【資料】Clock Herbelkの手記
・天世五十六年 泡源の月 二十三
――天命を以て宿命を全うす
限られた命は短い 此れが我が心の全てで在る――
恐らくは本記にて此の手記も終ろう。我が人生に後悔は無し。
ヘブライの民と出会い、この地に骨を埋めんと定めてからは悪くない人生で在った。
唯一つ、彼等を残して旅逝く事は心残りで在る。純朴で素朴な彼等を腹心に黒禍を蓄えた外界の人間に晒す事には気が引ける。彼らは自然の儘に、この峡谷と共に生きる事が本来の貌。人間の野心の為に研究の対象とされ、弄ばれようとせん事だけは阻止せねば為るまい。
斯く云う意味に於いては私自身は地獄に堕ちるべきであろう。私も彼等に嘗ては野心を持って歩み寄った人間の一人である。結果、私の研究が後世に彼等を苦しめんとす。
この罪は甘んじて許されるものではあるまい。私は残世の為にこの地に遺灰を残そうと思う。
徒の遺灰では無い。野心を持った人間を断ち切る為の不読の魔法を掛けた一世一代の大仕掛けで在る。
この手記も二度と人目に触れる事は無いだろう。
最後に、私を支えてくれたヘブライの民には心からの感謝の意を。私をこの最後の時まで慕ってくれた我が孫、エクポアとプリニッツを残して逝く事をどうか許して欲しい。
朱鳥バンディスの加護が何時の世までも彼等に降注ぐ様に。此れを持って末筆とする。
Clock Herbelk 〆
▼次回更新予定日:10/29