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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
122/169

 S2 差出人の無いメール

 村の探索を終えた頃、辺りは夕闇に包まれていた。その過程でマイキー達は不可思議な光景を目にした。峡谷の麓村であるパレスチアは人通りの比較的多いエリアである。故に行き交う冒険者の数も少なくないのだが、何故だろうか。冒険者達は皆、行き交う他者と顔も合わせずに何やら考え込むように俯いていた。彼らが一体何を考え込んでいたのか、今のマイキー達にとって知る由も無かったが、彼らは皆口々に呪文のような響きを漏らしては、思いたったように顔を上げ去って行く。

 不可思議な出来事は他にも続いた。特に印象に残ったのは、夕闇に紛れてどこからとも無く現れ、村の中を駆け回っていた黒装束の幼子。口ずさむは奇妙な旋律の童歌。聞きなれない異言語で詠まれるその歌意は汲み取れなかった。だが問題はそんな事では無い。マイキー達の目が節穴で無ければ、幼子は冒険者達を避けようともせずに接触し、そしてすり抜けた。まるで立体映像ホログラフィーのように。当られた冒険者が腰を抜かしてその場に蹲っていた事からあれは幻では無かったのだろう。見慣れぬ黒装束で顔を隠したその幼子は広場一杯を駆け回ると、笑い声を漏らしながら路地裏へと消えて行く。そして、彼が消えると同時に広場は深い溜息で満たされた。

 そんな溜息に交じって響く着信音と微振動。それはメール着信の合図だった。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 差出人 不明

 宛先  #4&%$#$


 題名  未記入


 ――葬風に 不朽の想ひは 流されて

    言の葉もろともひき裂かれ 隠者は悲しみに明け暮る

      二つは一つ 此の詩来る遊子に捧げむ 全て知り行く者が為に

        なむじに捧ぐる宵の言の葉は……「木」也――

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 何が起きているのか、理解出来る筈も無い。メールの差出人は不明だった。それどころか宛先さえも文字化けしている。

 仲間達はその文面に、各々小首を傾げ疑問を口にし始める。


「何かのバグか、これ」と怪訝な表情で呟くジャックに小首を傾げたタピオが疑問を重ねる。

「何だか薄気味悪い内容だよね。詩だけがはっきりと記されてるなんて。何だろうこれ」


 その問いの答えられる者はその場に存在しなかった。頼りのマイキーでさえも、詩を辿りながらその真意を掴めず途方に暮れていた。


「汝に捧げる明けの言の葉は『木』か。何かのキーワードか」呟くマイキーにアイネが自らの詩文の最後を飾る一行を読み上げる。

「汝に捧ぐ、言葉は『月』。私とマイキーだとキーワードが違うのね」

 

 口々に告げる仲間達のキーワードは一人として重なる事は無い。タピオが『土』でキティが『金』。一見、曜日が関係しているのかと勘ぐったいたところに、ジャックが自らのキーワード『山』を告げた。

 一体、この詩は何を示しているのか。もしかしたら何も意味は無いかもしれない。所詮はただの通信の不具合の可能性も否めない。だが、ただのメールにしては他意が含まれているような気もするは確かだ。 加えて、通信の不具合にしては周囲の冒険者の反応が気掛かりでもある。中にはまるでメールの内容に興味を示さない冒険者も存在する。まるで、このメールの存在が当たり前のように、だ。

 とはいえ、たとえこの詩に何者かの深意が隠されていようとも、ただこうして詩を追ってみても何も始まらない事もまた事実。実際に動いてみなければ分からない事もある。

 まずは、現地に向かって葬風の谷の入口辺りまで周辺調査を始める。事前情報に依ればここから峡谷はそう遠くない距離に在る。それは冒険者としては実に妥当な考え方だが、そんな思案は早くも不意に打ち止めを掛けられる事になる。

