【Interlude】[料理S.Lv4.00:黒斑鳥のゆで卵]
狩りの成果は上々だった。約二時間半で十六枚の黒斑鳥の羽毛を入手。後は入手した素材を絡めて生産品へと化合する。絶壁の前での孤独な生産を終えたマイキーは満潮にも煽られて、早々に退散しようと歩み始めたその時だった。突然、村の方から飛び出した小さな影達が絶壁へと駆け寄り騒ぎ立て始める。
「馬鹿、静かにしろよ。気付かれちゃうだろ」
「いいから早く梯子出しなさいよ」
子供達の先頭に立っていた少年は、少女に煽られてPBから一枚のカードを取り出すと一渡り長さ五メートルにも及ぶ大きな梯子を取り出し絶壁へと掛け始める。
一体何を企んでいるのか、子供達の挙動を不審に思いマイキーが見つめていると、梯子に手を掛けた少年はするすると絶壁を登り始める。
「倒れないようにしっかり抑えてろよ」
下に群がる子供達にそう呼び掛けながら五メートルの梯子をあっという間に登り切る少年。
梯子の先は突き出た岩盤が足場を作っており、一休憩する事が出来る。
「ここからは、自力で登らないと」
呟いた少年は絶壁の小さな窪みに手を掛けると慎重に頂上へと向って登り始める。
一体、この少年は何を目指しているのか。ロッククライミングという訳では無さそうだ。ただ単純に頂上へと登る到達感を味わうならば梯子などという手法は採らないだろう。梯子を使ってまで、絶壁を登るという事は頂上に何かしらの意義がある筈だった。
子供達の声援の中、頂上へと差し掛かった少年は、片手でごそごそと弄り何かを拾い上げて手を挙げてみせる。子供達の歓声が辺りを包み、大急ぎで絶壁を少年が滑り落ちた頃、絶壁の頂上で異変を嗅ぎ付けたクロットミット達が騒ぎ始める。
「やばい、気付かれた! 逃げろ逃げろ!」
「やったね。これでゆで卵作れるね」
暗闇の中で一斉に舞い上がるクロットミットの群れ。
梯子に手を掛けた少年が、途中からジャンプして駆け下りると子供達を引き連れて村の入口の方へと猛然と駆けて消えて行く。
それはあっという間の出来事だった。子供達が最後に残したゆで卵という言葉。あの行為や言葉にはどんな意味が込められていたのか。彼らが立ち去った後もその光景がマイキーの中ではずっと気掛かりと為り、尾を引いていた。
その日の夜、藁々でゆっくりと温泉に浸かったマイキーはどうしても気になったあの出来事についてLocal Networkの検索画面を開く。
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Local Network
Access Point:エルム
▼攻略BBS
検索キーワード:絶壁,登り[タイトル、本文]
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表示された情報の中から目的と一致する内容を選択する。百八十七件の表示の情報から大体の主旨は伝わってくる。どうやらあの絶壁登りには崖上に巣を作ったクロットミット達の卵を入手するという目的があるようだった。
クロットミットのドロップ品の中でも黒斑鳥の卵はドロップ率が低い。その確率は僅か十パーセント。十匹倒して漸く一枚が入手出来る計算になる。
冒険者の間でもこのアイテムは非常に需要が高く、納品クエストのアイテムにも指定されている。
その為、とりわけ楽に入手出来る方法が無いかと様々な議論が為され、編み出された方法がこの絶壁を登って巣の卵を直接マテリアライズするという方法であった。
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Local Network
Access Point:Elm
▼攻略BBS
□投稿者 Eggman 黒斑鳥の卵を採る際の注意点
黒斑鳥の入手には、まず二つの方法が有りますがここでは絶壁を登り現物をマテリアライズする際の注意点を載せさせて頂きます。
まず絶壁を登るポイントですが、これは梯子を使い中継地点を利用した方法が今のところ最も安全です。絶壁には一部、突き出た岩場が存在しますがここが足場に為ります。この足場に梯子を掛けて、中継地点から頂上を目指す方法が今のところ安全策とされています。
デメリットとしては採集ポイントの中でも、最も難易度が優しい為、競争率が高い事です。先約が居る場合は素直に諦めましょう。もしくは腕に自信がある方は、他のポイントで地上から十メートルを純粋にロッククライミングで登り切る事もまた一つの手です。
また採集の際にも注意点が有り、それはクロットミット達のターゲットを採らない事が重要に為ります。クロットミット達は実は非常に視力が弱く夜目が利きません。なので、夕方以降の暗闇に乗じて卵の採集に向えばターゲットを取る事無く作業する事が出来ます。ただ夜目が利かないと言っても、ランプなどで強い光を放てば当然彼らの警戒網に引っ掛かるので注意が必要です。
もう一つの問題点としては音が挙げられますが、巣の周りでよっぽど大きな音を立てない限り彼らは無頓着なので、これも基本的には問題有りません。
採集の際の良くある問題点として、巣から卵が消えた事に気付いたクロットミット達が騒ぎ立てる事が有ります。この時、無闇に焦ってはいけません。多くの場合は彼らは卵が消えたという事に騒ぎ立てているだけで攻撃対象を認識している訳ではありません。
壁際にしっかりと身を寄せて体勢を低くしながら静かに下りましょう。もし、攻撃対象に認識された場合、低レベルならば確実にアウトです。リンクした彼らのターゲットが一斉に採集者へと向う事になりますので、そのリスクを重々認識した上で採集に当って下さい。
他の注意点としては、基本的にこれは大丈夫だと思いますが、月明かりの反射を防ぐ為になるべく貴金属類は外す事。また雨天の日は当然崖が滑り易くなるので避けた方が無難です。
最後に余談ですが、入手した卵の使い道としてはゆで卵がお勧めです。非常に濃厚で舌でとろけるようなその自然の旨味はまさに絶品ですよ。私は塩派なので、いつも海塩を振りかけて美味しく頂いております。
以上、余談が過ぎました。簡易ですが皆様のお役に立てれば幸いです。
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投稿内容を読み終えたマイキーの心は晴れていた。胸に痞えていた物が取れたようで、これであの子供達の不可思議な挙動の全ての謎が解けた。
「なるほど、これで入手の難度が高い黒斑鳥の卵のフォローをしてる訳か。結構裏技っぽい内容だな。黒斑鳥のゆで卵か。今度キティに作って貰おう」
微笑するマイキーは、ふと崖に登る自らの姿を想像する。機会があるならば、やってみる価値はあるかもしれない。絶壁を登って巣からの採集なんてなかなか味な真似をやってくれる。
今回のケースはよくよく考えれば稀なケースだった。本来モンスターのドロップ品であるアイテムが実際に落ちておりそれをマテリアライズする事が出来る。
もし、このようなケースが他にも存在するならばこれは有効な手段になる。パーティカルマテリアライズにしても、今回の現物取得にしても、なかなかに奥が深いようだ。