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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
109/169

 S5 [錬金術S.Lv5.00:グリーンハーブドロップ]

 ■創世暦ニ年

   四天の月 土刻 4■


――偉大なる錬金術師を志すに当って、必要な材料は類稀なる好奇心と不屈の精神である――

――実験材料となる素材等、その両者に得てして付属する物――

――大事な事は、人の根底に隠されている――


 スティアルーフの錬金術ギルドで配られていた電子情報の冊子には、錬金術の如何が記されている。それは大原則として人の在り方を問う極シンプルな内容だったが、何故かその文言を繰り返し読み耽る自身にマイキーは当惑していた。

 在り来りと云えばそれまで。人格や精神論に及んだ取りとめもない内容だった。だが、何故かそのフレーズを繰り返し視線で追ってしまう。表面的には反意を装っていても、根底では受け止めている。

 少なくとも、この生産生活を楽しんでいるという意味では、その魅力に取り込まれた冒険者の一人と云えた。

 PBを閉じたマイキーは本日の生産レシピを確認する。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

●[錬金術S.Lv5.00:抽出] グリーンハーブ + 空き瓶 =グリーンハーブエキス

●[錬金術S.Lv5.00:化合] グリーンハーブエキス + 砂糖 or 蜂蜜 =グリーンハーブドロップ

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 今回の生産はグリーンハーブからグリーンハーブドロップを作る。

 グリーンハーブはティムネイル諸島の全域に渡って生える香り高い緑草である。分布域においては清涼感漂うその独特の香りから発見は容易。

 分布域については予めLocal NetWorkで位置情報を控えてきた。

 森林に差し込む僅かな朝陽に導かれるように、木の葉が重なる泥地を探索しているとまるで自らの存在を示さんとばかりにその独特の香りが仄かに鼻元をくすぐる。


「この辺りか」と足を止め、辺りを眺め渡す。


 木々の合間を縫って野生のラヴィ達が身体を丸めてコロコロと転がって行く。

 近場の茂みではガサガサと音を立て現れたオニオンポックルがマイキーの姿を視認するや否やその場で硬直していた。


「安心しろって。何もしないよ」


 マイキーが苦笑したその時、仄かに鼻元を擽る清涼感を纏った香り。その香りが流れを辿った先の茂みには緑々しい目的の若木が群生していた。


「これか、グリーンハーブって」


 ギザギザとした葉が特徴的なグリーンハーブ。高さ四十センチにも満たないその若木には幾重にも茎が分岐し小さな葉を繁らせている。

 根元に手を掛けて若木を引き抜くと鼻元に近付ける。その際立つ香りを確かめながら、周囲の野生動植物に見守られマテリアライズを進める。

 背後のオニオンポックルが依然固まったままマイキーの動向を探る中、彼はカードをひらひらと振って敵意が無い事を示して見せる。


「こういう風に群生してると採集が楽で助かるな」


 その手で次々とグリーンハーブを摘み、マテリアライズを行ったマイキーは朝陽から隠れた木陰に落ちている木の葉を寄せ集めて泥地に敷くと、そこに腰掛け生産画面を開く。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 ▼生産メニュー


  ○錬金術  S.Lv4.53

   ・化合

   ・抽出 >>>>> 【生産素材選択】

   ・分解


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

 生産区分:抽出

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 ▼生産素材1 グリーンハーブ×1

 ▼生産素材2 空き瓶×1

 

 【生産素材の追加】


 ●生産する(生産確率:75% 生産時間:1分)

 ●キャンセル

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 まだ生産スキルは依然S.Lv4から脱却出来ていないが、素材収拾から加工まで時間が掛かる墨汁と上位生産であるこのグリーンハーブを用いた加工品とでどちらが効率が良いのか、試してみる価値は有る。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

 現在生産中です

 生産状況 16%

 ■□□□□□□□□□

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 木陰で一分間の待ち時間をのんびりと、宙を舞う黒羽黄紋蝶パピルスの美しいのその軌跡を追いながらただ時の経過を待つ。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

 【生産に失敗しました】

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 一回目の生産は不運にも失敗に終わった。上位生産に失敗は付物である。仮え、確率的に五分を超えた生産においても、その確率が百パーセントでは無い限りギャンブルである事を忘れてはならない。ギャンブルには必ずリスクが付き纏うのだ。

 再び生産設定を行い二回目の挑戦にしてグリーンハーブからの抽出に成功する。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

 【生産に成功しました】

 ★生産アイテム:グリーンハーブエキス

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 だがグリーンハーブの加工はここで終わりでは無い。ここで抽出したグリーンハーブエキスを市販されている砂糖と化合する事でこの生産の目的の化合品を作り出す事が出来る。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 ▼生産メニュー


  ○錬金術  S.Lv4.55

   ・化合 >>>>> 【生産素材選択】

   ・抽出

   ・分解


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

 生産区分:化合

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 ▼生産素材1 グリーンハーブエキス×1

 ▼生産素材2 砂糖×1

 

 【生産素材の追加】


 ●生産する(生産確率:75% 生産時間:45秒)

 ●キャンセル

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 設定画面を確認しながら、材料を放り込み生産を実行する。その行程はグリーンハーブから抽出したエキスを甘味と化合させドロップを作るという至極シンプルな内容である。

 甘味の元となる材料はレシピとしては砂糖と蜂蜜の二種類が指定されている。共に街の道具屋で販売されているが蜂蜜は比較的高価な為、ここでは砂糖を予め購入しておいた。

 ここで生産出来るグリーンハーブドロップには知る人ぞ知る効能が有り、冒険者の休憩ヒーリングを助長する効果がある。

 ヒーリングとはこの世界での基本行為。この行為はボイスコマンド「Healing」の宣言によって開始され、その定義は自身から展開される半径一メートルの円<ヒーリングサークル>内に存在する事とされている。

 このヒーリングによる回復効果はHP・SP共に六秒につき1%、故に全回復には十分が掛かる。

 グリーンハーブの効能は『ヒーリングHP+1』。つまり、六秒間に1%回復されるHPに『1』の値を加えて回復する。

 これはHPの低い序盤においては非常に優秀な性能を秘めている。例えば今現在のマイキーのステータスを例に挙げるならばそのHPは『50』である。故に六秒間を基本周期としたその回復量は『0.5』。つまり十二秒間に『1』、それがHPの回復量となる。この条件で想定される一分間のHP回復量は『5』である。

 対してグリーンハーブドロップを用いた場合、基本周期である六秒間に『1』の回復量が加算される。つまり六秒間に『1.5』の回復量を誇る事になる。この条件から想定される一分間の回復量は『15』。通常のヒーリングと比較した場合、約三倍の効率を齎すのである。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

 【生産に成功しました】

 ★生産アイテム:グリーンハーブドロップ

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 この世界での情報力がいかに重要であるか、今更ながらに思い知らされる。

 出来上がった生産品を手に取り、その淡く透き通った薄緑のドロップの香りを確かめ口の中へと放り込む。

 口内から鼻腔を通り抜ける爽やかなハーブの香り。自らの手で作った実用品の味わいは感慨深いものがある。

 もっと早くにその存在に気付いていれば、その後悔もまた甘く透き通ったその味わいに一味添えているのだろうか。

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