 そもそもスティアルーフで情報を集めていた時から、このクエストに関する情報は不可思議な事だらけだったのだ。


――このクエストに決まった攻略法ルートは存在しない――


 その記述の意味を峡谷を目前にしたマイキー達は否が応でも思い知らされる事と為る。

 葬風の峡谷の入口まではパレスチアから目と鼻の先の距離に在る。女神像の広場から、プレイヤーズエリアへと放射状に伸びる分岐路の中でも中央を貫く大通りを歩く事、僅か三十数分。山麓の針葉樹林が生え渡る砂礫地帯を抜けた先にその峡谷は悠然と冒険者達を待ち構えていた。

 光の残された夕闇の両側に聳える断層には赤土の縞模様ストライプの入った地脈がうねっている。まさに生粋の自然芸術とも云える峡谷の入口には巨大な天然石が組み合わさった自然界のアーチが掲げられている。

 その高さ二十メートル、横幅も同等以上の大きさがあろうかと思われる巨大なアーチを視線に映した瞬間、マイキーはある現象を想起していた。

 巨大天然石のアーチの周囲では、まるで立ち往生だと謂わんばかりに冒険者達が屯していた。その光景からマイキーの推測が確信を捉える。


「まさか、このアーチが自然オラクルを生んでるのか」


 PB上でマップ情報を確かめると、そこには確かに巨大なオラクル反応が在る。仲間達も驚きを隠せないといった表情で当惑している様子だった。


「これはまた、随分と馬鹿でかいオラクルだな」と口笛を吹いて称賛したのはジャックだ。


 オラクルの前では絶えず侵入を試みる冒険者達によって多重の波紋が生み出されていた。

 その虹色の紋様を前に、改めてオラクルの発生条件を探る。そこで、マイキーはある事実に気が付いた。


「これ、自然オラクルじゃない。人工オラクルだ」


 オラクルが自然的なモノであるか、人為的なモノであるか。これはオラクル解除の上で重要な意味を持つ。自然的発生である場合、これらは手の施しようの無い場合が多いが、起因が人為的発生にあるならば、解除条件には必ず何者かの意図が含まれる。これは大きな違いだ。

 オラクルを情報指定すると、ここで今までにはかつてないフォームが画面へと映し出される。


◆―――――――――――――――――――――――――◆

 〆オラクルの解除コードを入力して下さい

 パスワード:

◆―――――――――――――――――――――――――◆


 解除コード、その言葉が画面を開いたマイキーの視線を釘付けにする。


――解除コードだって?――


 今までにこんな状況は発生しなかった。まさか、解除コードを入力する事でオラクルの通過が可能になるとでも云うのか。だとするならば、情報が余りにも少な過ぎる。今のこの状況下で解除コードを引き当てる可能性など零に近い。

 唯一の心当たりがあるとするならば、あの奇怪なメール文だ。

 根拠としては根も葉も無い。ただ余りにも不自然だからこそ、あの詩に何らかの関与があると直感的に疑わざるを得なかった。 


「成る程、今の僕達は情報不足って訳か」


 踵を返すマイキーに仲間達が当惑して、彼の背中を追う。

 わざわざ解除コードに弾き返されるまでも無い。情報が足りないと云うのならば、補って出向くまでだ。それにしても、これほど大層な挑戦状を叩きつけられたのは久し振りだ。


――待ってろよ。完膚無きまでに叩きのめしてやる――

 ▼シェアード・ユニバース作品のお知らせ


 10/18より白羊、様によるARCADIA シェアード・ユニバース作品『ボーダーブレイク』の連載が始まりました。こちらで告知させて頂きたいと思います。以下引用失礼します。


 仮想現実『ARCADIA』――正式サービス開始により、100万人を超えるプレイヤーが集まったこの世界。はたして出会いは偶然か必然か。自由気ままな青年と野望を抱いた少女が紡ぐ物語。『ボーダーブレイク』いざ開幕!


 http://ncode.syosetu.com/n3292i/


 本編と合わせて宜しくお願い致します。

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