S11 Local Net Work
クロットミット狩りは経験値以外にも思わぬ効果を生み出した。
通常クロットミットは二種類の素材品をドロップする。それが『黒斑鳥の羽』と『黒斑鳥の卵』である。
日没までの約三十匹弱の狩りを終え、三人が得たカードの総計枚数は羽が十枚、卵が三枚という結果だった。トライアングルハットで換金した際のその売却額は羽が35ELK、卵が102ELKという高額で取引された。総計656ELKの収入。一人当たり約220ELKの収入である。
資金は不足していたマイキー達にとって、これは思わぬ幸運だった。
得た資金を持って三人は一度藁々へと向うと、疲れた身体を温泉で癒しレミングスの酒場で夕食を取るのだった。
「レベルを上げながら、資金稼ぎが出来るなんて願ったり叶ったりだ。これは暫くクロットミット狩りで決まりだな」
マイキーの言葉に、ジョッキのビールを一気に喉に流し込むジャック。
そんなジャックの様子をアイネは呆れた笑みを向けながら、食後の蜂蜜ゼリーを口にしていた。
そんな三人の耳にふと隣のテーブルで食事を取っている冒険者達の声が耳に入ってきた。
普段なら他人の会話になど気にも掛けないが、彼らの話は興味深い内容だった。
「ギルドでさっき入ったこのローカルネットワークって、どうやって使うんだこれ」
「あんた馬鹿? そんなのも分からないの。どれだけ機械に疎いのよ」
男性を扱き下ろすかのような視線を向ける女性。
聞き慣れない単語に耳を引かれたマイキー達は自然とその話に耳を傾けていた。
「単純にPBからアイコンクリックすればフォームが開くから。あとはそこで見たい情報に検索掛ければいいだけよ。ただし、アイコンを開けるのはこの村に居る時だけ。村から出るとアイコンは消えるから。それだけ注意しなさい。分かった?」
説明的な彼女の口調にマイキーは苦笑を抑えながら、そのやりとりを見守っていた。
彼らが食事を終え席を立つと口々に呟き始める三人。
「尻に引かれるとはあの事だな」とマイキー。
「女の子、Elcetra Mizeryのボーカルに似てたね」とアイネの視線に「ビジュアルバンドにゃ興味無ぇよ」と首を振るジャック。
PBのモニターを確認しながらマイキーはホットカフェを一口含む。
そこには彼女達が話していたローカルネットワークとやらの情報は存在しなかった。
「確かギルドで申し込めるとか言ってたな。行ってみるか」
マイキーの言葉に今頷く二人。酒場は依然客足が途絶える事は無く訪れた冒険者達の笑い声に満ち溢れていた。
冒険者達の活気に溢れたレミングスの酒場を後にした三人はその足でギルドへと向う。
ギルドの巨大な囲炉裏の周りには夜だというのに、多くの冒険者の姿があった。薄暗い室内を点々と照らす蝋燭の明りによって、僅かに藁造りの天井が浮かび上がっていた。その一角に席を見つけ三人は腰を落ち着かせる。
折角だからと、マイキーは席に備え付けてある茶器に熱い茶を一杯汲み口元へと持って行く。
端末コードにPBを差込み、三人はモニターを開くとそれぞれの目的を探し始める。
「どの項目だろな。見たところそんな項目見当たらないんだけど」
ページの隅々までリンクを確かめながらその内容を確認していたマイキーはここでふとした事実に気付いた。開いたページの右端にはインデックスが張ってある。どうやらこの見出しによってページを切り替えられるようだった。存在するインデックスはそれぞれ『Quest<クエスト>』『Guild Shop<ギルドショップ>』の二項目だった。
「トップページで誘導しろよこれ。見落とすよ」
そんな愚痴を零しながら、もう一つの項目『Guild Shop<ギルドショップ>』をクリックするマイキー。
すると、そこにはここエルム村ギルドでの販売品目が表示された。
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■ギルド-Shop Menu-
○アナライズゴーグル 500ELK
○Personal Book カバー:白 300ELK
○Personal Book カバー:黒 300ELK
○Local Network<Access Point:エルム> 100ELK
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『Shop Menu』と英字で表示されたそのメニューの内容。クリックマーカーでレーザーポイントを当てると、選択した各項目には日本語で説明が表示される。マイキーが現在設定しているのは『和洋混在型』と呼ばれる表示形式だった。この形式をコンフィグで選択した場合、要所要所で表示される言語が最適な形で適用される。このゲームで推奨されている形式がこの型でデフォルト設定となっている。
それぞれの項目の説明を見ながら最後の項目で手を止めるマイキー。
そこには酒場で耳にしたあの単語が存在した。
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■Local Network<Access Point:エルム>
特定エリアにおける冒険者達の通信機能を拡張するために開発されたネットワークサービス。通常の更新手段であるメール機能に加えて、本Local NetworkのサービスではBBSとチャットを実現。なお、このLocal Networkにおける本アクセス権限はエルムの村に限定される。
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説明文を読んだマイキーは内容に目を通すと、キーボードを弾き悩む間も無くネットワークサービスに加入する。
