S3 表層心理
迷宮は不可思議な高揚感を呼ぶ。神秘的な光景に酔いしれる事で、自らの理想の末端に触れる。
ここが僕の理想なのか、そんな問いかけにマイキーの中で自己否定が始まる。神秘で理想を説く、美しさから生み出された世界が自らの理想なのか。いや理想には為り得る。だけど、それが全てでは無い。ならば彼は何を求めているのか。
表面的なんだよ、お前は――
その言葉を浮かべた時、周囲の景色は変わっていた。
気付けば後を追っていた筈の仲間達の姿が消えている。
彼らは一体どこへ消えたのか。何故僕は一人なのか。
後を絶たない問いかけの答えを諦めた時、彼は考える事を止めた。
空気中に漂う光のレンズには虚ろな蒼顔が映し出されている。
それが自分自身だと気付いた彼は自らの頬をそっと撫でる。
「こんな顔してるのか、僕は」
そう、それが君の顔。
認めたくは無い。だが認めざるを得ない。
いつの間にか、迷い込んだ不可思議な世界がただ感傷的へと心理を追い込んでいるに過ぎない。
「僕は認めない。僕は僕だ」
でも、僕はここにいる。
浮き彫りになったコンプレックスが突如として牙を向く。
僕は今誰と話している。何だお前は誰なんだ。
だが問いかけに返答は無い。
怖いと思った事はある。だが認めれば硝子のように脆い心はバラバラに崩れ去ってしまう。
キラキラ舞う輝きが好きなんだ。
僕の中で話すの止めろ。
知ってる。
僕はお前の存在を認めない。
止めろ。
壊れそうなほどに打ち震えた声が漏れた。
光の階段が粉々に砕け散った時、マイキーの身体は塔の中を落下していた。
シャボン玉のように美しい光膜に包まれて――
残ったのは砕け散った心の破片。その欠片を拾い集める彼が意識を取り戻した時、眼前には果てしなく聳えた巨塔と天使の門が映っていた。