【Epirogue】ゼラニュームの花下で
互いに旅人という立場を採る以上、出会う理由もあれば別れる理由もある。
ウォールズの港でナディアと向い合うマイキー達もまた旅人として、成り行き上の一つの終焉の形を迎えようとしていた。
ミクノアキャットの柔かな毛皮に、露店で購入したブラックビープと呼ばれる水獣毛の外套を羽織ったマイキーは早朝の外気に白い吐息を撒き散らす。仲間達も皆、暖を取る為のオーバーコートで身を包めて居た。
「お前、これからどうするんだ。目的は果たしたんだろ?」
「これからは、ゆっくり世界を旅して回ります」
冷たい外気に素肌を晒したナディアの浮かない返答に怪訝な表情を見せるマイキー。
「一人で、か? 仲間はもう皆退会していないんだろ」
「ええ、だって。それは仕方ないもの」
互いの吐息が宙に舞う。キラキラと輝く白息は互いに一つと為りながらも交わる事は無い。
煮え切らない彼女の回答に、歩み出る二人の影。
「これから明るい未来が開けるって時にシケた面すんなよ」
「そうだよ、ナディアは笑った方が可愛いよ」
微笑みかけるジャックとアイネの笑顔にナディアの表情はどこか沈んでいた。
「あたし……今笑ってないのかな」
そんな彼女の様子を見兼ねたマイキーが言葉を添える。
「始めは僕達は三人だったんだ。だけど気付けばいつの間にか、余計なのも増えて五人」
「マイキーさん、余計なのって……それ僕の事じゃないよね。信じてるから」
自己弁護に回るタピオを無視して、話は淡々と進められる。
「旅は少ないよりは多い方が楽しいってのは僕も最近認識したんだ」
マイキーの言葉に力無く微笑むナディア。
「そうですね……あたしもまた素敵な仲間を見つけられるように頑張ります」
やり切れない彼女の感情は未だ行き場を求めているのだろうか。
財宝が泡と消えた今、彼女の指先に残された水宝石だけが悲しげに光を放っていた。
「何だよ、つれねぇなその台詞は。まるで目の前の仲間を見捨てるみたいな言い草だぜ」
「そうだよ、私達、あんな苦しい戦いを一緒に乗り越えたじゃない」
ジャックとアイネの言葉の意図が読めずに当惑するナディア。
まるで自分を責めるように俯き小声で呟く。
「え……だって。あたしは……あたしのせいで皆あんな酷い目に遭ったのよ」
「別にお前のせいじゃないさ。完全に不可抗力だったんだろ。疑って悪かったな」
ジャックの軽い謝罪に、マイキーがその横腹を肘で小突きながら言葉を捕捉する。
「後で、連中にはGMを通してきっちり請求書突き付けてやるから安心しな。あんな無計画な暴挙を野晒しにする程、僕もお人好しじゃないんでね」
場に乾いた笑いが漏れると、自然心の内が温まったような錯覚に捉われる。
いつの時も、笑顔という存在は人の心を温める不思議な作用が有る。
「なんか論点すり替わってるけど、お前の気持ちを聞いてるんだよ。僕達に付いてこないか。勿論、強制じゃない。ただこの先行く当ても無いんだろ?」
会話の核心に迫ったマイキーの言葉にその表情を上げ、当惑するナディア。
そんな温かい言葉がまさか自身に掛けられるとは夢にも思っていなかったのだ。マイキー達をあんなに危険な目に合わせた罪悪感を背負った彼女にとってそれは有り得ない選択肢だった。
「罪の意識なんて感じる事ないよ。おいでよ、ナディア。色んな世界を一緒に体験しよう」
アイネの言葉に自然とナディアの両の瞼から温かい涙が零れ始める。
彼女の表情が美しい銀の前髪で覆い隠されると、アイネが彼女の元へと歩み寄りその肩を撫でる。いつの間にかナディアの沈んだその左手にはキティの小さな手がぴったりと添えられていた。
「嬉しい……ありがとう」
旅は道連れ。仲間が増えれば喜びもまた増える。
始まりは一つの出会いから。互いの歩む直線が交わればそこに点として出来事が生まれる。全ては一瞬、広がれば永遠になる。
運命の形とは時に必然では無く、偶然の産物だとマイキーは考える。人の出会いが一期一会だと云うのならば、彼女との出会いもまた必然であり偶然でもあるのかもしれない。
今この出会いに感謝して、また新たな仲間とまた一つの大きな団塊として。これからまた軌跡を描いて行くのだろう。
大切なのは出会う人々への思い遣り、それはウォールズの窓辺に掲げられる花々が意味する言葉だ。それがウォールズという街が誇る美観でもある。
ほのぼのとした人間模様が浮ぶ穏やかな街角には、今日も美しくゼラニュームの花が添えられていた。
第七章 了
■第七章を終えて
第七章、ご覧下さりありがとうございました。
財宝探しもいいですね。色々語りたい事は多いのですが。
眠いので止めておきます(笑)
全然脈絡ないですが、グーニーズのDVD買おうかなぁ。
また見たくなってしまった。