S10 [錬金術S.Lv10.00:蜜蝋]
錬金術の生産スキルもいつしか大台に乗りS.Lv10へと到達していた。クロットミットを地道に狩り続けた結果、大量に生み出された黒斑鳥の羽ペン。PB上でも情報伝達が主流となる為、一見、この羽ペンと筆記用具の需要は薄いかと思われるが、意外にも需要が有る。というのも、このアイテムは魔工生産において印呪紙と呼ばれる魔法印を施すシートに印綬する際、必須になる。各ある生産の中でも資金石と呼ばれるこの魔工生産における需要が、市場の中でも高値で出回る一因と為っているのだ。
生産した黒斑鳥の羽ペンは総計で丁度百本。この百本目の生産によって、マイキーは錬金術スキルの大台に漕ぎ着ける事が出来たのだった。
そして、大台に到達してから初の生産となるレシピの存在に自然と心が躍る。
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●[錬金術S.Lv10.00:化合] 蜂蜜 + 蒸留水 + アエロオイル = 蜜蝋
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この蜜蝋というアイテムの生産により、この始まりの地『イルカ島』では一大的な生産アイテムが生まれる事になる。それが、この蜜蝋とブロンズ武具を化合させる事により生まれるハニーワックス装備と呼ばれる生産武具である。
マイキーにとってこのハニーワックス装備の生産は一つの到達目標でもあった。
現在レシピとして挙げられている蜜蝋製品の武具とその性能は以下の通りである。
【生産レシピ】
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●[錬金術S.Lv10.00:化合] ブロンズナイフ + 蜜蝋 = ハニーワックスナイフ
●[錬金術S.Lv10.00:化合] ブロンズナックル + 蜜蝋 = ハニーワックスナックル
●[錬金術S.Lv10.00:化合] ブロンズソード + 蜜蝋 = ハニーワックスソード
●[錬金術S.Lv10.00:化合] ブロンズアーク + 蜜蝋 = ハニーワックスアーク
●[錬金術S.Lv10.00:化合] ブロンズボウ + 蜜蝋 = ハニーワックスボウ
●[錬金術S.Lv10.00:化合] ブロンズランス + 蜜蝋 = ハニーワックスランス
●[錬金術S.Lv10.00:化合] ブロンズアクス + 蜜蝋 = ハニーワックスアクス
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【ブロンズ装備との性能比較】
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○ブロンズナイフ Lv1〜,物理攻撃力+3,攻撃間隔500
○ブロンズナックル Lv1〜,物理攻撃力+4,攻撃間隔360
○ブロンズソード Lv1〜,物理攻撃力+5,攻撃間隔650
○ブロンズアーク Lv1〜,物理攻撃力+5,攻撃間隔450
○ブロンズボウ Lv1〜,物理攻撃力+4,攻撃間隔600
○ブロンズランス Lv1〜,物理攻撃力+7,攻撃間隔750
○ブロンズアックス Lv1〜,物理攻撃力+8,攻撃間隔850
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○ハニーワックスナイフ Lv1〜,物理攻撃力+4,攻撃間隔450
○ハニーワックスナックル Lv1〜,物理攻撃力+5,攻撃間隔324
○ハニーワックスソード Lv1〜,物理攻撃力+7,攻撃間隔585
○ハニーワックスアーク Lv1〜,物理攻撃力+6,攻撃間隔405
○ハニーワックスボウ Lv1〜,物理攻撃力+5,攻撃間隔540
○ハニーワックスランス Lv1〜,物理攻撃力+9,攻撃間隔675
○ハニーワックスアックス Lv1〜,物理攻撃力+10,攻撃間隔765
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上記のブロンズ装備との性能比較の項目を見ての通り、このハニーワックス製品では基礎攻撃力の向上に加え、攻撃間隔が一割と大幅に短縮されている。この武具性能にしてLv1から装備出来る為、開始時点では相当に有効な武具になるのだ。
幸いな事に蜜蝋の原料となる蜂蜜は村の道具屋で販売されている。問題となるのは、蝋として固める為のアエロオイルだが、これが村では販売されていない原料となる。蝋として固める為には固形燃料であるパーム油では代用が利かない。なので、アエログノの実が多くなる緑園の孤島に予め採りに行く作業が必須となる。
この日の為に、マイキーは毎日コツコツとアエログノの実の採集に励んでいたのだった。アエログノの実からアエロオイルの抽出作業はこれも錬金術のS.Lv2の生産レシピに指定されている。故に今のマイキーにとっては何の問題も無い。
手短にキーボードを弾き、次々とアエロオイルを合成した後は蜜蝋の生産に取り掛かる。
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▼生産メニュー
○錬金術 S.Lv10.00
・抽出 >>>>> 【生産素材選択】
・分解
・発酵
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生産区分:抽出
