第二章 分からずじまい
あの、落雷事件から数時間後。
急に現れた二人の付喪神のトップ「柊真」と「冬菊」
この二人が俺たち二人の前に現れた理由は本人達自身わからないとの事だったが、今のところ分からなくても大丈夫そうである。
ただし、柊真いわく今後、俺たち二人は命の危険に晒さられると言っている。
それは、別にいいのだが、いや。良くわないけども。
汐もそれを聞いて「ふーん」というぐらいだ。どんな神経してんだろ。
第一にどんな危険が来るのだろう。
交通事故に見舞われる?上から鉄骨?地震で潰れてさよなら?
いずれにしろ、細心の注意は払わなくてはならないようだ。
「あの…お兄ちゃん?ボクたちやっぱり迷惑だよね?」
「いいや。全く?今のところはね。特に害は出てないし、何より可愛いから」
「え、ええ。ええっええっえいや。えぅ」
冬菊の反応は最初の時からなんとなく察していたが、面白いようだ。
「白色さん、冗談はそれくらいにしてあげてください。彼女、身なりはそうですが一応付喪神を超えた存在ですので」
「え?でも最初に付喪神だって」
「はい。でも、付喪神の能力は持っていますし。ちょーっと情報を書き換えても問題ないかと」
こやつ。いい人風に見えて変わった人。変人だと思う。
そんな話はよそに荒い息で変人をデッサンする変人(妹) を横目にしつつ、手伝うと言っても何が出来るか分からないなと思った。
「冬?今から、書き始めるんだけど手伝いって何できるの?」
「ええっとね!ボクは料理とか掃除、洗濯。家事はほとんど出来るよ!すごいでしょ!褒めて!」
「お、おお。まさかの俺より高スペック。そんなすごいやつのキーボード使ってたのか。恐れ多い気がするな」
俺は冬菊の頭をわしゃわしゃと撫でつつ。ていうか、髪めっちゃさらさらや。気持ちいいな。
「じゃあ、冬。コーヒーをアイスで無糖で大丈夫。それ終わったら大雑把にでも部屋の掃除してくれる?」
「やった!お兄ちゃんが仕事くれた!ねぇ!柊真さん!仕事もらえたよ!」
仕事を受けた冬菊はほんとに嬉しそうに飛び跳ねながら台所の方へ迷いなく進んでいった。
うん?迷いなく台所?なんで場所知ってるんだ?
このアパートの間取りはおかしくなっており、リビングと台所が繋がっておらず少し道を通ってから壁に囲まれた台所へ行くため、初めて家に来て台所借りるよ。と言ってもどこか分からず聞きに来るのが普通なのだが。
「冬ー?なんで台所の位置わかるんだー?」
俺は台所まで聞こえる声で冬菊に聞く。
すると、冬菊は顔を壁からひょこっとだし
「だってお兄ちゃんたまにタブレットとキーボード持って部屋移動してたでしょ?」
「なに?おにぃそんなことしてたの?ていうかタブレットならキーボードなくても打てるじゃん」
突然デッサン中の汐からツッコミが入る。
「いや。だってあのキーボード打ったら分かるって。ほかのキーボードと比べ物にならないから」
少し変態じみた発言だが、少しでも共感してくれる人はいないだろうか。
例えば自分の愛用するものを急に違うものにすると思うように出来なかったり。
つまりそういうことだ。よって俺は普通だ!
