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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
123/169

 S3 Hotel 『Sleep In Canion 』

 風が吹くパレスチアの夜、この地特有の不定期な突風に身を煽られながらマイキー達は駅前広場のHotel 『Sleep In Canion』に身を寄せていた。十九世紀の北アメリカ西部、ゴールドラッシュを匂わせるようなウェスタン風の造りは自然と冒険者の心を躍らせる。内部の清掃は行き届いておらず、木目には赤土がこびり付いていたが、そんな事は些細な問題だ。

 入口に設置された端末カウンターで、チェック・インを終えるとマイキー達はそれぞれの部屋へと散って行く。特に成果を挙げた訳でも無い、内容の薄い一日だと思えたが、身体は疲労を訴えていた。

 薄暗い通路を歩きマイキーが自室の扉を開けると、そこには今夜の寝室が映し出される。

 古めかしい木造建築の室内には寝台と壁際に古木のテーブルと椅子が一対。内観を飾り付けるのは僅かな観葉植物と一枚の肖像画だった。老齢故に髪の抜けた頭部、それとは対照的に口元には長く生え伸びた真白な白髭。鋭く切れた眼差しと小高く通った鼻筋は理知的で厳格な雰囲気を漂わせる。

 肖像画のモチーフとなっている人物名はClockクロック Herbelkハーベルク

 一応、念の為にとマイキーはPBを開き、肖像画のオブジェクト情報を確認する。


◆―――――――――――――――――――――――――◆

〆オブジェクト名

 肖像画-Clock Herbelk-


〆分類

 アイテム-絵画


〆説明

 惑星ARCADIA、栄誉研究員。ここオーブルムの地にてヘブライ族と人類初の接触を成し遂げる。その後、ヘブライ族の言語・文化調査に精力し、前世暦233年。ここオーブルムを永住の地として生涯を終える。FCOA<ARCADIA惑星開拓本部>では彼の偉大なる功績を称え、創世暦元年よりClock HerbelkをARCADIA栄誉研究員と認定した。

◆―――――――――――――――――――――――――◆


 オブジェクトの説明を流し読んでいたマイキーの瞳の色が変わる。何気無く読み流していたつもりだったが、幾つかの言葉が引っ掛かる。

 まずはヘブライ族。これは今回のクエストの内容にも出てきたこのオーブルム山脈に定住しているという民族だ。その彼らと人類初の接触を成し遂げる。前世暦233年。この年号は一体何だ? さらにここオーブルムを永住の地として生涯を終える。これは、ヘブライ族の民族調査に精力していた彼が現実で命を落としたという事だろうか。

 勿論、これはARCADIAという世界の中での創作話には違いない。何故ならば創世暦以前の年号は、ARCADIAの世界においては開発段階、つまりオープンα稼動前を意味するからだ。設定上の話として、理解するにしても謎は残る。

 まあいい。今は深追いはよそう。今願う事はただ熱いシャワーを浴びて、食事を取って。寝台に着く事だ。


 夕食は一階の食堂で取る。テーブルの中央に飾られた銅の燭台から漏れる淡い光にワインを照らし香る。食事の味もなかなかのものだった。メインディナーの熱々のローストチキンを平らげたマイキーがそそくさと部屋へ戻ろうとすると、アイネが呼び止める。


「もう部屋戻っちゃうの。もうちょっと皆で楽しく会話しようよ」とアイネの言葉に苦笑いするマイキー。

「疲れてるんだ、寝かせてくれよ。それにちょっと考えたい事もある」


 仲間達と顔を見合わせたタピオは彼の真意を探るように呟く。


「考えたい事って……何?」

「まだ僕の中でも固まってないんだ。纏まったら話すよ」


 それ以上は仲間達も追及はしなかった。去り際のマイキーに煙草を吹かすジャックは一言不審な言葉を投げ掛ける。その表情はいつもの、彼が悪巧みを考えている時の顔だ。


「気をつけろよ。このホテル。亡霊が出るんだってさ」

「亡霊?」と、ジャックの言葉に表情を歪めるアイネにつられてキティが不安気な顔を見せる。


 だが、言葉を掛けられた当のマイキーにとってはまるで子供騙し。このARCADIAという最先端の科学技術で組み立てられた世界の中で、亡霊などという言葉は非科学的にも程がある。


