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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
162/169

 S1 心天秤

 空を舞う鳥々にとって雲より高みに映る存在は気高き山峰の他に無い。

 それは彼らが経験の中から伝承してきた自然則である。

 大地の理に従うならば、仮に自然を凌駕する存在が現れたとしたら、それは必ず自然の中から生まれる。決して作られた存在では無い。そこには何人の意思もあってはならない。自然則とは神の理なのだ。

 羽ばたく事も忘れて放心する鳥々は当然のようにその理を受け継いでいる。 

 西の空に映える白亜の塔。遥か空の高みを舞う鳥々が見上げる塔の尖頭は、層雲に覆われ姿を隠していた。 


「夢か現実か。この場合、目の前に存在する光景の真否をどう捉えりゃいいんだろうな」と空を仰ぐジャック。

「見た通りでいいんじゃないか。大体ここが仮想世界なら全てが幻の可能性だってあるんだ。僕らは長い夢を見ているだけかもな」と答える者はマイキーだ。


 肉眼で捕捉する限り、高さ数百メートルを越す白き巨塔。

 バスティアの大地に突如として出没した建築物は冒険者達の間で出回る噂によると、朝陽と共に現れ夕闇に消えるという。

 まるで幻のように現れ消えるその様子からこの謎めいた塔にはある通り名が付けられた。

 それが――蜃気楼の塔である。


「この世界で不思議な事はたくさん見てきたけど、まだまだ驚かされるって事ってあるんだね。何ていうのかな。上手く言葉に出来ないんだけど、こんな不思議な光景に出くわした時、僕まるで宇宙に漂ってるような感覚になるんだ」


 茫然自失とする少年は何を想うのか。


「タピオの言ってる事、私分かるよ。何とも言えないような精神的な浮遊感でしょ。この世界に存在しながらも、まるで夢を見ているみたいな気分」とアイネが共感の意を示す。


 二人の感覚は酷く抽象的、だがその感覚にはマイキーにも覚えがあった。

 得体の知れない超越的な神秘に触れた時、まるで神の領域にでも触れたかのような錯覚に陥る事がある。事実としてはまるでそれは意味を持たない。ただそういう気分になると言い換えてもいい。

 だが、アイネの云ったその精神的な浮遊感が酷く心地良いのだ。

 夢と現実の狭間で揺れる自身が乖離して行く。

 自分自身が二つに分かれて行く。この感覚はきっとマイキー独特のものなのだろう。

 そして、彼自身誰にも理解されないであろう事は分かっていた。 


「この巨大な塔の頂上に、一体何があるんでしょうか?」

「それが今回の依頼内容ならば、今ここで問い掛けるだけ無駄な事だとは思わないのか」

「身も蓋も無い事言わないで下さい。でも不思議に思いませんか。こんな非常識的な建築物を一体誰が何の目的で建てたのか」


 つまるところ、どうでも良かったのかもしれない。

 ナディアの疑問に対して、マイキーの見解は曖昧だった。


「さあ、それこそ。神のみぞ知る……ってヤツじゃないのか」

 

 今はまだ見えない。ただそれだけの事なのだ。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

 ▼期間限定クエスト

◆―――――――――――――――――――――――――――◆

 ○蜃気楼の塔(推奨Lv1~:難易度★☆☆☆☆)


 バスティアの空に突如現れた白き巨塔。今回の依頼では他でも無い。君達には謎に包まれたこの塔の調査に当って貰いたい。取り急ぎデトリックの郊外から、現地へと向うクラフト・ローラーを手配しておいた。君達がまだ現地に赴いていないのであれば、始めに断っておこう。塔は実在する、と。朝陽と共に現れ夕闇へと消えるこの不可思議な塔は紛れも無く実在するのだ。その真偽は現地に赴いて直接確かめるがいいだろう。君達にはこの塔に登り、最上階を目指して貰いたい。健闘を祈っている。以上だ。

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 街では既に依頼を受けた冒険者達が次々と現地へと向っている。

 デトリックを騒然に巻き込んだ神秘に当然ながらマイキー達も興味が無い訳ではない。

 だが、相変わらずのうすらとんかちぶりを見せる惑星開拓局員の言い回しにむかっ腹が立っていたのも事実だった。まるでお願いの仕方を覚えた子供のように頭に思い浮かべた疑問に片っ端から調査員を派遣するそのスタイルには今更ながらに反感も募る。


「相変わらず、開拓本部の当局員とやらはお気楽なもんだ」

「依頼者のレベルで物事を考えるから、話が迷宮入りするんだ。大体こいつらには美学が無い」


 ただ浅はかな思惑に振り回される事は癪に障る。一見暴言のように思えるマイキーの発言に対してジャックは理解的だった。

 現実的にはそこに美学があろうが無かろうが依頼があれば冒険者は動く。

 物事を肯定から入るのか、それとも否定から入るのか。それは場合によりけりだが、その選択をマイキーは思い悩んでいた。

 だが仲間達は肯定的だった。タピオに肩車をされて見惚れるキティのその純粋な瞳の輝きを見ていると、否定など馬鹿らしくも思えてくる。

 巨塔の存在を確かめる為に、現地の調査に行く。そんな単純な物の考え方のどこに異論を挟むというのか。


――マイキー、お前は今一体何を考えている?――


 そんな自問さえもが今は妙に虚しい。

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