「どーせおにぃ今、ろくでもない持論唱えてたでしょ」
「そうですよね?白色さん?」
「お前らなぁ!当たってるけどよ!そして、柊真!お前に至ってはデッサンされすぎてポーズ取り始めてんじゃねーか!」
「柊真。いい感じ。いい絵きてる。インスピレーションきてるよ」
「ファイトです。雪姫さん。お力添えできて光栄です」
うわ。混沌とし始めたよこの部屋が。平凡だった部屋が一気にカオス化してきてる。
そんな所へ、天使が舞い降りた。
「お兄ちゃん!お待たせ。コーヒー出来たよ」
「おう。ありがとう。それじゃあ、残りもよろしくな」
「まかせて!」と胸を張り、嬉しそうに部屋の掃除を始めた冬菊。
胸を張ったとき、思ったが。少しだけ膨らんでいた。
俺はロリコンと呼ばれる種族かもしれない。
その後、俺はパソコンを付け原稿書き中と編集者、佐々木原へ連絡を入れた。(実はプロットさえ上げていないため原稿書きもクソもないのだが)
俺はプロット作成、汐はデッサン画をデータ化。冬菊は部屋掃除、柊真は俺ら二人の共同資料の本が詰まった本棚を整理していた。
「ピンポーン」
キーボードの音と汐の「えへっえへっえへへ」という恐怖の声、冬菊の鼻歌と本を整理する時の擦れる音だけだった空間にインターホンの音が響いた。
「おにぃ。出て。冬菊ちゃんに行かせるわけにも行かないでしょ?」
「はいはい。行きますよと」
今日は誰も来る予定がない。つまり、突然の訪問者な訳だが。
「はい。どちら様ですかって!なんで来てんだよ!」
「はーい。呼ばれてないけどじゃじゃじゃーん」
「なんか違うけど!汐!二人をどっか安置へ回せ!姉ちゃん来た!」
そう。突然の訪問者とは、俺と汐の姉にあたり、死んだ両親の変わりとしてほんの数年前まで一緒に暮らしていた。
超大物ラノベ作家。与座此霜目P.N長月幽鬼そのものであった。
「なーにかな?お姉ちゃんに知られたくないことでも?あっ。もしかして、あんた達。お姉ちゃんはいいけど周りは許してくれないかもよ?」
「何を勘違いしてんだよ!全くもって違ぇから!」
「だってひとつ屋根の下、中学生の妹と高校生(中退)の子供たちだよ?もしかしたら勢いで」
「なわけあるか!年中無休のエロイラスト作成機!」
「それでお姉ちゃんは稼いでるんで!いいんですー!あんた達みたいに作画で喧嘩なんかしないでーす!一人だとなんでも決めれまーす!」
そう。この長月幽鬼先生は自給自足ラノベ。文章から挿絵まで全てを長月先生のみが担当し、編集者としても一人だけだと〆切とかの催促が一人減って楽なのかもしれない。
ただ。この長月幽鬼は〆切絶対厳守者が故、そんなこともなく期日までには編集者へちゃんと原稿が入っているのだ。
誰だ!見習えよとか言ったやつ!俺もずっと思ってるからやめろ!
「で?お姉ちゃんから何を隠したのかな?」
「忘れてなかったかやっぱり!」
「別に何もないわよ、お姉ちゃんの書いたラノベ全て持ってるとかじゃないから」
「え?」
「!そうそう。そんなわけない。いくら世間から優秀だと褒めた耐えられててもなあ!やっぱり持ってるわけなんかないよな!」
おぉ。我が妹よ。天才かよ。
「うっうう。ありがとぉ二人とも、あたしの本買ってくれて」
「バレてんじゃねーかよ!汐さぁーん!?」
「あ、あれれ?な、なんでバレたのかなぁ!?おにぃ?」
「まぁ、姉ちゃんの作品は俺たちにとって大事な資料であり、個人的に大好きな作品でファンなんだよ。だからよくよく見てみろこの家を」
泣き崩れそうな姉を支えつつ、部屋の中へ移動させる。
テレビ台の下にはアニメ化された長月先生の『ANW(Another・would)』の限定版アニメDVDをすべて揃えているのが目に入ったのか姉ちゃんは「そんなお金どこから出てきてるのよ」と言ってくる。いや。俺らも姉ちゃんの一つ下ぐらいのかなりトップ走るラノベ作品なんだが?とツッコミを入れつつ、ソファへ座らせた。