「子供じゃあるまいし今更幽霊で怖がるかよ」


 捨て台詞のように吐き捨てたマイキーは、そうしてその場を去った。

 部屋へと戻って寝台に就くまで然程時間は掛からなかった。差出人の無いメール、巨大天然石のアーチが求める謎のパスワード、そしてClock Herbelkという人物。

 思考も空回り、いつしか意識は微睡みの中へと落ちる。微睡みはやがて深層意識へと潜る。思考の全てが浮遊し無に還る時、そこで記憶は完全に途切れていた。


 どれくらいの時間が経過したのか。一時間か、もしかしたら数分かもしれない。何故だか酷く疲れた。気のせいだろうか。耳の奥で微かに笑い声が聞こえる。子供の声だ。

 そしてその声には聞き覚えがあった。どこでだったか。声は次第に大きくなる。声が近付いているのだろうか。近いな……凄く近い。いや、近すぎる。

 そうしてマイキーが跳ね起きたその時だった。薄暗い室内に窓辺に浮かび上がるは白装束を纏った小さな子供。違和感の根源を目に宿した瞬間、腰元からバロックナイフを抜き取るマイキー。

 相手の表情は装束に隠れて見る事は出来ない。一体、こいつは何者なのか。だが、その姿には見覚えがある。羽織っている装束の色模様は異なるが、間違いなく昼間に見たあの不可思議な子供と同一だ。

 子供は装束の下から笑い声を漏らしていた。まるで耳奥に直接響き渡るかのような不可思議な音。暫しの均衡状態が続く中、マイキーは昼間見たあの子供の影との相違点に気付く。そう、声質が違う。夕方に見た子供が漏らす笑い声の方がトーンが低い、間違いなくあれは少年のものだった。だが、眼前に佇むこの人物は少年では無い。少女だ。

 その事実に気付くと、同時に白装束の少女は窓辺の段差に足を掛け飛び上がる。同時に歌い出されるは異言語の童歌。


――Army Army Shrink,pls

   hed bromos nedly

Slee ink Heractes StonHenge――


 脳内で必至にその発音をアルファベットに変換する。明らかに常軌を逸した光景は何を意味するのか。飛び上がった彼女が窓の外を向く。その身体を引き止めようとマイキーが手を伸ばした時、彼女の身体は薄闇の窓の外へと消え失せていた。

 正確には引き止めたのだ。だが、その手はまるで煙を掴むかのように彼女の身体に触れる事は出来なかった。

 少女が残した謎の童歌。頭の歌詞を片っ端からPBの翻訳機能に打ち込んで行く。残念ながら原文は登録外の異言語だった。だが、少なくともここで一つはっきりした事がある。

 それは歌詞の発音で聞き取れた『Heractes StonHenge』という言葉。これは間違い無く、ヘラクテス・ストーンヘンジの事を指しているのではないか。だとするならば、幽霊という非科学的な存在の根拠も見えてくる。

 必至に頭を回転させるマイキーの耳奥で鳴るは効果音。微振動が知らせるはメール着信の合図だ。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 差出人 不明

 宛先  !'$##$%


 題名  未記入


 ――遊子に 不朽の想ひを ただ託し

    古石飾る 峡谷の地にて 隠者は遊子を待ち望む

      二つは一つ 始まりは黒 終りは白 全て知り行く者が為に

        なむじに捧ぐる明けの言の葉は……「肖」也――

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 その内容に微笑するマイキー。どうやら、全くの見当違いという訳では無さそうだ。

 いつしか、窓の外は明るみに包まれていた。朝が来たのだ。


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