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第23話「大地の聖浄」

「おおおおおおっ!」


 待ち受ける屍食鬼グールに向かって走りながら、リュウは肉声で大きく吠えた。

 自分へ気合を入れ直すのは勿論、失われたというより、天界により無理やり押さえつけられてしまった秘めたる力を取り戻そうと!


 そんなリュウに触発され、女神グンヒルドも更に大きな声で吠えた。


「おおおおおおおおおおっ!」


 がああああああああっ!

 ぎひゃああああああっ!


 神ふたりの雄叫びに刺激されたのか、屍食鬼グール共も、負けじと咆哮した。

 常人ならば、戦慄するほどのおぞましい奇声で。


 しかし、リュウは臆さない。

 グンヒルドも同様だ。


 まずリュウが、屍食鬼グールの大群に接触する。

 数を頼んで押し包み、喰い殺そうとする屍食鬼グールに対し、リュウは固い岩石のような拳を振るう。


「おおりゃああっ」


 ぐっちゃああっ!


 拳が当たった瞬間!

 屍食鬼グールの顔面が、いとも簡単に消失した。


「おおおおおおおらあっ!!!」


 ぐちゃ! ぶちゃっ! べしゃっ!


 リュウは、肉体の持つ底知れぬパワーをフルに使って、敵を圧倒する。

 まるでいにしえの神話に出て来る、英雄ヘラクレスのような戦いぶりだ。

 もし誰かが、何も予備知識なしでリュウを見れば……

 ごつい体型も含め、ぴったりのイメージだと思うだろう。


 しかし、このような戦い方はリュウの本分ではない。


 完璧なパワー型と見えるリュウであったが……

 実は勇者時代、彼の得意とするのは、剣技、格闘などの物理スキルは勿論、至近距離で神速の攻撃魔法も自在に使う戦法、すなわち万能型なのである。


「たおっ」


 しゅばっ!


 リュウの気合と共に、拳から、魔法の猛炎が噴射される。

 標的にした、屍食鬼グールは、あっという間に炎に包まれた。


 ぎぃやぁ!


 断末魔の悲鳴と共に、怖ろしい人外は即座に塵となってしまう。


「ち!」


 あっさり敵を倒したのに、リュウは悔しそうに舌打ちした。

 同じ魔法を散々使っていたから分かる。

 完全に威力が落ちているのだ。


 リュウは更に戦い続ける。

 屍食鬼グールを倒しては倒し、更にまた倒す。

 30分戦い続け、倒した数はもう200体を超えていた。

 グンヒルドも同様であり、同じくらいの屍食鬼グールを倒している。


「ふう」


 小さなため息をついたリュウの、一瞬、生じたスキでも見つけたのだろうか?

 10体以上の屍食鬼グールが、一斉にリュウを襲おうとした。


 だが!


 ぐじゃっ!

 ばじゅっ!

 どしゃっ!


 リュウが対応する前、あっという間に3体の屍食鬼グールが破砕されていた。

 女神グンヒルドが、拳と蹴りであっさり屠ったのである。


『おお、グンヒルド、済まないっ』


『何の! 夫を助けるのは妻の役目だっ』


 先程のゾンビ戦同様、返り血ならぬ屍食鬼グールの体液まみれのグンヒルドであったが、晴れやかな笑みを浮かべている。


 リュウは一瞬、グンヒルドが本当の妻のように愛しく思えてしまう。


『……ありがとう!』


 リュウが、グンヒルドへ礼を言ったのと同時に。


 があああああああああっ!!!


 いつの間にか数十体もの新手の屍食鬼グールが現れ、咆哮しながらリュウとグンヒルドを一気に襲おうとした。


 しかしっ!


 びしゅうううううううっ!!!

 ぐえええええっ!


 大地を膨大な魔力が走る凄まじい音と、屍食鬼グールの悲鳴が同時に湧き起こる。

 そしてリュウが気付けば、屍食鬼グールはあっという間に塵となっていた。


 グンヒルドは、今迄にこの魔法を何度も見た事があるようだ。

 うっとりしてしまっている。


『おお、さすがはメーリ様! 究極魔法、大地の聖浄! いつもながら不死者アンデッド共には凄まじい威力だ』


『大地の……聖浄』


 リュウは、初めて耳にする魔法である。

 多分、死者を呪いの呪縛から解き放つ葬送魔法か、呪い一般を無効化する解呪魔法ディスペルだとは思うが、ここまで大規模なものは目にした事がない。


 感嘆するリュウの傍らで、グンヒルドは得意げに語り続ける。


『おお、メーリ様はな、このように素晴らしい魔法をたくさん使われる。今お使いになった大地の聖浄は、解呪魔法ディスペルの中でも最強クラスの威力を誇るのだ。さすが大地の精霊の出自だけの事はあるっ!』


 と、グンヒルドがまるで我が事のように言い放った瞬間。

 メーリから念話で、教育的指導が入る。


『グンヒルド、めっ! 私の事情は直接パパに言うから、余計なおしゃべりは、禁止っ!』


『わわわっ! す、済みませんっ』


 幼女のような女神の叱責。

 超が付く大柄な、巨人族出身の猛き女神が、いかにも済まなそうに謝る姿を見て、リュウは不思議に心が温かくなっていた。

 そして、


『うふふ、パパ』


『はいっ!』


『このミッションが終わったら……さっきの事も含めて、い~っぱいお話しようね、メーリと』


『了解!』


『パパ、そろそろ奴等の元を断つよっ、きりがないから、良いよねっ』


 メーリが大きな魔法を使う気配がする。

 多分、超が付く大型の葬送魔法でも使うのだろう。


『それも了解!』 


 と、リュウがメーリへOKしたその時。

 

 今迄なかった敵の反応が、突如城内に現れた。

 反応のある場所は……

 モットにある、領主の住居内だろうか?

 リュウは一生懸命索敵を働かせるが、いまいち所在が良く分からない。

 

 だが、これは……

 ゾンビや屍食鬼グールなど、通常の不死者アンデッドとは全く違う反応だ。

 気になったリュウが、探っていたら、急にその気配が消えた。

 

 何だろう?

 転移魔法か、何かを使ったのだろうか?

 

 気になったリュウが索敵を続けると……

 何と、その反応が、リュウ達の居るこのベイリーに現れたのだ。


「お前らぁ、くそ王国の回し者かぁ!」


 と同時に、突如、男の野太い大きな声が響いたのであった。

いつもお読み頂きありがとうございます!


東導 号作品、愛読者の皆様へ!


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拙作『魔法女子学園の助っ人教師』


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