第22話「3神出撃!」
城内に入ったリュウは、周辺を見渡した。
ここは正門付近でベイリーと呼ばれる場所であり、部下の住処らしい簡素な住居がいくつか並んでいた。
リュウ達の目的である『領主の館』は少し先の丘、つまりモットにあるのだ。
周囲は相変わらず真っ暗で、何者の気配もない。
「しん」としていた……
人が暮らす普通の城なら、夜がとっぷり更けたとはいえ、害意を持つ人間や魔族など外敵のイレギュラーな襲来に備える。
当然、城詰めの従士が何人かは、警戒していなければならない。
だが、そんな警護どころか、城内には灯りのひとつさえないのだ。
やはりというか、尋常でない雰囲気である。
と、その時。
少しはリュウを心配してくれたらしく、先輩女神メーリの念話が響いて来る。
『パパ、どう? そっちの様子は?』
報告――リュウが、すかさず念話で返す。
『ええ、やはり人の気配も何もない……いや、ちょっと待って下さい』
感じる!
これから、何か、が起きる。
リュウは生じた僅かな気配を捉えようとする。
そして、
『あ、これはっ!』
『パパ、どうしたの?』
『貴方ぁ、どうしたのぉ』
女神達の『家族ごっこ』は続いていた。
だが冗談抜きで、後輩のリュウを心配する声だけは真剣だ。
リュウは苦笑すると、敵襲に備え、身構えながら答える。
『感じますか? さっきの墓地と一緒ですよ。多分異界からの門が開く……門を通って、相当な数の不死者が、現れます』
『成る程! 唐突に魔法陣……異界への転移門を魔法で開くから……気配がなかった、索敵に引っかからなかったのね』
まずはメーリの納得し、落ち着いた声。
続いて、
『ふむ、ではもう遠慮はいらないなっ』
と、グンヒルドの喜び勇む声が届いた瞬間。
どぐわしゃっ!!!
閉ざされていた堅固な正門が、派手な音を立ててあっさりと吹っ飛ぶ。
単に壊されたのではない、門ごと粉々に破砕されたのだ。
リュウが思わず、後ろを「ちらっ」と振り返れば、
破壊された門があった向こう側には、グンヒルドが蹴りを放ったままのポーズで、微動だにせず立ち尽くしていた。
『ああ、来たっ、来たぞっ!』
まるでグンヒルドの正門破壊が合図であったかのように、地面からおぞましい気、瘴気が立ち上った。
そして先ほどの墓場同様、泥だらけの手があちこちから、突き出されたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リュウ達3人の神は戦闘態勢を取る。
城に現れたのは、先ほどのゾンビとは違った。
同じ不死者でも、人間を襲い貪り食う屍食鬼である。
墓場に溢れたゾンビ同様、屍食鬼の数も凄まじい。
リュウが見ても、ざっと数百は居る。
この屍食鬼は、ゾンビと見かけは似ているが根本的に違う。
術者が邪悪な魔法で死体を操る、己の意思を持たないゾンビに比べ……
屍食鬼の本体は、意思を持つ低級の悪魔なのである。
葬られた死体にこの悪魔の魂が宿り、人間と悪魔の融合した闇の眷属として生まれ変わるのが屍食鬼なのだ。
ゾンビと屍食鬼、どちらにしても……
リュウ達が所属する天界の理に反した、おぞましき生命体だといえよう。
「よしっ!」
リュウが肉声で気合を入れた。
もう既に決めている。
そんな表情で、リュウがメーリへ言う。
『メーリ様』
『はぁ? メーリ様?』
真剣なリュウを「さらっ」と躱すように、メーリが耳に手を当て聞こえないふりをした。
先輩には敬語という心がけで、話しかけたリュウであったが……
家族ごっこが続いていると認識し、口調をガラリと変える。
『コホン! メーリ、俺さ、奴らで少し経験値稼ぎさせて貰って良いか?』
『経験値稼ぎ?』
『ああ、さっきのゾンビ同様、こいつらの発生は大元の術者を倒し、異界の門を閉じれば収束するのは分かっている』
『うふ、パパ正解! その通りね』
『だが! 俺は勇者の頃の勘を早く取り戻したい。新たな神として、すぐにでもランクアップする為に! いっぱいいっぱい戦いたいっ』
『うん! 私も、メーリも……強いパパが大好きだから、少し戦った方が良いわ』
『ありがとう! もしも許されるのなら、後で……メーリ様、じゃなかったメーリにいろいろ聞きたい』
『私に?』
『ああ! 魂と肉体が復活して神になったのは良いけれど、俺の勇者としての能力や経験さえも殆どリセットされている……さっきのベリアルのゾンビ苦手な件も含めてな』
やはり、リュウは確かめたかった。
自分の心に留めておいて、黙って働けば良いのにという、内なる声もあった。
しかし!
リュウは昔からそうだ。
疑問に思った事は突き詰めたい。
それで今迄の人生、だいぶ損をしてしまったのだが……
そんなリュウの問いかけに対し、メーリは微笑む。
まるで、リュウが望むのを分かっているように。
『うふふっ、パパ、構わないわよ。私が話せる範囲内ならね』
『恩に着るっ!』
『遠慮しないでっ!』
リュウはメーリに励まされ、力が湧く。
どうせ、神として働くのなら、納得して働きたい。
天界へ貢献したいという気持ちが満ちて来る。
思わず拳を突き上げたリュウ。
今度は、傍らのグンヒルドへ呼び掛ける。
『よっし、グンヒルドっ!』
『はいっ! 貴方っ!』
待ってました!とばかり、返すグンヒルド。
大きな期待で、彼女の目がキラキラ光っていた。
リュウも、「にっこり」笑って大きく頷く。
『いくぜっ! どうせ暴れ足りてないだろっ?』
『さすが我が夫! 愛する妻をよ~く理解しておるっ! 共に、ガンガン戦おうぞっ!』
早速、リュウとグンヒルドは、屍食鬼の群れへ飛び込んで行く。
片や、残されたメーリは、
『うふふ、じゃあ私も……ちょっとだけ、運動!』
と気合を入れた。
真っ赤な瞳が妖しく光っている。
小さな身体に、信じられないくらいの膨大な魔力が生まれていた。
リュウは知らなかった。
メーリは回復を司る癒しの女神であると共に、凄まじい戦いの女神でもあったのだ。
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