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ARCADIA ver2.00  作者: Wiz Craft
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【Episode】Royal Rock Garden Live

 東京池袋、旧サンシャイン通り。煌びやかなネオンに包まれた夜の街。数百年前から変わらぬ盛況振りを見せるこのストリートは現代では映画・音楽・ゲームといった芸術性に富んだ娯楽に溢れている。若者向けに創られた通りには電飾が煌き人の賑わいで絶えない。

 かつては歩行者天国であったと云われる通りも、現代では大規模な区画整理と環境整備により車道やスカイロードが通っている。近代的なファッションに包まれた人々を車窓から眺めながら、通りの一角の駐車場へと折れ曲がる今一台のワゴン車。


「金貯めて早くエアハイカー買いたいもんだぜ。地上車道じゃ交通規制が多すぎる」

「今の俺達の身分じゃ高望みもいいところだな。航空免許の取得だって馬鹿にならないんだ。空飛ぶのは夢の中だけにしとけよ」


 駐車場へと現れた三人の男女は慣れた手付きでワゴン車から楽器を運び出すと、Royal Rock Gardenと派手なネオンとホログラフィーによって浮かび上がる立体文字で装飾されたライブハウスへと消えて行く。

 細く薄暗い下り階段を抜けた先ではリハーサルに控えたセミプロアーティスト達が出音の調整を行っていた。

 洗練された立衣装に身を包んだ彼らは三人の姿を姿を見掛けると笑顔で迎え入れる。


「よう、マイキー。今日は珍しく遅かったな」


 仲間の掛け声に苦笑した青年は、Destia Prisという高級メーカーのキーボードを定位置に運びながら呟く。


「悪い。ネットゲームに嵌っちゃってさ。馬鹿みたいにずっとやってた」


 マイキーのその言葉に大笑いを始めるアーティスト仲間達。


「ネットゲーム、お前いい年扱いて何がゲームだよ。まさかここ三日間ずっとやってたって言うんじゃないだろうな」

「そのまさかだよ。正確にはゲーム時間では七十二日間だけどな。笑えるだろ?」


 笑いの耐えないライブハウス内だったが、笑顔を見せていた仲間内のドレッド・ヘアの女性が口を開く。


「ねぇ、もしかしてそのゲームってARCADIAって奴?」

「ああ、知ってるのか。ヴィアノ?」


 その言葉に苦笑するヴィアノ。


「今兄さんが嵌ってるのよ。止めときなよマイキー。そのゲーム死人が出てるって噂だし。ゲームなんかより音楽の方がずっと楽しいでしょ」

「まぁ一理あるけどな。ただ、一度やると結構ヤバイんだよこのゲーム」


 マイキーの言葉に仲間達は半ば呆れた様子で笑みを浮かべながら音出しを始める。

 階段上から、ドラムセットを運んできたジャックとアイネは仲間達にここ数日間を問われ、マイキーと似た返答を返し笑いの種とされ始める。


「呆れた。あんた達三人で何やってるのよ」


 鼻立ちの整った美しきバンドマスターであるサーシャは、長い黒髪を撫でながら溜息を吐いた。


「ドラッグやSEXよりも興奮させてくれるのかそのゲームは」


 そのサーシャの肩に手を掛ける髭面の若男がロイ。言葉通り、マリファナ中毒の上にSEX依存者という人して踏み外した男だ。


「少なくともお前よりは健康的な趣味だぜ」


 ジャックの言葉に両手を広げお手上げのポーズを取って見せるロイ。

 ライブハウスの隅ではヴィアノに手を引かれたアイネが彼女から質問攻めを受けていた。


「最近マイキーとはどうなの。まさか、三日間本当に何もしないでネットゲームプレイしてた訳じゃないでしょ」


 ヴィアノの言葉にアイネの白肌が自然と赤みを帯びて反応する。


「何もないわよ。本当にゲームやってただけなの」

「呆れた。何よそれ」


 そんな他愛も無い会話を交しながら今夜のステージの準備を整え、次々と音出しを始める。

 

「ああ、なんか楽器触るのすっげぇ久々な感じがする」


 ジャックの言葉に苦笑いするアイネ。


「私も。ちゃんと歌えるかな」


 そんな二人の会話にベースを構えたロイが嘲笑する。


「うちのメインボーカルとリズムの要がそんな調子でどうすんだ。もうすぐダンサーとの音合わせも始まるんだ。しっかりしろよ」


 場にドラムのリズムが鳴り響くと、自然と周囲の奏者達が音を重ねて行く。

 ハットを浮かした激しいフォービートにチョッパーベースでアクセントを付けるロイ。マイキーは半ば気だるそうな表情で白玉のコードトーンを取りながら音色を弄り始める。

 マイクに声を通しながらエンジニアに細かに音量と響きの調整を要求するアイネとヴィアノ。サーシャはステージ外からそのバランスを確認しながら細かに全体に指示を振って行く。

 一通りの演奏曲目を流した後で、ダンサーチームと合流しショーアップを始める。


「何か今回スローバラード多くねぇか」


 曲譜を見ながら不平のように呟くジャックをサーシャが睨み付ける。


「今回のショーアップのテーマがラブバラードだからね。それを求めてやって来る客層に対してアップテンポな曲捧げて客が満足すると思う?」

「燃え上がるような恋もたまにはいいんじゃないか」


 ロイの横槍をサーシャは鋭い眼光で制すると、ダンサーチームと演奏者達を上手く取り纏めステージジングを仕切り始める。

 普段は何気ない日常がマイキー達にとっては今日は何だかこれが逆に新鮮に感じられた。

 それは現実と仮想現実の逆転なのか、明らかにアンバランスな生活比重によって日常感覚が狂わされている事は確かだった。


「これ……UTFPUSの前兆じゃないだろうな」


 苦笑して演奏に戻るマイキー達。

 そこには、日常の本来の姿、アーティストへと戻る生活者達の姿が在った。


 ■作者の呟き


 ここまで本作にお付き合い下さり本当にありがとうございます。早いものでもう百話目を迎える事となりました。折角なので異色な話をエピソードに。

 基本的にARCADIAという作品を描くに当っては現実描写は興醒めするので、極力控えようかと思っていたのですが、設定を練ってると個人的に無くはないなと、今更ながらに第五章の書き出しを見直しています。

 ARCADIAの現実舞台設定は2548年なので遠い未来の話なんですよね。今回のエピソードはライブが中心なので、余り未来の設定には触れていませんが、ちらりと話に出たエアハイカーやスカイロードという単語。これは航空車とでも言いますか、空を飛ぶ車や車道の事なんです。他にも旧サンシャイン通りとか、小ネタを挟んでみましたが、設定では本世界ではサンシャインは無くなった訳ではなく、六十階を越えたハイタワーとして進化を遂げています。五百年という時の流れを考えると、地名や建物の存在は消えていてもおかしくはないのですが、残っていて欲しいという個人的願望です(笑)

 未来の地域ネタも非常に面白そうなんですけどね。作品主旨を保てるかどうかが非常に不安な点でもあるので、脱線しない程度に挑戦してみようかという個人的な好奇心には駆られています。現実設定を上手く活かせれば作品の可能性が広がる事は確かですしね。

 保守に回るか果敢に攻めるか、本作では挑戦者的な気概で臨んでいる面も強いので、構想がまとまり次第番外編という形で未来舞台を描かせて頂くかもしれません。

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