オープンβの頃から情報を共有する際に、こうした掲示板の情報は貴重だったと云う。現実でも情報を集める際にはこうした掲示板を情報源の一つに置く事から考えても、このネットワークサービスに加入する事は有益だろう。冒険者間で情報を交換、共有する際には非常に有効なツールになる。
加入すると同時にモニター上に浮かび上がる新しいアイコン。
アイコンには『Local Network』と表記が為されていた。
今静かに画面を見つめるマイキーは徐に画面にクリックマーカーを近づける。クリックを受けたアイコンが微振動するとそこには真白な世界が浮かび上がる。その世界に現れたのは一本の羽ペンだった。
真白な背景を羽ペンがゆっくりと撫で始めるとそこには美しいエルムの村が線画として浮かび上がる。女神像の花畑の周りで戯れる子供達の後姿、その奥ではギルドが囲炉裏の煙を上げていた。その無色の線画が今緩やかに色彩を帯び始め、そこには鮮やかな映像が浮かび上がる。静止画だった光景は次第に動きを持ち、女神像を囲む花々は風にそよぎ、その前では笑顔の子供達が戯れ、村には真白な小鳥達が舞い降りては飛び立ち始める。
その映像の上部左側にLocal Networkというタイトルロゴが表示されていた。画面の中央部の花畑には白地の丸枠で囲まれた二つのメニューが表示され、それぞれ『BBS』と『CHAT』と記されていた。
画面に見惚れながらも、今BBSを選択しクリックするマイキー。
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Local Network
Access Point:エルム
●攻略BBS/●雑談BBS/●パーティ募集BBS/●その他
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掲示板は幾つかの種類にその内容が分類されているようだった。
『攻略BBS』『雑談BBS』『パーティ募集BBS』『その他』の四種類。その中からマイキーは攻略BBSをクリックしてその内容を表示する。
画面構成は到ってシンプルなものだった。検索キーワードとその条件を指定し絞り込みを掛ける。
検索を掛けたいキーワードはいくらでも在った。ただし問題は、その情報を提供している冒険者が居るかどうかだ。まだ正式サービスが稼動したばかり現段階で、このLocal Networkに加入している冒険者の数も未知数。だが、試してみる価値はある。
手早くキーボードを叩き始めたマイキーは検索キーワードに『緑園の孤島』と打ち込んだ。
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Local Network
Access Point:エルム
▼攻略BBS
検索キーワード:緑園の孤島[タイトル、本文]
〆新着順
検索結果:236件がHitしました
●シーフロッガーに勝てにゃぃ Pocketmonster(02/四天/火/14 20:36) 返信数:0
●緑園の孤島に向う目標Lv Mick(02/四天/火/14 20:24) 返信数:7
●同じ内容の乱立スレ禁止 Vagnam(02/四天/火/14 20:11) 返信数:11
●シーフロッガー対策 Pikeman(02/四天/火/14 20:03) 返信数:5
●巨木に刻まれた言葉 Cloton(02/四天/火/14 19:45) 返信数:4
●サーチクエスト『神秘の洞窟』 Rainy(02/四天/火/14 19:33) 返信数:6
●緑園の孤島で詰まった Arken(02/四天/火/14 19:21) 返信数:9
●シムルーの居場所 Rodo(02/四天/火/14 19:01) 返信数:18
●洞窟が見つかりません Aaaaa(02/四天/火/14 18:42) 返信数:10
●漂流物について Zefer(02/四天/火/14 18:27) 返信数:5
□次の10件へ(236件中-11件目から)
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表示された十件の中からその内容に目を通そうとクリックマーカーを翳したところで、ふと隣に居たアイネがマイキーの肩にそっとその顔を乗せてPBを覗き込む。
「何見てるの」と紅い瞳でマイキーに問い掛ける。
「さっき酒場で話してたLocal Networkって奴さ。ギルドのショップメニューから買える。興味があるならアイネも買ってみな。100ELKだからちょっと高くつくけど、まだ中身も見てないから何とも言えない」
マイキーの言葉にほろ酔い気分で白い頬を紅潮させたアイネは首を振ると、微笑して呟く。
「私、難しい事は分からないから。マイキーに任せるよ」
そう微笑み、その身体を完全にマイキーに預けるアイネ。
マイキーは無表情に彼女の身体を受け止めると、静かにPBを閉じる。
「ここじゃ、ゆっくり情報検索も出来なそうだな。後は藁々でゆっくり調べるか」
寄り掛かるアイネの身体を無視して、立ち上がったマイキーはジャックへと視線を投げる。
「起きろよジャック。藁々へ戻ろう。こんなとこで寝るなよ」とマイキーの言葉に目を覚ますジャック。座ったまま大きく背伸びをして欠伸を見せた彼はゆっくりと辺りを見渡す。
「ここ囲炉裏で温っかいから眠くなっちってさ。寝るには最高だ」
「程ほどにしとけよ」と苦笑して出口へ向うマイキーの後を追うように立ち上がる二人。
ギルドで得た新たな情報源。それは三人にとってどんな変化を齎してくれるのだろうか。
▼次回更新日:5/27