S1 [錬金術S.Lv1.00:海塩]
マイキーの提案で有無を言わさず始まった新たな余興。仲間にとっては不意打ちも良いところだったが、満更でも無かった。
黙々と空き瓶で海水を掬い、PB上で海塩へと変換する作業は傍から見れば地味と言わざるを得ない。だが、生産を行っている本人達はと云うとそうでも無い。
まるで子供が波打ち際で意味も無く無邪気にはしゃぐように、そこには歓声を上げながら生産の成果に一喜一憂する冒険者達の姿が在った。
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▼生産メニュー
○鍛冶 S.Lv0.00
○木工 S.Lv0.00
○縫製 S.Lv0.00
○製革 S.Lv0.00
○魔工 S.Lv0.00
○錬金術 S.Lv0.06
○骨象 S.Lv0.00
○料理 S.Lv0.00
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生産メニューの中から錬金術を選択する。するとそこには合成区分を選択する画面が現れる。合成区分とはその素材アイテムを掛け合わせる時に行う手法と捉えて間違いは無い。
錬金術ではここでは『化合』『抽出』『分解』と云った選択肢が現れる。
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▼生産メニュー
○錬金術 S.Lv0.06
・化合
・抽出
⇒分解 >>>>> 【生産素材選択】
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生産区分:分解
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▼生産素材を選択して下さい
【生産素材の追加】
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ここで素材を選択するフォームが開ける。ここで生産素材の追加で組み合わせる各種素材を入力する。
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生産区分:分解
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▼生産素材1 海水×1
【生産素材の追加】
●生産する(生産確率:75% 生産時間:15秒)
●キャンセル
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ここで生産を実行すると、画面に表示された生産確率と時間に基づいてアイテムが生成される。海水から海塩を生産出来る成功確率は75%。つまりは四分の一の確率では失敗する事を指し示している。
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現在生産中です
生産状況 24%
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海水から海塩を作り出すのに掛かる時間は十五秒。その規定時間後にPBには生産結果が表示される。
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【生産に成功しました】
★生産アイテム:海塩
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僅か十五秒の行程が筆舌にし難い程の喜びを齎す。
生産確率75%に見事に踊らされながら、海岸で歓声を上げて騒ぐ冒険者達。
「調べた情報によるとこの海水からの生産で錬金術の生産レベルはS.Lv2.00まで上げられるらしい。今僕らの生産レベルはS.Lv0代だろ。海塩の生産はS.Lv1だからこれはこの世界の用語では上位生産に当たるんだよ。生産スキルと生産難易度が一致している場合は成功した場合0.01上昇。それ以上になるとS.Lvの差分に合わせて二乗されて行くらしい。その分、成功率も下がるけど」
マイキーの説明の大半を仲間達は理解しては居なかった。ただ海水から海塩がPB上の簡易な操作で生産出来る。その現象が面白くて堪らない。
瓶詰めにされた海塩が出来る度に、中身を取り出して海岸にばら撒く。その作業を五人で繰り返しているうちにいつしか海岸には巨大な塩溜りが出来ていた。純白の結晶の山を手で掬って喜ぶタピオの背中を突き飛ばして塩の山にタピオを埋めるジャック。
「しょっぱい! うわ、しょっぱい! ほんとにしょっぱい!」と喚くタピオ。
「お前何回しょっぱいって言うんだよ」と悪戯な笑みを浮かべるジャック。
もはや寸劇と化してきた二人の挙動を見つめながら、苦笑するアイネとキティ。
その傍らでマイキーは黙々と海水から海塩を作り出す作業を続けていた。大体一分で一回の生産工程が終わる。集中力さえ持てば計算上は一時間強で、錬金術をS.Lv1.00に上げる事も不可能では無い。
そんなマイキーの視界を顔で遮り、手を振るアイネ。
「マイキーって集中すると周り見えなくなるのよね、いつも」
「そうか? 単に無駄な動作省いてるからそう見えるだけだろ」
冷静なマイキーの返しをおかしそうに微笑むキティ。
「見えてないよ。もっと皆と一緒なんだから生産も楽しめばいいのに」
「塩溜りに埋もれて叫ぶ事に何の意味があるんだ。馬鹿か」
そう言ってまたPBの操作に戻るマイキーの姿に顔を顰めたアイネはそっと彼の背後へと回る。彼女の手招きに呼び寄せられたキティは当惑しながらも彼女の指示に不安気な様子でアイネと共にマイキーの肩に手を伸ばす。
「キティ、行くよ。せぇの」
アイネの掛け声と共に後方に大きく薙ぎ倒されるマイキーの身体。塩溜りに頭から倒れ込んだマイキーは仲間達が笑顔で見つめる中、跳ね起きて身体中の塩を払う。
「アイネ、お前ふざけんなよ!」
「結構、塩溜りも楽しいでしょ。感想は?」
笑顔に見守られる中、マイキーは物々と呟きながら海岸に歩み出て海水で顔を洗う。
染み渡る塩水に不平を零すマイキーの姿を見つめながらふと呟いたタピオのある一言。
「アイネさんて、時折Sだよね」
若干、恐怖味を帯びたタピオの言葉を捕捉するように彼の肩に手を回すジャック。
「いや、時折って云うかあいつの本質はドSだから。お前も気をつけろよ」
他人事ではないジャックの言葉に無言で頷くタピオ。
そんな奇妙な空気感でさえ、どこか心地良い。それは不思議な心持ちだった。