表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
141/169

 S8 VS Waldigazm

 洞窟の奥闇に向う蛮人達の足取りには周囲への警戒が含まれていた。

 事実として洞窟の奥に財宝が存在するならば、そこに素裸で晒されているだろうか。答えは否、何かしらのトラップが隠されていると考えてまず間違いはない。

 その一つが財宝を守る守護聖獣という存在に他為らない。襲撃前の事前の会話から情報を盗んでいたブルドーの周到さは賞賛に値するものだろう。

 青闇を貫いた行く果てで、足を止める蛮人達。


「断末魔の悲鳴が鳴る頃か、哀れなもんだ。ここが例の場所か」


 巨大な水晶鉱石に囲まれた異質な空間。曇り硝子のようにぼんやりと透けた外壁はまるで深海のような暗闇に包まれている。空間を照らす明りは遥か頭上から降り注ぐ僅かな陽光。水晶の層を乱反射を重ねながら辿り着いた薄明りが奇妙な照明空間を創り上げている。

 足場には幾多の円形の水穴が並び、その一つ一つの大きさは半径二メートル程、挟まれた足場はそれぞれ一メートル程の幅は有しているように思われる。

 勘の良い冒険者であれば、この様相が何を示しているかは容易に想像がつく事だろう。

 ここが特殊なバトルフィールドで在ると云うならば、戦いは近い。ブルドーとその一味は確かに来る戦闘の匂いを嗅ぎつけていた。


「どうして……あんな酷い事を」と突き刺すような鋭い眼差しを向けるナディアに、愉快気に湿った笑いを漏らすブルドー。

「戦意喪失した割には敵意満々といった面だな。悪人に正義を語らせるのか? 片腹痛いわ」


 突き放すブルドーに対してナディアは引き下がらない。


「GMが黙ってないわよ。彼らは必ず通報する。こんな無計画なプレイヤー狩りがまかり通ると思ったら大間違いよ」

「それが、どうした。連中がGMに通報すれば俺達はより残酷な粛清を与える。どんな手を使ってもだ。基本的に世界ってのは善人よりは悪人に有利に作られているんだ。誰も止められやしねぇさ。GMが動けるのはあくまで事後だ」


 だが、悪人には悪人の正義が在る。その理屈は、ナディアにとって到底理解の及ぶ領域では無い。

 ブルドーが語る言葉の一つ一つが激しい嫌悪の対象だった。紡がれる言葉は、対極の魂に基づかれた悪人の信条。

 もはや、会話さえ無意味。失意の果てにナディアが言葉を失い水晶空間の中央へと歩んだ時、その言葉は背後から掛けられた。


「世の中は善人よりは悪人寄りに作られてるか、その点においては同感だな」


 掛けられる筈の無い言葉。有り得ない希望に心を揺り動かされたナディアに対して、存在する筈の無い死人の言葉に振り向いたブルドーの表情は禍々しく歪んでいた。


「貴様等……どうやって?」


 方法論だけを求めた端的な問い掛けに、マイキーもまた結論だけを返す。


「浄架石さ。この洞窟の地層の到る所で見られるこの鉱石には解毒の作用がある。砕いた粉末を水に溶かすだけで血清になるんだよ」


 彼の手から放り投げられた青紫色の鉱石が音を立てて、水穴の一つへと沈む。


「死人が上手く命拾いしたもんだな……ところで一つ解せないんだが」


 死人に言葉を掛けるブルドーの語り口が変化を帯びる。


「折角拾った命を以て何故貴様等はここに居るんだ? まさかとは思うが……報復に来たのではあるまいな。いや……我ながら実に馬鹿馬鹿しい考えだ。と、するとだ。貴様等が何故ここに居るのかが俺には理解出来ない」

「能書き垂れてんじゃねぇよ。その悪人面が涙で歪むところが見物だな」


 白々しい悪人の建前に、嫌悪感を剥き出しにしたジャックが歩み出てその本性に迫る。

 予想通り、ブルドーは即座にその荒ぶる本音を剥き出しに吼える。


「貴様等、五体満足で死ねると思うなよ」


 その時だった。突如として空間が微振動に包まれ始める。


「何、この振動!?」アイネがロッドを掲げて戦闘態勢に入ったその時は、揺れは地盤を大きく揺るがす程の震度にまで発展していた。無数に開いた水穴の表面が激しく揺れ、辺り一面に溢れた水飛沫が零れ始める。


