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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
119/169

〆第六章『葬風の送り人』

挿絵(By みてみん)


 Army Army Shrink,pls

  hed bromos nedly

   Slee ink Heractes StonHenge

(作者不明『亡霊童歌』より 出没:パレスチナ)



 ■創世暦ニ年

   四天の月 風刻 5■


 長い休暇を終えたマイキー達は、再びイルカ島に別れを告げる。良い骨休めだった。

 想い想いのティムネイル諸島での生産生活。その余興はこの世界での新たな楽しみ方と無限の可能性を教えてくれた。

 マリーンフラワー号の快適な船旅によって海を渡り、セント・クロフォードの心地良い汽車に揺られ東エイビス平原を北上。向う先はそう、デトリックの街だ。

 風刻の強い風はバスティアの赤土を舞い上げ、景色を廃れた朱色へと染め上げる。そんな砂煙に霞む街はいつしか人通りも目に付くほど、活きた姿を取り戻し始めていた。グリーンゴブリンの襲撃を受けて壊滅的被害を受けたあの凄惨な街の姿はここには無い。

 駅前通りから郊外の広場に赴いてみれば、水瓶から聖水を振り撒く女神像の姿に自然と心は和らぐ。その微笑は優しくマイキー達を迎え入れる。噴水の周りで寛ぐ冒険者達もまた穏やかに、取り戻した安息に落ち着くその表情の数々は平和を象徴している。

 街が息吹を取り戻した。気のせいだろうか、それはあの事件を乗り越えたからなのか。


――街全体が優しくなった感じがする――

 

 一通り街を歩き回り、その変化を実感したマイキー達の意識はこの街の心掛かりへ。他でも無い、Marche nes Abelの事だ。

 現実へのログアウトを含め、随分と長い間、店を留守にしてしまった。前刻の末日から風刻に入り、五日目を迎えてしまったのは、途中スティアルーフでの寄り道があったから。余剰生産品のバザー公開やCity Networkでの情報収集など、時間を費やす理由はいくらでもあった。一体、店はどうなっているのだろうか。

 荒野の赤土を踏みしめた先に、Marche nes Abelは相も変わらず孤独な佇まいを見せていた。周囲に開拓された様子は見当たらない。ただ広い荒野の中に、Marche nes Abelは寂しげに建っていた。

 本来赤土で草臥れた褐色に落ちる筈の赤煉瓦の外観は、力を取り戻した女神像の加護により汚れ無く修繕されている。冒険者の都合上、店を留守にする事は少なくない。だからこそ、この心配りは有り難い。こんな細かな点にまで及んだ彼女の配慮に心から感謝し、一同は降ろしていた店頭の看板を掛け直し店内へと入るのだった。

 人足を知らせる鈴の音に迎え入れられた店内には、商品の消えたショーテーブルが並んでいた。

 窓際に歩んだアイネがベージュのカーテンを引くと店内に柔らかい光が差し込み始める。


「何か喉渇いちゃったな。キティ、悪い。コーヒー入れてくれるか」


 マイキーの言葉に「はい」と笑顔で頷いたキティは、ちょこんとその場に座り込むと手持ちのカプナトラと呼ばれる安価なコーヒー豆と蒸留水で生産工程に入る。キティが自家製コーヒーを作れるようになったと聞いて、コーヒー豆はスティアルーフに滞在中にマイキーが大量に彼女にプレゼントしたのだった。その目的はと言えば当然、こうして彼女に挽き立てのコーヒーを入れて貰う事にある。

 ジャックとタピオは応接用の木椅子に腰掛け、それぞれ何する事も無く無造作に寛ぎ始める。


「再生した街を祝って景気良くセールでも開いたらどうだ?」と煙草を吹かすジャック。

「馬鹿言えよ。ただでさえ収益少ないのにそんな真似できるか」


 マイキーはショーウィンドウに買い込んだバロック製品を陳列しながら、そんな彼らに向けて溜息を一つ吐く。

 再び廻り始める冒険者としての時間。生活資金として金銭を稼ぐ事も冒険者の務めなのだ。

 キティが挽いたコーヒーがテーブルに並ぶと五人は小さなテーブルを囲んで、今後の予定について語り始める。


「今後の予定だけど、店の事もあるし在庫を満たしたとしても、街を離れて一週間以内にはまた店に戻らないといけない。だからあまり遠出するクエストは控えたい」と切り出すマイキーに頷いたアイネの長髪が揺れる。

「確かにこれ以上お店空けるのは気が引けるね」


 アイネの隣ではキティがコーヒーカップを両手にコクコクと頷いて見せる。


「でも、具体的に街から離れずにこなせるクエストなんてあるのか?」と、ジャックの尤もな問いにタピオが小首を傾げる。

「レクシア大陸に渡って女王蟻アルゼロデスの討伐クエストをこなしてから、受諾できるクエスト量は膨大に増えたし、探せばあるかも。セント・クロフォードの乗車権のおかげで活動できる範囲も増えたしね」


 次の目的について意見を交し始める一同に、マイキーはいつしか一通のメールを送信していた。メール受信の振動と受信音に気付いた仲間達は一斉にPBを開き視線を流し始める。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 差出人 Mikey

 宛先  Aine,Jack,Kitty,Tapio


 題名  次回クエスト情報


 本文  ※下記ギルド情報添付

◆―――――――――――――――――――――――――◆

 ▼探索クエスト

◆―――――――――――――――――――――――――◆

 ○葬風の送り人(推奨Lv5~:難易度☆☆☆☆)


 デトリックの街からバスティア荒原北部を抜け総115km、荒野に聳えるオーブルム山脈。先代の調査団の報告に依るとこの山脈地帯の何処かに古代遺産ヘラクテス・ストーンヘンジが存在すると云う。調査の為に、本部では調査団を派遣したが到達する事は出来なかった。目的地に辿り着く為には山脈に存在する峡谷、通称『葬風そうふうの谷』を通行する必要がある。一つ目の試練は巨大人工オラクルの解読である。先代の調査報告には存在しない起源不明の巨大人工オラクルの存在、幸いパレスチアの地では不可思議な協力者の力を得る事が出来る。彼等の助言を得ると良いだろう。だが問題はその後なのだ。詳しくは自らの眼で確かめて欲しい。複雑な気流が渦巻くこの地には、先住民ヘブライ族が生活している。彼らは我々に友好的では無いが敵対的でも無い。くれぐれも彼らに干渉する事の無いように目的の遂行に望んで貰いたい。もし目的地に辿り着く事が出来たならば、スクリーンショットを忘れずに収める事。成果を期待している。

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 内容に魅入る一同。タピオはコーヒーカップを口元に当てたままメールに記載されていた内容の一部を読み上げ呟く。


――ヘラクテス・ストーンヘンジ――


 そう、それが今回の旅の目的地である。

 マイキーは仲間達が内容を確認したのを把握すると、PBを閉じて皆へと向き直る。気のせいだろうか。彼の瞳には鋭い光が宿っていた。


「今回の推奨レベルはLv5から。難易度も妥当。前回の二の足を踏む事は無いさ」


 それは彼の後悔の表れなのか。前回のクエストで選択を誤り、仲間を危険に晒した事を悔やんでいる、そんな彼の想いが光となって瞳に映し出されたのかもしれない。

▼10/19修正 クエスト説明文を一部修正・追記しました

▼10/21修正 挿絵・飾り詩の追加

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