「で。姉ちゃん。本題だよ。なんで今日来たの?」
「あっ、そうだね。来た理由は顔を見に来ただけじゃなくてね、篠目も汐目もそろそろ作家としてレーターとして軌道に乗り始めた頃だと思うの」
「そうね。〆切は相変わらず守らないけど発行部数も右肩上がりな感じで一巻はもう第九出版だっけ?」
「まぁ、軌道には乗ってきてるな。それで?」
「あのね!しっかりと聞いてね!お姉ちゃんもそうだから!もしかしたら、愛用してるパソコンとかの必需品が…」
「付喪神として出てくるってか?姉ちゃん」
「えぇ!?なんでわかったの!?ええ?」
「冬、柊真。なんか出てきていいらしいぞ」
「ええっと、はじめまして。冬菊といいます」
あの入り組んだ台所への道から体を出した冬菊は姉へ一礼する。
その後ろから柊真が出てきて
「お初お目にかかります。雪姫のタッチペンの付喪神。柊真といいます。周囲の付喪神の長ですので。以後お見知りおきを」
礼儀正しすぎだろ。ていうか、さん付けが消えてるな。
「え、ええとボクは付喪神ではないんだけど、付喪神みたいなもので!えっええっ」
「冬、柊真がおかしいだけだからねー。冬はその挨拶で大丈夫だよー」
テーブルに座る俺へ近づいてきた冬を抱きつつ、姉の方へ目を向ける。
「そんな感じなら心配ないわね。なぜか与座此家ってねー。物を大事にし続けてきたせいで、異常なほど付喪神との縁が強くて、具現化するらしいのよ」
言われてみればと小学生の頃の自分を思い出す。
持てなくなってしまった鉛筆などを、次に使う鉛筆の先とテープでくっつけて持つ場所が一センチになるまで使ってたのを考えると与座此家の遺伝強いな。
そうだ!姉ちゃんも一緒に暮らしてた時、よく服に穴を開ける汐に着れなくなった服と合わせて穴などなかったようにするのが日常茶飯事だった。
「あれ!?もうこんな時間じゃん!お姉ちゃん!ご飯食べていく?」
汐の言葉でスマホの時計を見ると八時を回っていた。
「そうだな。冬、急いで俺のパーカー着ろ。フードもかぶって。近くのスーパー行って具材買ってくるぞ!」
「う、うん!」
と冬菊は俺の部屋へと入っていった。やっぱり場所は知っていた。
「姉ちゃん。今日もどーせ車でしょ?鍵貸して」
「えぇ、いいの?っていうか免許は?」
「いいんだよ!冬なら沢山の人に食べてもらいたいだろーから。あと、免許は今年取りました!」
「あらおめでとう。はい。これ鍵ね。危ないから気をつけてね」
「ありがと!それじゃあ、ちょっと待ってて。冬行けるか?」
「大丈夫!今いくよ」
俺と俺のパーカーを着た冬は早速下に止めてある姉の車へ向かう。
姉の車を発見した瞬間。空気が凍った。
そこにあったのは俺でも分かる完璧なスポーツカー。NIS〇ANスカイラインGT-R BNR34
がそこにはあった。
俺はボソリと言った。
「危険だからってそういうことか。なんか変な言い方だなと思ったら」
「お、お兄ちゃんこれ。大丈夫なやつ?」
冬が恐る恐る聞いてくる。
「やばいかもしれない」
でも、これで行くしかないのだ。
車のロックを解除し、乗り込む。
そこにあったのはしっかりと整備のされた、新車同様な車内だった。
「姉ちゃんの趣味すげぇよ!」
と言いつつエンジンをかけ、発進させる。
「あれ?至って普通だな。こんなペーパーでも運転できるぞ」
この時、俺は知らなかったがこの車はマニュアルトランスミッションの車で、オートマチックとは違い、色々な工程を踏んで車速をあげるのだが、入っていたのは二速。
俺は一度もギアを変えていない。つまり、二速だけで公道を普通に走れるだけの速度を出している。ということである。
純正のエンジンを積んでいなかったのだ。
そんなことはつゆ知らずスーパーで冬と買い物を済ませ(周りの人から奇異な目で見られていたが)家へ着き扉を開けると、そこに広がっていたのは。