「揺れ方が尋常じゃないよ。何かがこの洞窟の周囲を駆けずり回ってるような」


 タピオの言葉に曇った周壁の外側を見守っていた一同の表情が固まる。

 青色の鱗状の肌に、毒々しい黒の斑点。水晶空間の外周全体に撒き付いていたその不気味な皮膚が、ぐるぐると回り空間を締め付け、軋む音が立ち始める。


「悪人共の御託が化物の逆鱗にでも触れたか」流石のジャックも悠長な台詞回しを保つ事は出来ない。

「全員が互いに援護できる間合いを保て。離れるな」


 マイキーの指示が飛ぶと同時に、立ち昇る悲鳴。


「……うぁぁぁ!!!」


 立ち昇った水流が柱を象る。だがそれが柱で無い事はものの数秒で理解に及ぶ。

 青い鱗肌に黒の斑模様を浮かべた巨大な水蛇は、蛮人の一人を長く伸びた鞭のような二本の髭で巻き取ると、その鋭い曲牙で挟み込む。


「う……うぇ……ぁぁぁ!!」

「ゲルマ、くそが。何て馬鹿でかい。今助けてやる!」


 仲間の残されたもう一人の蛮人が、助けに身を乗り出すとブルドーがすかさず制止する。


「止せ、放っておけ。あいつはもう助からん」

「見捨てるのか!?」


 迷い無く仲間に背を向けたブルドーは、退路へと向って駆け出す。


「こいつは手に余りそうだ……出直すぞ」

「それは無理よ。逃げられないわ。この空間に一度踏み込んだら……誰も」


 冷たいその言葉を響かせたのはナディアだった。

 氷乙女とも思える彼女のその冷徹な視線の先には、立ち昇る水流で防がれた退路が。 


「なるほど、こいつを倒さなければ先にも後にも退けないって寸法か。性質の悪い仕掛けだぜ」


 苦笑するジャックにマイキーもまた迷いの無い言葉を告げる。


「選択肢が消えたならば迷う必要も無い。良心的じゃないか」

「命が懸かったこの状況で良く言うぜ。紅野以来の修羅場だな」


 危機迫る状況に憤りを隠さずに吠えたのはブルドーだった。

 退路を塞がれ、思い通りに事が運ばない現状が彼にとっては何よりも疎ましい。世界の主軸は常に自らが担っていなければ、他人に運命を翻弄されるなどあってはならない事なのだ。


「舐めた真似しやがって。上等だ。貴様等は手を出すな。俺が仕留めてやる。行くぞ、ガンスン!」


 呼び掛けられた仲間の蛮人が当惑気味に剣を構え後に続く。意気込んで、水蛇の前に走り込む二人の愚者は気付かなかったのだろうか。

 収束する水流の渦。それは脅威が進行している証。蓄積され凝縮されたエネルギーがウォルディガズムの口内で空気と触れ合い高圧的な魔法力が摩擦音を放つ、そうあれは葬風の谷の魔法結果のように。来るエネルギーの総力が計らずとも窺がい知れる。


「ヤバイ……皆、伏せろ!」


 マイキーの怒声が響いた刹那、一筋の巨線が空間を両断する。

 間一髪で屈めたその頭上を横切った水流は逃げ遅れたブルドー一味をいとも簡単に掬い上げると、そのまま水晶の外壁と巨大な衝撃音と共に叩きつける。訪れたのは静寂……


「ぅぉ……んな……ぁぁ……馬鹿な……」


 水晶壁には罅一つ刻まれていない。立ち尽くすブルドーの隣では、前のめりに倒れた蛮人が水穴に落ち漂い始める。驚異的な水流と固い鉱石の壁に挟まれたブルドーとその仲間は光芒と共に四散を始める。現象が示唆するのは、紛れも無く生命の終末。散り行く彼らの瞳は虚ろに、ウォルディガズムの姿を捉えていた。

