「僕はお前さ。今更だな」

 刹那、突き出したバーダックナイフの刃先が互いの額の薄皮を捉えて静止する。

「言っただろ。僕はお前だ。考える事も為す事も、全ては同じなんだよ」

「認めないね。お前は僕じゃない」

 破壊の衝動がガラス破片を舞い散らせる。振り回された毒刃が周辺の鏡を砕き、キラキラとした輝きを宙に漂わせる。

「よく言ってたな。キラキラ舞う輝きが好きなんだって」

「違うね。それはお前も分かってるだろ。それは心の問題さ」

 刃の交錯と共に、二人のマイキーは大きく間合いを取り構える。

 胸元から立ち昇る輝きがスティンガーバイトのダメージを物語っている。

「お前は自己否定そのものを否定したがる、だからお前はまだ何も分かってない」

「僕が否定したいのはお前の存在そのものだ」

 突きつけられる刃のように研ぎ澄まされた言葉の数々。

「自己否定を含めて、全てがお前そのものなんだよ。毒を吐くお前も、慈愛に感化されたお前も、自己を否定するお前も。全てが全部ひっくるめてお前自身なんだ」

「当たり前の事を語って楽しいか? 自分が何を内包しているかくらい薄々は気付いてるさ。だけどな、僕の理性が一つだけ確かな事を訴えてる」

「そうか、この機会に一つだけ僕からも伝えておこう」

 視線で謎かけの答えを促し合うマイキー。

「お前だけは僕じゃない」

 言葉が重なった時、衝突と同時、再び破砕された硝子片が宙を舞い始める。

 狙った攻撃は全てが鏡映しに跳ね返ってくる。笑える。

 本当にお前は僕の何から何までを真似した模倣者だ。だからこそ、お前とは相容れない。

 微笑する二人のマイキーは互いの感情をぶつけ硝子片へと変える。 

「不毛な争いだとは思わないか」

「思わないね、それともお前にはこの戦いの終焉でも見えてるのか?」

「さぁ」

 ふわりと舞う言葉が酷く虚しい。

「終焉があるならば、僕達の存在は無意味だとは思わないのか」

「何が言いたい?」

「哀れなお前に真実を教えてやろうと思ってさ」

 一人のマイキーが刃を止める。

 だが片方のマイキーに容赦は無い。迷う事無く飛び込んだ自身の胸元目掛けて刃を突き立てる。

 模倣者の表情に滲む苦悶。

「攻めきったな。確かにお前にはその力がある。だが無意味だ。刃を止めようが半身を生かそうが殺そうが全ては描かれている。お前も薄々気付いているんだろう」

 落ちた膝。吹き出る大量の光芒を抑えながら、模倣者は高笑いを始める。

「誰に描かれてるって?」

 当たり前の事を聞くな、模倣者の瞳がそう語っている。

「お前自身だよ」

 砕け散った模倣者の破片が頬を掠める。

 風も埃も舞い上げず、もう一人のマイキーはこの世界から姿を消していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