第24話「メーリの怒り」
「お前らぁ、くそ王国の回し者かぁ!」
深夜の、古城に響く男の声……
この地の、領主を見つけようと来たリュウ達ではあるが……
その領主本人なのか、それとも……
果たして、一体何者であろうか?
「リュウ達が王国の回し者!」とか、言っている意味がさっぱり分からない。
不思議に思い、リュウは問いかける。
「何を言ってる?」
「はあ、てめぇ、俺の言葉が分からないのか? くそ王国から頼まれて来たかって聞いてるんだ」
またも男は「王国から依頼されたのか?」と繰り返した。
リュウは、ますます首を傾げてしまう。
「おい、何わけの分からない事言ってんだ? 俺達は王国なんかに頼まれて来てねぇ」
「嘘付けぇ! 王国以外、俺の城を攻める理由のある奴なんか、他には居ねぇ」
王国以外居ない……
この城は、王国の領地の筈なのに?
リュウは、完全にわけが分からなくなってしまった。
ここで、助力を申し出たのがメーリである。
当然、リュウへの会話は外部に漏れない念話であった。
『うふふ、パパ、私に任せて』
『え? メーリ』
驚くリュウを他所に、メーリは闇へ呼び掛ける。
凛としながらも、凄みのある声である。
「人の道を踏み外し者よっ、私達の前に姿を見せなさいっ!」
「何ぃ!」
いきなり少女の声が、自分に向けられたと知って、驚く男。
メーリは更に、きっぱりと言い放つ。
「私達は天より遣わされし者! 無礼は許しませんっ」
いきなり、メーリは自分達の本当の『身分』をカミングアウトした。
いろいろと、状況を考えてオープンにしたのだろう。
『神様にデビューしたて』のリュウには、まださすがに、その絶妙なタイミングと微妙な力加減は分からない。
「な、天からだとぉ!」
リュウ達が天界の者だと聞き、案の定、男は驚いていた。
相変わらずリュウ達から、男の姿は見えないが、きっとポカンとしているのだろう。
混乱しているであろう男へ、ルーリは更に畳みかける。
「そうです! 貴方のように姿を見せず、私達と話すなど無礼極まりないです」
「ふ、ふざけるなっ! このガキぃ」
男が怒鳴ったが、口調は弱々しかった。
ゾンビがあっさり壊滅させられ、屍食鬼も全く歯が立たない。
リュウ達の、圧倒的な力を感じているからにほかならない。
相手の心情をしっかり読み取り、メーリは更に言う。
「私達は、ふざけてなどいません。醜くおぞましい人外共を従え、領民へ害を為すお前こそふざけています」
「俺が大事な領民に害を与えているだと? このガキ、馬鹿な事を抜かすなっ」
男が、訝し気に思う波動が伝わって来た。
会話が、微妙にかみ合わなくなる。
だが、メーリは手綱を緩めたりしない。
「そろそろ言葉遣いを改め、姿を見せないと……容赦しませんよ」
「へへへ、容赦しないって、何するってんだよ」
「こうする」
まるで挑発するような男の物言いに対し、メーリはパチンと指を鳴らす。
瞬間!
闇に蠢く屍食鬼共が、数十体、いきなり消え去った。
またも、究極魔法『大地の聖浄』がさく裂したのである。
それも発動に必要な詠唱も予備動作もなし、メーリは恐るべき魔法の使い手であった。
「くう、このガキアマ! さっきと同じ技をやりやがったな。よくも俺の可愛い従士達をっ!」
「早く姿を現しなさい。次は……貴方を消しますよ」
「う、うぐ!」
初めて、恐れの波動が男から伝わって来た。
メーリの口調が、更に厳しくなる。
「さあ!」
「わ、分かったよ」
徐々に怒りの波動を強めたメーリの促しに、やっと男は応じた。
屍食鬼の群れが左右に大きく分かれ、声の主である男が姿を現したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
姿を現したこの男が、もしも領主なら名前は分かっていた。
ダヴィド・アングラード……
身分は、この王国の貴族、騎士爵である。
だが、姿を現した男の出で立ちは微妙であった。
この闇に溶け込むような、漆黒の法衣をまとい、更に頭巾で顔を隠しているのだ。
さて、この謎めいた男と、これから何を、どう進めれば良いのだろうか?
リュウは途方に暮れてしまった。
女神ふたりから、今回のミッションのリーダーは、リュウだと言われたが……
所詮、『親子遊び』の延長である。
このような場合の『交渉』も、『落としどころ』も、リュウには分からない。
リュウが自分の判断で物事を進め、勝手に処理して良いのが許されれば、問題なしであろう。
だが……天界には天界の規範がある筈であり、神であるリュウ達は、率先して守らなくてはならない。
『グンヒルド、ここもメーリに頼んで良いかな?』
前世の性癖から……
『根回し』を気にしたリュウがそう言い、「まずは」と、グンヒルドへ視線を向けると、彼女は笑顔で頷いた。
「問題ない」という返しであろう。
グンヒルドの方は全く問題がなさそうなので、この場は、メーリに一任する事にした。
『悪い、メーリ、続いて頼めるかな?』
『了解、パパ』
メーリは引き続き、交渉とクロージング役も引き受けてくれた。
新米神のリュウは、メーリが行う全てが勉強となる。
そんな『注目』の中、メーリが口を開く。
「さて……じゃあ、出て来てくれた事に報いて、こちらから名乗りましょう」
「…………」
メーリの言葉を聞いても、法衣の男は無反応だ。
「私はメーリ、それと彼女はグンヒルド、そして彼はリュウ……3人とも神です」
「…………」
「名乗りなさい! ダヴィド・アングラードっ」
「う、俺を知ってるなら、別に名乗らんでも良いじゃないかよぉ」
どうやら男は、領主ダヴィド・アングラード騎士爵のようだ。
メーリに正体を見抜かれ、不貞腐れた声を出した。
しかし、
「ふざけないで」
低くトーンを落とし、静かに言葉を返した、メーリだったが……
彼女の顔は、今迄にリュウが見た事もないくらい、怖い顔をしていたのである。
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