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第四項 ローマを描いた映画  ついでに、ちょっとだけ時代背景など

 元の原稿が二〇〇七年なので少し迷ったが、古い映画が多いのでアップすることに。ローマを舞台にした映画の感想のつれづれです。

〇共和国

 本作の描いた時代は、限られたエリート(=元老院議員)たちによる寡頭体制、すなわち「共和政」と、皇帝による独裁=「帝政」の丁度過渡期に当たる。「共和政への共感、ないしは郷愁」というのはローマを描く場合に結構ベースとなっているようで、一応未だ共和政下にあったローマを描いた映画『スパルタカス』(カーク・ダグラス主演。舞台はBC73年頃)にも、帝政もすっかり定着した筈の五賢帝期末期からを描いた映画『グラディエイター』(ラッセル・クロウ主演。舞台はAD180年頃)にも、ローマのあるべき姿としての「共和国」を口にする場面がある。『スパルタカス』では、貴族による寡頭体制を信奉するクラッスス(第一次三頭政治の一人)と、独裁を嫌い、「ローマは民衆のもの」とするグラックスとの対立が描かれる。

 もっとも、話は少し込み入っていて、グラックスはクラッススの「独裁」を批判するが、クラッススはむしろ「共和主義者」であって決して「独裁者」ではない。敢えて言うならば、彼は「貴族主義者」なのである。そして「民衆派」として描かれるグラックスは「元老院の自由」を守ろうとするが、これは「民衆の自由」とイコールではない。「元老院」は今日の議会のごとく、「議会制民主政」の産物ではなく、あくまで資産要件をクリアした数百人のエリートたちの集団だからだ。こうなると、この二人の対立は実は少々おかしなものになる気がするのだが、どうだろう。ちなみに「民衆派」として知られる超有名人はユリウス・カエサルである。「帝政ローマ」への道を開いたカエサルは、「民衆」の人気を背景に、むしろ「元老院の権威」を叩き潰した。

 『グラディエーター』は何といっても円形競技場での「ザマの戦い」の再現シーンが素晴らしくカッコよくて、マキシムスの台詞「円陣を組め!(Form circle!)」をついパクってしまった(苦笑)。また、この映画の冒頭で描かれたローマ軍のスタイルは、史実にかなり忠実らしいので、興味ある方はどうぞ。

 余談だが、映画ではよくローマ軍の旗が金色に塗られていて、まあその方が画面上映えるのかもしれないが、それでは銀鷲旗ではなく金鷲旗ではないか、と、オタクなツッコミをしてみたくなったりする。


〇イエス・キリスト

 作品中の「西暦」を追っていただければ判るが、イエス・キリストはこの時代に生まれ、AD30年頃十字架にかかっている。キリストの有名な台詞、「カエサルのものはカエサルに」の「カエサル」は、つまり厳密にはティベリウス・カエサルである。『ベン・ハー』(チャールトン・ヘストン主演)でちょっとだけ出てくる皇帝もティベリウスで、オリジナル音声では「皇帝ティベリウス」とちゃんと言っているのだが、深川が観た映画の字幕では省かれていた。まあいいけど………(苦笑)。(しかし、この頃は既にローマを家出してカプリ島に引きこもっていたのでは?という話もある。)『ベン・ハー』で唯一見ごたえのあるシーンと言われる(それもひどいか)戦車レースのシーンは、一周ごとに作り物のイルカを倒していくところも含め、結構考証は正確であるようだ。

 話は変わってグナエウス・ピソがシュリア属州に赴任した時、ユダヤ属州長官を務めていたのは四代目のグラトゥスだが、この次に就任する五代目長官こそ、キリストの磔刑を黙認した悪名高き?ピラト、ポンティウス・ピラトゥスである。ユダヤ属州内ではある程度ユダヤ法に基づく自治が認められていたが、死刑執行に関しては長官の許可が必要だった。ピラトは象徴的というか曖昧な表現で死刑にOKサインを出したのだ。これを解任したのがルキウス・ウィテリウスで、本作中にも実はチラッと顔を出している。ピソ裁判の時と、名前は出てこないがティベリウスの最晩年だ。「アルメニアが政治的に混乱しかけた時、全権大使として派遣された」というのがこのウィテリウスで、ピラトの解任もこのときに行われている。

 キリスト絡みでは『クオ・ヴァディス』(ロバート・テイラー主演)という作品がある。ネロ治世下のキリスト教信者の迫害を描いた作品で、実在の廷臣で「趣味の判定人」と言われたペトロニウスが中々いい男である。個人的にはリメイク版よりこちらのオリジナルが好き。史実に忠実とはいかないが、ネロが自殺したこと、次の「皇帝」が、軍人出身のガルバであったことぐらいはさすがに事実。余り本筋に絡まないのにしつこく名前だけは出てくるネルヴァは、多分五賢帝の一人目コッケイユス・ネルヴァを意識したのであろう。


〇その他

 アウグストゥスを描いた作品として『ローマン・エンパイア』(ピーター・オトゥール主演)がある。アグリッパやマエケナスを始め、この時代の主要人物が出てくるが、筋は相当チャチで、時代物のホームドラマぐらいに思って観た方がいいと思う。五十代に入ったばかりのアウグストゥスを、七十歳を越えたピーター・オトゥールに演じさせるのは余りにも気の毒だ。ユリアと親子にはとても見えない。

 『カリギュラ』(マルコム・マクダウェル主演)は「エロス大作」なので苦手な人はダメだろう。ヘア解禁版で18禁。確かに徹底してエロだし残虐シーンもてんこ盛りだ。だが、こちらは『ローマン・エンパイア』とは逆に、七十代のティベリウスを五十代のオトゥールが演じており、最初の方しか出てこないが、彼の演じる変態ティベリウスはなかなか一見の価値がある(笑)。親友ネルヴァもいい感じだ。

 そんなところか。深川の「ローマお勉強映画」でした。

 本冊子の主要参考文献です(順不同・敬称略)


<全般>

『ローマ人の物語』塩野七生(新潮文庫)

<第2項 登場人物紹介>

タキトゥス『年代記』(岩波文庫)

スエトニウス『ローマ皇帝伝』(岩波文庫)

JOHN HAZEL『WHO’S WHO IN THE ROMAN WORLD』(Routledge)

プリニウス『プリニウスの博物誌』(雄山閣)

Dio Cassius『Roman HistoryⅦ』(Loeb Classical Library175)

<第3項 用語について>

長谷川岳男・樋脇博敏『古代ローマを知る事典』(東京堂出版)

弓削達『素顔のローマ人』(河出文庫)


 あと、ウィキペディアなども当時結構使用したので、正確さを求める方は必ずご自分でご確認をお願いします。あくまでも「こういう見方で小説を書きました」というものです。

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