第25話「外道」
女神メーリは、漆黒の法衣をまとう男へ、鋭い視線を投げかける。
「やっぱりね……最初から分かっていたけど……」
「へへ、何がだよぉ」
「……貴方、領主のダヴィド・アングラード……じゃ、ないわよね?」
メーリの問いかけに対し、法衣の男は腕組みをした。
更に、「しれっ」と返す。
「いや、そんな事ないぜ、俺はダヴィド・アングラード本人だ」
だがメーリは、もう男の嘘を見抜いているらしい。
きっぱりと言い放つ。
「有罪! 女神の私に、これ以上嘘を付くと承知しません」
メーリは相当怒っているのが、リュウにも分かる。
しかし男は全然気に留めておらず、逆に面白がっている。
「へぇ、女神様に真っ赤な大嘘を、い~っぱい付くとどうなるんだよぉ?」
「…………」
「へへへっ、こわ~いバチでも当てるのかなぁ?」
パチン!
「いい加減にしろ!」と、ばかりにメーリは指を鳴らし、魔法を発動した。
再び『大地の聖浄』が神速で発動され、数多の屍食鬼共が消え失せた。
しかし法衣姿の男は消えなかった。
腕組みをしたままである。
やがて、法衣の頭巾奥から、男の高笑いが聞こえて来る。
「ひゃはははははっ! 無駄だ、無駄ぁ! そんな魔法、ゾンビや屍食鬼みたいな雑魚には効いても、俺には全く効かねぇよぉ」
ここまでやりとりすれば、男が領主ダヴィド・アングラードではない事は、100%明らかであった。
そしてメーリの魔法は通用しなかった。
大変な強敵である。
だが相手の舐めた態度の男同様、メーリも動じた様子はない。
「ふうん……じゃあ、最初にびびってたのは貴方が言う真っ赤な大嘘だったのね」
「大当ったりぃ! おじょうちゃん、やああっと、大当たりぃ」
「じゃあ……本物のダヴィド・アングラードはどうしたの?」
「おお、そんな奴、とっくに喰っちまった」
「食べた?」
法衣の男が領主を喰い殺したと聞き、リュウの目の前が暗くなる。
村長は語っていた。
領主は元々優しい主だと……
それが!
いきなり、狂気をはらんだ暴君になったと酷く怯えていた。
領主はある日から……
若い女性を中心とした村民を居城へ呼び、二度と戻さないという暴挙を繰り返した。
帰還しない身内を、心配した家族が城へ迎えに行くと……
城は、不死者共、人外の巣窟になっていた。
不死者により、更に村には犠牲者が続出。
困り果てた村長は王国に使いを出したが、無視。
頼れる者がなくなった村長は、最後にはひたすら創世神に祈った……
天界が聞き届け、……その結果、リュウ達が派遣された……
という悲惨な経緯なのだ。
甚大な犠牲は出たが……
もし叶うのなら、領主を昔みたいに、正常に戻す。
その上で、何らかの形で、犯した罪を償いさせたい、リュウはそう思っていた。
しかし、リュウの夢は永遠に叶う事はない。
領主はもう、この世には存在しないのだから。
それも、村民を害したのはこの外道な人外であり、領主ダヴィド・アングラード騎士爵は、何も……罪など犯してはいなかったのだ……
「ああ、奴のメニューで美味かったのは魂だけだね。基本的に男の肉は固くてまず~いから、眷属共にやっちまった。まあ、こいつの妻と娘は結構美味かったけどな!」
「…………」
「おい、神のおじょうちゃん、よ~く聞けや、ダヴィドの奴ったらよぉ、王国と村の板挟みにあってやんの」
「どういう事?」
「ひひひ、すげ~おもしれぇ話だから、神のお前らにも教えてやらぁ」
「…………」
メーリは、敢えて返事をしない。
男に気持ち良く喋らせ、出来るだけ情報を引き出そうという腹なのであろう。
「ダヴィドはなぁ、こんな、ど田舎の貧乏領主の癖によぉ、領民をとっても大事にする、えら~い男だった」
「…………」
「ここ数年、この辺りはよぉ、飢饉で麦が大不作と来たもんだ。で、王国へ既定の税金が納められねぇ、わぁ、やっばい~」
「…………」
「そんでもって、この国の王様はよぉ、素敵な俺好みの悪党さ。税率を倍にするか、村の若い女を奴隷に売っぱらって、金作れや! って言いやがったんだ」
「…………」
「本当に馬鹿だ、あいつは。王様の言う通りにすりゃ良いのに、断固拒否したんだ。そんで結果、領主はクビ、貴族の身分もばりばりっと、はく奪って落ちよぉ」
「…………」
「もう少ししたら、代わりの城主が王都から来るってのに、ダヴィドはこの城に居座り続けたのさぁ……ぎりぎりまで領民を守ろうってなぁ」
「…………」
「絶望した奴の前に、俺は現れた。それで力を貸してやるって言ったら、ホイホイ乗って来やがったってわけさ」
目の前の人外は……
辛い生活を送る領民を、何とか守ろうともがく、ダヴィドの心の隙に付け込んだのだ。
領民を守る為に、ダヴィドは怖ろしい人外に魂を売るしか、選択肢がなかった。
どんなに……辛かった事だろう。
話を聞いていたリュウに、激しい怒りが湧いて来る。
「てめぇ、外道がぁ、……許さねぇ!」
「ちっ! 何だぁ? 許さねぇだぁ?」
法衣の男はリュウを見て、舌打ちした。
そして、
「おい! ど新米の、洟たれ神がよぉ! この俺様へ、生意気な口を利くんじゃないぜぇ! ぶっ殺すぞぉっ!」
男は即座に、リュウの『キャリア』を見抜いたらしい。
それで、居丈高にリュウを威嚇したのである。
無論、リュウは臆したりしない。
「貴様!」
リュウが睨むと、男はうそぶく。
「俺っちが悪いんじゃねぇよぉ、ダヴィドを追い込んだ、この国の王が悪いんだよぉ。すなわち社会が悪いんだよぉ。ちなみに俺は少し魔が差しただけなんだよぉ、ひゃ~はははははははっ!!!」
リュウの怒りなどものともせず……
再び、古城には法衣の男の嘲笑が響いたのであった。
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