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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
108/169

 S4 [錬金術S.Lv4.00:墨汁]

 ■創世暦ニ年

   四天の月 土刻 3■


 素朴な小麦色の畑は豊かな恵みを与えてくれた。所持品を埋める小麦粉の束は昨日の軌跡と成果を示す。畑の守護者と格闘しながら一本一本を丹念に刈り取り脱穀する。振り返ればその作業の経過が断片的に思い返される。基本的には決められた行程を繰り返す単調な作業。だがその作業は自然の恩恵の元に成り立っている。

 採集生活において、冒険者が忘れては為らない事は自然への感謝である。一見、これはただの綺麗事に聞こえるかもしれない。たかがゲームの世界での植生を摘む事に一々の感謝など無用にも程がある。実際、どちらと言えばマイキーも又、馬鹿らしいと思う筋の人間ではあった。だが、実際に大地に根付いた稲穂を自らの手で刈り、収穫する過程で自然とその考え方は変化する。普段は植生になど一片の興味も覚えない所、実際に触れ感じる事で自然と感謝の念が浮かび上がってくる。これは彼自身、実に不思議な体験だった。

 生産という一つの行程に喜びを覚えた彼はまた新たな目的を志す。向う先はフロイスモール島。尤も多くの冒険者にとってはこの呼称は記憶に薄い。緑園の孤島と云った方が馴染み深いだろうか。

 今回の生産レシピは錬金術のS.Lv4のレシピに当たる。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

●[錬金術S.Lv4.00:化合] 黒炭石 + 蒸留水 =墨汁

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 黒炭石とは、主成分をほぼ炭素と少量のアルカリ塩を含んだこの島特有の火山岩である。この島のシンボルとも云えるGrande Rock Piasを誇るコロネオ火山。現在は休火山であるが、この諸島には火山帯が通っている為、こうした特質な鉱石を入手する事が出来る。

 今回のレシピは単純にこの黒炭石と蒸留水を化合させて墨汁を作るというものだった。蒸留水は予めエルムの村で空き瓶を十数本購入して、村の井戸で澄んだ水を汲んできた。レシピでは蒸留水とされているが、ここは淡水で透明度の高い水であれば代用する事が出来る。

 汲み替えについてはフロイスモール島の西部に存在する淡水湖が解決してくれるだろう。あそこの湖は、非常に透明度が高く冒険者の水浴びにもよく利用されている。

 故にあとはこの黒炭石をどう調達するか、に限られるのだ。だが、これも些細な問題に過ぎ無かった。フロイスモールはかつてコロネオ火山の噴火に因る地盤の隆起と降り積もった火山岩や火山灰の層が長い年月を掛けて植生化された島である。森林部の多くは泥地だが、島の中央部の丘陵地帯に向えば、今もなお剥き出しの古代の地層が拝めるのだ。


――黒炭石を求めるならば、土地の起源を探れば自ずと素材の入手先は見えてくる――


 Local Net Work上の錬金術を専攻する者達が勿体振って残した言葉。今ならば、その言葉の意味が理解出来る。


「たかが墨汁作るのに、大した労力だよな」


 皮肉めいて呟く視線のその先には森林から開け放たれた丘陵地帯を抉った高さ数十メートルの巨大な断層。幾重もの層を成す重厚な年月を思わせるその断層に思わず身震いする。片手に握られた黒光りする精鉄のつるはしを断層面に突き当て、目的の地層を探す。

 古生代から噴火を重ねてきたその地層は、特定の色合いを所々で繰り返し上層部の岩肌へと続いている。

 マイキーが立つ地表部には真っ黒な黒炭層が流れていた。冒険者至上主義とは言わないが、こうした便宜性が図られているところはやはりゲームか。だが、たまたま目的としてこのポイントが発掘において地層に恵まれていた可能性もある。どちらにせよ、幸運には変わりない。


「始めるか」


 ここには発掘行為を阻害するものは何も無い。作業が始まればそこには言葉を失い、黙々と行為に集中する冒険者の姿がそこに浮かび上がる。

 つるはしを振り上げ断層面に大きく突き当てる。黒炭層の表面に鉱具の尖端が突き当たる度に、高周波の金属音が鳴り響く。目的が無ければ耳障りなその出音も、冒険者の境遇次第で心地良い旋律へと変わる。一定の間隔が打ち出されるその金属音に、我身を奮い立たせるように何度もつるはしを振るう。


――カン……カン……――


 地層から剥がれ落ちた鉱石が足元に溜まると、その一つを拾い上げマテリアライズする。

 カード化された黒炭石の用途は勿論決まっている。キーボードを弾く指先のリズムも自然と速まる。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 ▼生産メニュー


  ○錬金術  S.Lv4.00

   ・化合 >>>>> 【生産素材選択】

   ・抽出

   ・分解


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

 生産区分:化合

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 ▼生産素材1 黒炭石×1

 ▼生産素材2 蒸留水×1

 

 【生産素材の追加】


 ●生産する(生産確率:100% 生産時間:1分)

 ●キャンセル


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 生産時間の一分間は、身体を休めただその結果を待ち望む。

 生産確立は100%。故に失敗は無い。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

 現在生産中です

 生産状況 11%

 ■□□□□□□□□□

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 一見使い道に余るこの墨汁というアイテムだが、今後の錬金術の生産過程で必要に為る素材である。今は使い道が無くとも保存しておいて損は無い。


◆―――――――――――――――――――――――――――◆

 【生産に成功しました】

 ★生産アイテム:墨汁

◆―――――――――――――――――――――――――――◆


 長い目で生産を捉えれば、こうした余剰生産品も有効活用出来る時が来るかもしれない。所持品を圧迫するのが難点ではあるが、場合によっては取って置く価値のある素材も存在する。ただし、この墨汁という素材に関しては実はエルムの村の道具屋で流通している。生産スキル上げの為には空き瓶への水の汲み替えも必要になる為、今この場では非常に残念ではあるが断層近くの窪みに垂れ流しにする結果と為った。何事もケース・バイ・ケースである。

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