【Interlude】[料理S.Lv3.00:石焼ラヴィンバ]
■創世暦ニ年
四天の月 土刻 9■
青く澄んだ空はいつしか深い藍色に落ちていた。水位が上昇し始めた浜辺の上空では、クロットミット達が飛び交い囀り合う。
絶壁の塒へと帰宅する頃合なのか、海から島へと渡るそんな鳥々の軌跡を眺めながら、イルカ島の西海岸では食事の用意を広げる冒険達の姿が在った。アブラヤシの生える林の木陰に取り出すはココヤシの製材で組んだ丸椅子と小さなテーブルが二つ。四角のテーブルを繋ぎ組み合わせた簡易な机上に真白なテーブルクロスを広げ、寄り添った冒険者達は笑顔で談話を始める。
「このテーブルと椅子、それからこのココヤシのスプーンとお箸はタピオが作ってくれたんだよ」と笑顔で食事の用意を進めるアイネ。
食卓の上に並べられるは美しい流線と丸みを帯びたココヤシのスプーンと、細く削られた一対の箸だった。
「このくらい何てことないよ。木工の生産の中でもココヤシの製材加工はスキルの指定レベルが低かったから。骨象以外にもちょっと手出してみたんだ」
自慢気に鼻を啜るタピオは、テーブルに並べられたスプーンと箸を手に取り、恥ずかし気に利き手側に置き換える。
「それから、ジャックには料理に使う石の器を作って貰ったの。ありがとね」
アイネが云う石の器。それは恐らく鍛冶生産のレシピに存在する丸海石の加工の事だろう。丸海石はこのティムネイル諸島では岩場に赴けば幾らでも手に入る。低スキルで生産できるこのレシピでは丸海石を削って、料理を盛る器を作る事が出来るのだ。
生産には余り興味が薄いかと思ったジャックが鍛冶屋として貢献していた事は意外だったが、何だかんだ言いながらこのティムネイル諸島での生産生活を皆満喫しているという事だろうか。
「別に構わないけどな。どうせ暇だし。それにしても何だよ、皆で外で食事しようなんて。どうしたんだ急に?」
煙草を吹かすジャックの言葉に顔を見合わせて微笑み合うは小さな料理人と付き人。
アイネが笑顔で促すと、キティは緊張した面持ちでPBから十数枚のカードを取り出し、その中から数枚のカードを一組として皆に配り始める。
各々のテーブルクロスの前に並べられたのは四枚のカードだった。
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〆カード名
石焼きラヴィンバ
〆分類
アイテム-料理
〆説明
丸海石の器にご飯を詰め、その上にこんがりと焼けたラヴィの肉を敷いたお手軽料理。石焼の器で火傷しないようにご注意。
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〆カード名
露切水菜と蟹肉のサラダ
〆分類
アイテム-料理
〆説明
露切水菜と蟹肉をさっぱりとした甘酢ベースのドレッシングで和えたサラダ。
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〆カード名
オニオンスープ
〆分類
アイテム-料理
〆説明
コンソメを湯に溶かしスライスした玉葱を添えたお手軽スープ。
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〆カード名
ココナッツジュース
〆分類
アイテム-飲料
〆説明
ココヤシの実を絞って抽出した甘い飲料。飲むとココナッツの甘い香りが口一杯に広がる。
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譲渡されたカードを手に取り、内容を読み終えたマイキーは微笑みを携える。
「これ、キティが全部作ったのか?」
その問い掛けに恥ずかしそうに顔を赤らめて頷くキティ。
そんな彼女の肩を優しく傍らで支えながら笑顔で皆にリアライズを促すアイネ。
「おかわりもあるからたくさん食べてね」
その言葉を契機に次々とテーブルの上でリアライズされて行く料理。蒸気を上げる石焼の器の中には熱々のラヴィの肉が盛られていた。そんな出来立ての料理に真っ先に歓声を上げたのはタピオだった。
「すごい、石焼ラヴィンバだって。出来立てだ。おこげもある!」
タピオの様子を笑顔で見守るキティの隣では既にジャックが石焼ビビンバならぬラヴィンバを口の中へとかき込んでいた。猛烈な勢いで口の中で詰め込んだものの、その熱さに口を開いて空気を通そうと絶句する。
「そんな慌てなくてもいっぱいあるから」
嗜めるアイネの前でマイキーは付け合せの露切水菜と蟹肉のサラダへと手を伸ばしていた。
瑞々しい水菜と柔らかで弾力のあるシャメロットの蟹身を合わせた食感が絶妙、甘酢で引き締まったその味も新鮮で確かなものだった。
「この甘酢ってもしかしてさ」
「そう、マイキーが作ってくれたリンゴ酢だよ」
先日の露切水菜の採集の際に、マイキーが提供した赤林檎酢。まさか調理の引き立て役としてこんな形で利用されるとは思ってもみなかった。
「レミングスの酒場で食べるよりこっちの方がよっぽど美味しいな」
マイキーの言葉に嬉し恥ずかしそうにキティが俯くと、彼女の肩を隣でアイネが摩る。
「良かったね、お店より美味しいって」
タピオは隣で料理をかき込むジャックに釣られて、彼もまた無言でラヴィンバで頬張らせていた。一同の快食に微笑みを絶やさない小さな料理人はココヤシの木を削って作った小さなスプーンで自らも料理を口に運ぶ。
「僕らの料理人はキティに決まりだね」と咽た喉をココナッツジュースで潤すタピオ。
「そうだな。これだけのものを一人で作るなんて、大したもんだぜ」と、ジャックが答える。
小さな食卓で笑顔を交わしながら、この世界でのまた新たな楽しみ方を実感する。
生産の醍醐味とは実生活に直接影響する実用品を作成した時に、最も強くその喜びを感じ取る事が出来る。互いに伸ばした生産スキルの中で、手を取り協力し合う事で生まれた余興。
海辺で落ちる夕陽を見ながら食べる料理の味はまた格別だった。