【Epirogue】テトラの決意
楽しいホームパーティーも過ぎ去った翌日。
その日も一日をMarshe nes Abelの仲間達と行動を共にしたテトラは、買出しの為にスティアルーフへと出掛けた女性陣に残され、マイキーと共に店の中の在庫をチェックしていた。
この日テトラはある想いを胸に時を過ごしていた。何の気なく接するマイキーを前に少年は切り出しの言葉を抱えたまま、ただ時を見計らっていたのだ。
「今日も売上はそこそことは云え、平坦な一日だったな。テトラ、暇なら利益計算手伝ってくれるか?」
「はい……あのマイキーさん。お話があるんですけど」
唐突な切り口に加え、まるで一大事を秘めたような真剣なテトラの表情に困惑を浮べ微笑するマイキー。
「何だよ改まって。とりあえず言ってみな」
「あの。ボクを……ここで働かせてくれませんか」
少年が告げた言葉。
Marshe nes Abelで店員として働きたい。彼はそう言ったのだ。
「働く……ここで?」
昨日今日で余りに急な心理の変化と、その決意にマイキーは戸惑いを隠さない。
「ボクは馬鹿だから。この世界が理想でないと決め付けて引退まで決意しました。だけど、この数日間、皆さんと一緒に過ごして……ボクは気付いたんです。これがボクの理想だって。皆さんと一緒に過ごすこの数日間がボクにとっては理想だった。とても我儘なお願いだとは思います。でも、ボクはもっと皆と一緒に居たい」
少年の純粋な想い。だがマイキーにとっては軽返事で答える訳にもいかなかった。
「困ったな。基本的に僕らも店には在庫補充するだけで留守にする事が多いんだ。店で働くっていってもあんまり仕事も無いんだよ」
「お掃除とか、出来る事は何でもします。だからお願いします」
テトラの想いは痛い程に伝わってくる。
それに彼に関わった責任として、正直こうなる事も予想出来なかった訳では無かった。
「顔を上げな。お前の気持ちは分かったよ」
瞳を閉じて思索に耽るマイキーをテトラはただ祈るような瞳で見つめていた。
彼自身、自らの我儘は十二分に理解していた。
ただ、それでも込み上げる想いを自分で上手く抑える事が出来なかった。
「一緒に冒険って訳には行かないのか。戦闘が嫌いなんだよな」
「はい……我儘ばかり言ってすみません。ボクはここで皆さんのお話が聞ければ、それで幸せなんです」
仮に彼の懇願を受け入れるとして、共に旅もせずに、Marshe nes Abelの店員としてこの世界で働かせる事にはマイキーとして抵抗が在った。彼が求めているのは人との温かい触れ合いに他ならない。
今後デトリックを長期間離れる事も考えられる上で、彼が望む理想が成立し得るかは疑問である。だからといって、ここで彼の想いを捨て置く事も出来ない。
葛藤の末に辿り着く答えは、初めから決まっていた。
「掃除や在庫の補充だけじゃつまんないだろ。何か、他にもこの世界の楽しみ方見つけないとな。まぁ、仕方無いな。一緒に探すか? 僕もお前の理想の一端に含まれてるなら責任あるからな。まったく」
「ありがとうございます」
受諾の言葉にテトラの表情が輝く。彼の表情はこの数日間で見たこともない程の笑顔に染まっていた。
そんな折だった。ジャックと共に夕食の買出しへと出掛けた筈のタピオが一足先に店へと戻ったのは。
「ジャックはどうしたんだ?」
「外で煙草吸ってから戻るんだって。ねぇ、それより笑顔で何の話? 僕も混ぜてよ」
興味津々といった様子で二人の元へ歩み寄るタピオ。
「お前には関係ない……って訳でもないのな」
「え、何なに? 笑ってちゃわかんないよ」
マイキーの葛藤を微塵も知らず、理由を求めるタピオ。
「お前もこれから責任持てよ。厄介者が一人増えるぞ」
「もしかして……それって?」
その言葉に、テトラと顔を見合わせたタピオの表情もまた輝く。
「ジャック呼んで来い。食事にするぞ、タピオ、テトラ」
店の外へと駆け出していく少年達は笑顔に包まれていた。
赤焼けの荒野には夕陽が今沈んでいく。
――それは終焉……そして始まり――
▼重要なお知らせ
いつもARCADIAをご覧下さりありがとうございます。
この度は本作について重要なお知らせがあります。
第十章『蜃気楼の塔』は既に着手させて頂いているのですが、第九章の本話をもって一時更新を中断させて頂きます。
理由については隠してもしょうがないのですが、とある公募への応募を決意させて頂きました。
公募に合わせてちょこちょこと作品を直し、結果として大幅な作品の再編成に成功し規定枚数内に収める事ができたので、この度の経緯となりました。
願わくば商業誌としてより洗練された形での再連載を遂げたいのですが、意外に復活は早いかもしれません。これは私の悲観的観測なのですが、復活が早ければ早いほど、早く落ち○という。落ちを隠さずして何を隠すのか。
つまりは一次落ちすれば相当早く戻ってくる、見込みです。
その時は、容赦無い烙印が押されて戻ってくる事になりますが、私はきっと何くわぬ顔をして連載を再開する可能性があります。
その節は皆様の優しさに期待します。というのは冗談ですが、いやあながち冗談ではないですね。ここまで支えて下さった読者の皆様には心から感謝しています。
私が背負うリスクと言えば、ここで公言する行為に対して恥の上塗りなので安いものなのですが。信用だけは一度失っては取り返せません。
もし万が一、公募を通った場合、本作ARCADIA ver2.00、及び旧作ARCADIA ver.openβ、パピィとククリの大冒険。こちら三作は全て小説家になろう様から削除させて頂く事になります。
また公募期間中についても、作品の掲載は不可です。
なので、こういうのをとらぬ狸の皮算用と云うと思うのですが、二月一杯でARCADIA関連作品を検索から除外させて頂きます。
もし、その間に作品をご覧になりたい方がいらっしゃいましたら当該作品のPDFを必ずバックアップとして保管下さい。
手前勝手な経緯で大変申し訳ありません。
どちらにせよ、連載の再開は確実にお約束させて頂きます。
三月以降は代わりといってはなんですが、新連載として始めたWorld Creation Onlineを書き進めて行きたいと思います。
こちらはARCADIAと同様にVRMMORPGをテーマにした作品になっています。
ただ、ARCADIAとは一風変わったシステムなので始めはとっつきにくいかもしれません。
世界創造RPGと呼ばれるプレイヤーが惑星の神となり、実際に世界を形作って行く物語です。
何分、急なお知らせとなりましたが、ご理解頂ければ大変幸いです。
本作の再開は現状未定ですが、早く連載を再開したいようなしたくないような正直複雑な心境です。
願わくば一矢でも報いて、戦った軌跡を残してきたいところではあります。
あまり多くを語ると後がみじめなのでこの辺りで。全力で攻めてきます。
また本作でお会いする時まで!
最後に読者の皆様、ここまで支えて下さり本当にありがとうございました。