 哀れなる悪人の末路、最後は言葉も無く空間に散った彼らはクリスタル化すると同時に消え去った。


「水のレーザーか。威力は即死級……これは冗談抜きでヤバイな」


 散り逝く悪人に対する慈悲などマイキーにとっては微塵も浮んではいない。今は自分達の身を守るだけで精一杯、数秒後には自らが連中の後を辿る可能性が有る。

 

「足元の水穴をランダムに移動してやがる。いい歳こいてモグラ叩きでもやらせる気か」


 水面下を睨み付けながら、前後左右に視線を振り立ち往生するジャック。敵の寸胴が水流との間に奏でる摩擦音はバトルフィールドのほぼ全域から上がっている。それは敵の巨大さを暗示すると共に、頭の位置が特定出来ない現状において、この上無い精神的負担と為る。

 その一秒後。空間の一点に巨大な水柱が立ち昇る。


「アイネ、キティ。後ろだ、避けろ!」


 縦薙ぎに振り下ろされた巨大な首が岩盤を打ちつける。一呼吸に救われたアイネはキティを抱き寄せながら水穴の間へと崩れ落ちていた。獲物を仕留めそこなった水獣は擡げた首をゆるりとひねり回すと、一つ飛ばした五メートル余り離れた水穴へとその頭から飛び込む。倒れるアイネとキティの眼前を滑り気のある巨大な寸胴が延々と横切ると、再び地盤下から轟々とした振動音が伝わり始める。


「どこ……どこだよ。これじゃどこから出てくるのか全然分からないよ!」

「落ち着けタピオ! 壁際に寄るんだ。敵の方向を限定しろ」


 弾けた水面は不幸の前兆。壁際へ向けて、一目散へと駆け出したタピオの身体を巨影が覆った瞬間、空間から彼の姿が消え失せる。再び轟々と鳴る見えざる湖底の徘徊に恐怖が浮き彫りに為る。


「タピオが……消えた。まさか、あの野郎……喰いやがったのか!?」


 タピオの名を絶叫すると同時に水穴に向って駆け出すジャック。普段であれば彼の肩を制止するところだが、この時ばかりはマイキーもそうは行かなかった。明らかな動揺を浮かべて水穴に駆け寄った二人の背後で水柱が立ち昇る。同時に現れた巨影の口元に、視線を釘付けにされた二人は武器を握り締めて、顳顬こめかみに血管を浮き立たせる。

 水獣の口元に噛み締められたタピオはピクリとも動かなかった。垂れた両腕から滴る水が地盤に辿り着くや否や、憤りを露にした二者の怒声が空間に木霊し、凶器が獲物の身体を抉りつける。

 水獣が苦悶の声を上げて、餌を口から投げ出すと、力尽きた少年の身体が水場へと崩れ落ちる。

 言葉も挟まず水中からタピオの身体を掬い上げたジャックは、壁際に走りアイネとキティの元へと運ぶ。


「全員マスクを装備しろ。今すぐだ!」


 塩水に濡れた赤銅の短剣で敵の皮膚を抉りつけながら、マイキーは素足で軽やかにジャンプする。

 水獣の頭頂から背鰭にそって一直線に切り下ろされたバロックナイフが大量の光芒を巻き上げる。ウォルディガズムの苦悶の一声と共に大きく振り回された巨首がマイキーの身体を弾き飛ばすと、再び敵の姿が水面下へと消え、恐怖の時間が訪れる。

 轟音が空間を支配した刹那、壁際に立ち昇る水柱。鎌首を擡げて、口を開いたウォルディガズムの狙いに気付いたマイキーが慌てて駆け出す。だが、もはや間に合わない。タピオの治療に当っている仲間達の表情には、はっきりと絶望の色が浮んでいた。

 傷付いたタピオを残して身を躱すという選択肢は残されていない。仲間達の決意は固い。事実、そんな危機下においてもキティは回復の手を止める事なく抱きつくように少年の身体を守っていた。


「何とも罰の悪い一日だな……ここは俺が死んでも食い止める。悪いが先逝くぜ」


 水辺で最後の香煙草を吹かしながら、苦笑するジャック。

 仲間達の前に身体を盾にするように張った彼の無防備なその姿に、マイキーが吼える。だが、その言葉はウォルディガズムの口に収縮する巨大なエネルギーの渦音に掻き消され、届く事は無かった。