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▼生産素材1 蜂蜜×1
▼生産素材2 蒸留水×1
▼生産素材3 アエロオイル×1
【生産素材の追加】
●生産する(生産確率:100% 生産時間:1分45秒)
●キャンセル
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生産確率は百パーセント。失敗の無い生産程、安心して眺めていられるものは無い。二分弱の生産時間を待ち、蜜蝋が生産される工程をただじっと耐え忍ぶ。
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【生産に成功しました】
★生産アイテム:蜜蝋
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生産品にほっと胸を撫で下ろしている時間は無い。ここからが正念場だ。
この生産ハニーワックス装備の生産に当って始めに掛ける武具をマイキーは既に心に決めていた。それは、この世界を始めて訪れた時にまで遡る。
右も左も分からなかったマイキーの腰元に備え付けられていた一本の青銅の短剣。思えば、全ての始まりはあの瞬間からだった。
ブロンズナイフを手に取るマイキーの瞳は感慨に溢れていた。
――この一本のナイフから全ては始まったんだ――
大切な思い出を昇華させる時。今がその時だと、自然とマイキーの心は揺り動かされていた。
キーボードを素早く弾き、PB上で生産設定を施す。生産画面を見つめるマイキーの手は心無しか震えていた。生産確率は百パーセントであっても思い出の深さがそれを否定する。
だが迷う事は無いのだ。アイテムとしても持ち腐れるよりはこうして有効に活用される方が望ましい筈である。
生産実行ボタンをマイキーの手が弾くと、生産処理が始まる。
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現在生産中です
生産状況 1%
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後は来る時をただ待つのみだった。絶対の安心を念頭に置きながらも一抹の不安が脳裏を過ぎる。思い出は昇華されるのだろうか。問題は無い。答えに悩む必要は無い筈だった。
二分半という時間がただただ経過するのを待つ。その時間は何故だろうか。とても長い時間のように感じられた。
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【生産に成功しました】
★生産アイテム:ハニーワックスナイフ
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生産に思い出を掛けた瞬間に、こんなにもたくさんの感慨を浮かべる事になろうとは思いも寄らなかった。それだけに、この世界で味わったこの数刻が濃密な時間を過ごさせてくれたという事なのだろうか。考えるだけに思いはただただ深まる。
それからまた幾日かが過ぎた。来る土刻の二十四日目。夕陽が落ちる海岸には久々に夕食会に集まったマイキー達の姿が在った。
長かったようで短かったような、今日でその生産生活も終わる。皆、それぞれに課した目標に到達する事は出来たのだろうか。今日はその発表の場でもあるのだ。
「今日は蟹玉チャーハンか。やるなキティ」と満足そうにテーブルの上に料理を眺め渡すジャック。
タピオが木工生産したテーブルの上で香る料理に自然とメンバーの表情に微笑みが漏れる。そんな仲間達の様子をアイネとキティはただただ嬉しそうに眺めていた。そんな彼女達が胸に刺すは単蝶石のブローチ。鍛冶生産に飽きたジャックが魔工生産で製作した一品である。
「僕からも皆にプレゼントがあるんだ」とタピオの言葉に皆が視線を向ける。
タピオからのプレゼントという言葉にメンバーは一抹の不安が過ぎった。PBから取り出され配られたカードを一同は恐る恐る見つめ具現化する。中身はFBSポーチと呼ばれる美しい大きな二枚貝を加工したポーチだった。その真珠のように光る淡く美しい輝きに女性陣が歓声を上げる。
「お詫びだよ。この前は酷いものプレゼントしちゃったから」
そう語るタピオの表情は透き通り澄み渡っていた。心の靄は晴れたのだろうか。
その優しく自然な微笑みに思わずマイキーの口から言葉が零れる。
「問題は解決したのか?」
その問い掛けにその優しい笑顔を崩す事無く頷くタピオ。
「まだ完全に解決した訳じゃないんだ……でもディオンは許してくれた。少しずつだけど、ゆっくり時間を掛けて皆にも分かって貰えるまで頑張りたいと思うんだ」
その言葉にマイキーもまた優しい微笑みを浮かべる。どうやら思い出を昇華したのは彼もまた同じらしい。
良い思い出も悪い思い出も、それを乗り越える事で人はまた一歩前進する事が出来る。それが出来ただけでも、この休暇には大きな価値が在ったのだったと、マイキーには思えるのだった。
様々な思い出が人を成長させ形作って行く。今この一瞬も、自分達にとっては成長の一ページなのだと、臭いとも思えるが今は何故かそんな臭さが酷く心地良かった。
▼作者コメント
第五章、生産編はこれにて終了です。短いですが申し訳無い。
ちょっとここ数日現実が多忙を極めている為、後書きを簡潔に失礼させて頂きます。
後、タピオのエピソードが一話ありますので、宜しければご覧になって下さい。
第六章はそう遠くないうちに連載開始させて頂く予定ですので、宜しくお願い致します。