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第三項 用語について(二)

〇プリンチェプスprinceps

 この解説では当たり前のように「初代皇帝」「2代目皇帝」とか書いているが、本文中には「皇帝」という言葉は出てこない。ローマ人は「独裁」への嫌悪が非常に強かったらしい。故に、アウグストゥスは「市民中の第一人者プリンチェプス」という立場を死ぬまで崩しておらず、これはティベリウスも同様である。

 ローマの「皇帝」は、先帝から「この人が跡継ぎだ」と言われただけでは十分ではない、非常に判りにくいものだったようだ。アウグストゥスの死でティベリウスが「第一人者」になった時、元老院が可決したのは、「ティベリウスがアウグストゥスの後を継いで第一人者になる」ということではなく、アウグストゥスが持っていた「護民官特権」「全軍指揮権」などの種々の権限を一つずつ数え上げて、改めてティベリウスに与える、ということだった。「皇帝」は、勅令の形で暫定措置を命じる事はできるが、永続的な「法律」にするためにはこれも元老院の議決を得なければならない。

 かといって「第一人者」というのも非常にこなれない妙な言葉である。「プリンチェプス」は「元首」、「プリンキパートゥス」は「元首政」という訳語を通常当てるが、ここでの「プリンチェプス」は役職名ではなく、どちらかというと一種の称号に近い、という気がする。イメージとして深川的に一番近いものを探すなら、平安時代の「一の人」というやつだろうか。「元首」としてしまうと、他の役職名「執政官」「法務官」といったものの一種のような印象になってしまうような気がして、作品中では「第一人者」で統一した。


〇イムペラトルimperator

 ローマが「常備軍」を持ったのは、紀元前百年頃の出来事である。それまでは戦争のたびに有産市民を集め、軍団を編成していたのだが、この頃から「兵士」が一つの職業となり、有給となった。それまでは権利であり義務であったのだが。

 そしてこの軍団兵たちを指揮するのが、「イムペリウム=軍団指揮権」を与えられた「イムペラトル=軍団指揮官」たちだ。ローマの将軍たちの「指揮権」は、必要に応じて、戦線を限って与えられる。(故に、ゲルマニア戦線を戦っていたティベリウスが、パンノニアで起こった属州の反乱を鎮圧しようとすれば、改めてこの戦線に対する「指揮権」を元老院によって認めてもらわなければならなかったわけだ。)いわば国会議員が指揮権を与えられて軍を指揮するようなもので、職業軍人ではない。また、「イムペリウム」を与えられるためには、基本的には「執政官」や「法務官」を経験する必要があった。

 アウグストゥスが「イムペラトル」の称号を永続使用する権利を持つ、というのは、この「イムペリウム」を、全軍団に対し、永続的に持つということだ。この語は後に「エンペラー」=皇帝の意にもなる。(余談だが、「カエサル」は「カイザー」や「ツアーリ」などに転じ、これも皇帝の意となった。)作品中では皇帝を「最高(全軍)司令官」、将軍を「総司令官」、その他を「司令官」として区別しているが、「最高司令官」という言葉は(多分)ない。アウグストゥスが持つ特権「イムペリウム・プロコンスラーレ・マイウス」も、「全軍最高指揮権」は意訳で、直訳すれば「執政官格指揮大権」だと思う(別に「大指揮権」でもいいが)。「プロコンスラーレ」は「執政官コンスルを経験した人(「プロ」は「前」の意)」、マイウスは「大」である。


〇元老院senatus

 元々は王の諮問機関で、家長(部族長)たちの寄り合いとしてスタートしたといわれている。本作の時代、定員は六百人。その地位は終身であるが世襲ではなく、まず「騎士階級エクイタス」の中でも百万セステルティウス以上の資産を持ち(騎士階級の資産要件は四十万セステルティウス)、かつ規定の官職を務めることによって参加が認められた。四千五百万ともいわれるローマ世界の頂点に立つ六百人であるから、その権威は極めて高かった。月に二回の定例会議があり、これは議題がある限り続く。緊急の議題があれば、その権利を持つ人間(護民官特権保持者など)によって召集される。

 因みにローマという共同体を現す正式名称は、「元老院並びにローマ人民(SPQR=Senatus Populus Que Romanus)」であり、古代ローマの建造物を見ると、結構このロゴが入っている。映画『グラディエーター』で、将軍マキシムスの腕に入れてあった刺青も、この「SPQR」である。


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