 圧縮された高密度な水流が解き放たれ、巨大な線を描くと思われたその瞬間、仲間達の想いが弾け散る。

 ジャックの身体が水流に消え入るであろう瞬間、ある一人の人物が、迫り来る水流との間にその身を割り込ませる。


「ナディア……お前」

「盾は少しでも多い方が、いいですよね」


 力無く微笑んだ彼女のその表情はとても優しく、その意志は確かに傷付いた仲間へと向けられていた。

 もはや言葉は不要。二人の冒険者が覚悟を決めたその時、だがここでロッドから魔法を展開したアイネが彼らの身体を押し分けて水流迫る先頭へと歩み出る。


「揃いも揃ってあなた達……勝手な事言わないで!」


 轟く射出音。魔法障壁と放たれた水流が触れ合った瞬間、アイネのか細い身体が衝撃に揺れる。

 だが、彼女は崩れなかった。敵の巨大水流ウォーター・レーザーを真正面から受け止めながら、歯を食い縛って一人でその攻撃を凌ぎ切る。

 攻撃を受け止めると、彼女の膝が折れる。その身体をジャックがすかさず支えたところで、マイキーが現場に追いついた。着地を考えずに飛び上がった、憤慨を隠さない渾身の一撃がウォルディガズムの左目を抉る。そして、その場には同時に地を蹴ったナディアの姿があった。空中を軽やかに舞い回転しながら、手持ちの短剣で一閃。軌跡で刻まれた水獣の右目が陥没すると、ここで両眼を失い光を閉ざされたウォルディガズムが聞き苦しい程の悲鳴を上げる。

 その長い肢体を空間内に展開し縦横無尽に暴れ回るや否や、水穴を頭で捉えたウォルディガズムの身体が水中深くへと消えて行く。

 時間にして僅か数分。水竜喉を守る聖獣との死闘に暫し呆然自失とする一行。

 一体、この戦いがどんな意義を含んでいたと云うのか。この先へ進めば、その答えを得られるのだろうか。


◆―――――――――――――――――――――――――◆

 ▼シークレット・ボーナス

◆―――――――――――――――――――――――――◆

 ▼ボーナス条件

  Waldigazm 撃退に成功 >>1000EXP


 ▼内訳

 ・人数分散 1000/9≒111EXP (取得上限:300EXP)


 □Nadia

 ・Lvボーナス(基準値Lv10) 20%×3Lv=60Bonus%

 ・取得経験値 111EXP×(100+60Bonus%)/100=177EXP


 □Aine,Jack,Kitty,Mikey

 ・Lvボーナス(基準値Lv10) 20%×5Lv=100Bonus%

 ・取得経験値 111EXP×(100+100Bonus%)/100=222EXP


 □Tapio

 ・Lvボーナス(基準値Lv10) 20%×6Lv=120Bonus%

 ・取得経験値 111EXP×(100+120Bonus%)/100=244EXP


 ▼レベルアップ

 ・Aine Lv5⇒Lv7

 ・Jack Lv5⇒Lv8

 ・Kitty Lv5⇒Lv7

 ・Mikey Lv5⇒Lv8

 ・Nadia Lv7⇒Lv9

 ・Tapio Lv5⇒Lv7

◆―――――――――――――――――――――――――◆

 ■作者の呟き


 ウォルディガズム戦の通常クリアフラグは一定時間を生き延びる事で立ちます。シークレット・ボーナスはご都合主義の一環です。あったらいいなと。無断導入という強攻策に踊り出ました。この前のヴァージョン・アップで一個気付いた事あるんですが、Level Ajustの条件が難し過ぎる(苦笑)

 物語上、描く上でポンポンとレベルを上げていきたいところなのですが五人パーティーがレベル・アジャストを発生させるには、最低でもLv6以上離れたモンスターを狩らないといけないんですよね。ならば少人数パーティーで狩るかとなると、それも戦力的に厳しい。結局、達成する条件が至極困難であるという意味で、上級者向けのシステムという名目はクリアしたようにも思うのですが、ぶっちゃけた話私が使えなければ意味が無いんです(爆)もう少しマイキー一行のレベルが上がれば使うイメージが湧くでしょうか。う~ん……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