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第28話「正体」

 法衣ローブの男は、被っていた頭巾ドミノを取り去った。

 中からは、ひとりの中年男の顔が現れた。

 リュウ達には、全く見覚えのない顔である。


 男は意味ありげに「にやり」と笑う。

 その理由わけは、


「ははは、どうよ? これがお前らの探していた領主ダヴィド・アングラードちゃんだ」


「…………」


 男はどうやら、喰い殺した領主に擬態していたようである。

 しかし、更にとんでもない事を言い放つ。


「俺が被ってる、これってな、あいつの……『皮』なんだよぉ」


 さすがにグンヒルドが驚く。


「領主の皮!? な!? メーリ様」


「…………」


 片やメーリは無言であった。

 どうやら、男をひと目見た時、すぐ見抜いたようだ。


 ……微妙な空気の中、得意げな男の説明が為される。


「俺がさぁ、普通に魔法で奴に化けるのも、クソつまらないだろう? 眷属共に奴の肉を食わせた後、綺麗に皮を剥がさせたんだよぉ、どうだ、似合うかぁ?」


 何という、悪逆な行為であろうか……

 大地へ横たわり、動けないリュウの全身を、言いようのない怒りが走る。


「げ……どう、が……」


 リュウの、怒りが籠った声を聞き、男は面白そうに笑う。


「お? はなたれ。お前、まだ声出せるじゃんかぁ、ひゃははっ」


「て、め、……ゆ、る、さ、ねぇ……」


「許さないって? おいおい? どうして、どうしてぇ? 人間だって家畜で毛皮を作るだろう? 同じ、同じぃ、俺にとっちゃぁ、人間なんて家畜さぁ」


「…………」


「しれっ」と言い切る男に、リュウは黙り、悔しそうに唇を噛み締めた。

 男はそんなリュウを一瞥すると、離れた場所に待機するメーリ達を見た。

 

 癖なのか、異常に長い舌を「ぺろっ」と出し、嫌らしく唇を舐める。


「さあてと! この洟たれを下僕にしたら、今度はそっちだ、嬢ちゃんに、姉ちゃんよぉ」


「くっ!」

「…………」


 唸るグンヒルド。

 黙り込むメーリ。

 ふたりはまだ、リュウとの約束――彼に任せる、を尊重していた。


 ここで男は、自己の力を喧伝したくなったらしい。


「よっし、愚かな神のお前らに、偉大な俺様の、超素敵な名前だけ教えてやるよぉ……まあ天界でも広く知れ渡っていると思うけどさぁ」


「…………」


「俺の名はネビロス! 大悪魔ネビロス様だよぉ~ん」


「…………」


 横たわったままのリュウは、無反応であったが、メーリ達は驚いた。


「メーリ様、ネビロスってあの天界で指名手配が掛かってる?」

「そうよ! 確か! ずっと捕まっていない、結構な大物ね」


 悪魔ネビロス……

 

 悪魔元帥とも冥界の死霊術師長とも呼ばれる上位悪魔である。

 一般的には、死霊術や降霊術に優れた悪魔として知られている。

 天界において死霊術は最も禁断とされる行為であり、その首魁ともいえるネビロスは天界から絶対に捕縛! の指令が出ているらしい。


 領主ダヴィド・アングラードに擬態したネビロスは、またも「にやり」と笑う。


「じゃあ、さっさとやっちまおう! 洟たれ! もう一度言おうか? 俺の目を見ろぉ」


 リュウを見るネビロスの瞳が、いきなり妖しい金色に変わった。

 同時に、凄まじい呪縛が、リュウを襲う。

 全身を、激しい脱力感が襲って行く。


「く! …………」


 唸るリュウを見て、メーリが叫ぶ。


『あ! いけないっ!』


 普段は極めて冷静なメーリの、ただならぬ雰囲気に、グンヒルドも驚く。


『え? メーリ様っ!』


『あいつめっ! 単純な魔法なんかじゃなく、パパの魂へ土足で踏み込んで、真名を読み取り、思いのままにするつもりなんだよっ』


『え? 真名を!』 


 真名とは文字通り、魂に刻まれているという本当の名前の事だ。

 人間だけではなく、神や悪魔全ての者が真名を持つと言われている。

 ちなみに通常呼び合っている名は、『通称』と呼ばれ真名ではない。


 この真名を、魂へ刻んだのは天界の長たる創世神だと言われている。

 すなわち真名とは魂そのものであり、第三者に真名を知られるのは全てを握られ支配される事に他ならない。


 悪魔ネビロスは、リュウの真名を読み取り、思うがままに支配しようとしているのだ。

 そしてメーリ達をも。


『とんでもない緊急事態です! もうリュウとの約束に構ってられないですよ、メーリ様』


『そ、そうねっ! パパが危ないっ!』


 メーリとグンヒルドが、身を乗り出し、リュウを助けに動こうとする。


 一方!

 リュウは……意識が朦朧としたまま、ネビロスの瞳に吸い込まれそうな感覚に陥っていた。

 

 やがて……

 どこからともなく、リュウを呼ぶ声が聞こえる……


 それはリュウにとって、聞き覚えのある、とても懐かしい声だったのである。

いつもお読み頂きありがとうございます!


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