第29話「幻の声援」
いよいよ、この話を含め、ラスト2話です。
ぜひお楽しみ下さい!
パパぁ……
貴方ぁ……
聞き覚えのある声で、リュウを呼ぶのは……
彼を助けようとする女神達の声なのか……
それとも遥か遠く離れた前世へ、リュウが残して来た、愛する妻子の声だろうか?
でも、今ひとつはっきり聞こえない……分からない……
もしや、単なる、幻聴……なのだろうか?
……お前達……
ぼんやりとしたまま、返すリュウ。
自分の意識が、まるで自分のものではない。
どこか、とんでもない所へ、持って行かれそうになっている。
と、いきなり!
パパっ! 頑張ってぇっ! 負けないでぇっ!
はっきりした、少女の声が聞こえた。
けして幻などではない。
間違いない!
これは、もう二度と会えない愛娘の声だ!
リュウの、意識がはっきりする。
気力が、みるみるうちに蘇って来る。
おうっ!!!
俺は頑張るっ!!!
絶対にぃ、負けねぇぜっ!!!
お前の声を、しっかりと聞いたからなっ!!!
愛する愛する娘の声を聞き、喜び、力強く答えたリュウの目が「かあっ!」と見開かれる。
目の前には、嫌らしい笑みを浮かべた、おぞましいネビロスの顔があったが……
何とその背後には、ネビロスと全く同じ顔をした男が、哀しそうな表情を浮かべ、リュウを見つめていたのだ。
どこからか別の、掠れた声が聞こえて来る……
どうか……頼む………
……領民を守って……くれ……
そして、つ、妻と娘の……か、仇をぉ……
目がかすむリュウが、何とか見たのは……
悪魔ネビロスに喰い殺された、領主ダヴィドの魂の残滓だったのか……
やがて男は「すううっ」と消えてしまった。
そうだ!
俺は!
ダヴィドと家族の、無念を晴らしてやるんだ!
朦朧とするリュウは気力を振り絞る。
そして改めて決意し、既に消えてしまったダヴィドへと、呼び掛ける。
おい!
領主様!
俺にはな、すっごく、分かるぜ!
真面目に、一生懸命やって来たのに報われず。
くそみたいな最低の、ゴミ王様にいじめられ……
大事な領民を守る為に、死ぬ思いで、悪魔みたいな外道に魂を売ったのに……
あっさり騙され、裏切られ……
挙句の果てに……愛する妻と娘も、その外道に無残に喰われた、あんたの気持ちが!
すげ~、分かるんだよぉ!
俺だって、そうだからよぉ!
大事な家族を残して、死んじまったんだからよぉ!!!
あんた、悔しくて悔しくて、たまんなかったろうにっ!
絶対に! 絶対に!
あんたと、家族の仇、討ってやらぁぁっ!!!!!
魂の叫びと共に……
気力が完全に戻ったリュウは、いまだ動かない身体に向かい、叱咤激励する。
このやろ、動けぃっ!
俺の身体よ、動きやがれっ!!!
必死になったリュウに応え、何とか動いたのは……
リュウの『右腕』のみである。
動いた右腕は、無防備にリュウを覗き込んでいた、ネビロスの胸に「ぐっ」と伸びると!
何と!
全く抵抗なく、ネビロスの体内へ「するりっ」と吸い込まれた。
肉を裂かず、血も出ない、何とも不可思議な現象であった。
そして、リュウの右手には、何か手応えがある!
「ふわっ」とした、柔らかい球形の物体だ。
これが何なのか、全く分からないが、リュウは感じる。
はっきりと!
奴の、ネビロスの急所だと。
片や、ネビロスはハッとする。
すぐ、自分が置かれている状況に気付いたのだ。
思わず、
「ま、ま、待て! や、やめろぉっ!」
「外道の命乞いは聞こえねぇ! 死ねや、糞悪魔っ! ごらああっ!」
「やめろ~ぉぉぉぉぉっ!!!!!」
ネビロスが、必死に制止を求める絶叫を一切無視。
躊躇いなく、リュウのごつい右手が、柔らかな球形を「ぐしゃっ」と思いっきり、握りつぶしていた。
「ぎゃお~んんんんっ、あああぎゃぁぁ~っ!!!!!」
リュウが力を込めた時、この世のものとも思えない、断末魔の絶叫が、古き城に響き渡った。
大絶叫したネビロスは、真っ青な顔をして、口をポカンと開けていた。
到底信じられないという表情で、リュウを見ている。
そして……
どうにかという感じで、唇を「ぶるぶる」震わせながら動かし、絞り出すように声を発した。
「くあ! こ、こ、この洟たれがぁ! お、お、俺の! た、魂をっ! に、握りっ! つ、潰しやがった……」
そこまで言うと、ネビロスはもう話す事が出来なかった。
息も絶え絶えの、ネビロスの言う通り……
何と!
リュウは、ネビロスの『魂』を握り潰していたのだ。
瀕死の状態から信じられない反撃、とんでもない謎スキルの発動である。
ぼしゅっ!!!
いきなり、ネビロスの身体が、大きな音を立てて四散する。
そして、跡形も残さず消滅してしまった……
リュウの奇跡的な攻撃により、魂を失ったネビロスの身体は……
もはや単なる『抜け殻』であったのだ。
主が居なくなったのが原因か……
「わらわら」と群れていた醜き不死者、屍食鬼共までもが……ネビロスの死と同時に「すううっ」と消え失せた。
と、丁度そこへ女神ふたり、メーリとグンヒルドがすっ飛んで来た。
何とかリュウを助けようと、決死の覚悟で飛び込んだら、肝心のネビロスが消えてしまった。
グンヒルドはともかく、さすがのメーリにも、理解不能である。
『パパぁぁぁっ!!!』
『リュウ!!!』
目の前の女神ふたりが、心配そうな顔で見つめているのに気付き、リュウは優しく微笑む。
『は、ははは……ふ、ふたりとも、せ、声援、ありがとな。お陰で……な、何とか、糞野郎に勝てた……みたい、だ』
『パパ……』
『リュウ……貴方ぁ!』
女神達は、瀕死のリュウがネビロスを倒した事を、まだ信じられないという表情。
ふたりとも、目を丸くして、横たわったままのリュウを見つめていた……
「はぁ……」
リュウは大きく息を吐き、ようやく動くようになった手足を思いっきり伸ばした。
そして、ふと見上げれば……
まだ夜が明けぬ、広大な夜空には、数えきれないくらいの、美しい星が瞬いていた。
「すっげぇ……綺麗だ……都会じゃあ、見られねぇ」
つい、肉声が出たリュウ。
思わずひと筋の涙が「つつっ」と流れた……
遠い目をするリュウの眼差し、その向こうには……
もう二度と会う事がないだろう……
元の世界に居る、愛する妻と娘の輝く笑顔があった。
そして無念のうちに死んだ、この地の領主ダヴィドの嬉しそうな顔が……
浮かんでは消え、また浮かんでいたのである。
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