S6 [錬金術S.Lv6.00:赤林檎酢]
■創世暦ニ年
四天の月 土刻 7■
この日も空は快晴。雲一つ無い青空の下、マイキーはアイネとキティの二人を連れてフロイスモール島を訪れていた。
数日間に渡るグリーンハーブドロップの大量生産により、錬金術の生産スキルはS.Lv6.00へ。素材では無い実用品の生産によってモチベーションにも自然と拍車が掛かったその成果であった。
フロイスモール島の森林の中を歩く事にも慣れてきた。ハーブの採集ポイントは勿論の事。森のどこに何が生えているか。大体の所は凡そ把握出来ている。かつてはその存在に恐怖を覚えたシーフロッガー達も幾戦の苦難を乗り越えた今、もはや脅威には値しない。彼らの習性上、格上の生物には手を出さない。その生体法則もまたマイキー自身、自らの成長を感じる一因だった。
木漏れ日差し込む森林の泥地を歩き進みながらマイキーが感慨に耽っていると、後ろを追うアイネが声を掛ける。今日、彼女達がこの島を訪れたのはマイキーとは目的が異なるようだった。その目的は理解の外だったが、今彼女はその内容を口に出し始める。
「マイキー、露切水菜ってどこに生えてるか分かる?」
「露切水菜? 料理で使うのか。確か、島の西部の淡水湖の方だったと思うけど」
島の西部を目指すならば方向は変わらない。案内も兼ねて、マイキーは彼女達に同行する事にしたのだった。
冒険者達の憩いの場である淡水湖まではコロネオ火山を大きく迂回する事になる。その行程は四時間。シーフロッガーに襲われる心配は無いものの、彼女達もまたマイキーの同行を強く希望していた。
「着々とスキル上げてるみたいだな。露切水菜使うレシピって云うとサラダか?」
「うん、私はキティの素材集めのお手伝いだけどね。近いうちに夕食をご馳走するから楽しみにしててね」
彼女達の振る舞いの約束に期待し胸の内に仕舞う。具体的なその目標から実行されるのはそう遠い未来では無いだろう。輝くキティの眼差しがその意気込みを物語っていた。
それから淡水湖へ到着するまで、雑談を交えながらの道中は退屈しない時間を過ごす事が出来た。
途中海岸で昼食を取った一同は、午後二時半頃には目的の湖畔へと辿り着いていた。
湖畔で水菜の採集を始める彼女達の傍らで、マイキーは生え渡る木々を見上げ何かを探し求めるように視線を周囲に配る。
彼の目的はこの淡水湖の周辺に分布するある樹木にある。甘くて赤い果実を実らせるその樹木こそが、今回の生産の主軸。
――求めるは赤林檎の木――
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●[錬金術S.Lv6.00:発酵] 赤林檎 = 赤林檎酢
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赤林檎を発酵させて赤林檎酢を醸造する。酢は醸造調味料として味噌や醤油に並んで生活の必需品とも言えるが、今回の目的はこの赤林檎を発酵させる事によって果実酢を得る事にある。
「お、あったあった」
赤林檎を実らせる緑葉豊かな樹木。森林の中に佇む林檎の木は比較的背丈が低い。
視線からそう遠くない位置に実る赤林檎は、物によっては背伸びやジャンプすれば届いてしまう位置に存在するのだ。
マイキーは静かに赤林檎の木へと歩み寄ると枝葉を見上げ、真っ赤な果実に向かって手を伸ばす。
太陽の恵みを浴びた艶のある果実の表面を撫で、そのまま付け根に手を添わせ一思いにもぎ取る。重量感のある果肉を手に取りながら掌の上で回転させ、マテリアライズを行う。
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〆カード名
赤林檎
〆分類
アイテム-食材
〆説明
ティムネイル諸島に分布する林檎樹の果実。真っ赤な艶のあるその実は甘さと適度な酸味を含む。
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この赤林檎を早速生産加工に掛ける。キーボードを弾くその仕草は手馴れたもので、一切の無駄なく素材が画面に打ち込まれて行く。
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▼生産メニュー
○錬金術 S.Lv6.00
・抽出
・分解
・発酵 >>>>> 【生産素材選択】
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生産区分:発酵
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▼生産素材1 赤林檎×1
▼生産素材2 空き瓶×1
【生産素材の追加】
●生産する(生産確率:100% 生産時間:1分30秒)
●キャンセル
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生産を実行し、一分三十秒の時を待つ。生産確率からして失敗は無い。素材を失う事無く、ただ生産に集中する事が出来る。
林檎樹の木陰でマイキーが休んでいると、湖畔で水菜の採集に精を出していたアイネとキティが歩み寄る。休憩なのか彼女達は彼の隣に腰を下ろすと、その作業を視線で問い掛ける。
「錬金術の生産さ。赤林檎から果実酢作ってるんだよ」
マイキーのその言葉に表情を輝かせるアイネとキティ。
「もしかして赤林檎酢? え、私達も調理でそれ探してたの!」
二人の意外な言葉に思わず微笑みを浮かべるマイキー。
「必要なのか? だったらこれから量産するから必要分持って行けよ」
「本当に? ありがとう」
笑顔を見せる彼女達にカードを手渡すマイキー。
受け取った彼女達の掌でリアライズされた赤林檎酢の瓶の蓋が開けられると、仄かな酸味を匂わせる甘い香りが辺りに広がる。
「振舞ってくれるんだろ。楽しみにしてるからな」と再び立ち上がり林檎の木を見上げるマイキー。
「うん、楽しみにしててね」と答えるアイネにキティが笑顔で頷く。
互いに協力し合い楽しめるこの生産生活、噛み締めれば噛み締める程、実に奥深いようだ。