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第1話「おっさん転生! 地球によく似た異世界で」

 ……ここは、ふるき中世西洋時代の地球に、非常に良く似た異世界である。

 

 だが、地球の中世西洋と、はっきり違う事もあった。

 実際に、未知の超常現象である魔法が派手に飛び交い、伝説の生き物である異形の魔族が堂々とそこいらを闊歩していたのだ。

 そんな不可思議な世界の中で、一番最果てにあるという不気味な城の中……


 どぐおおお~ん!!!

 どぎゃおぉん!!!!


 いきなり、激しい爆発音が響いた。

 それが二度も。

 大地は激しく「びりびり」振動し、どこかで何かが「がらがら」と、崩れ落ちる音がした。


 これは魔法を知る一部の者は知っている。

 伝説の超大型攻撃魔法『爆炎』が、標的を徹底的に破壊する音である。


 どぐおおおおおお~ん!!!

 どぎゃおおおおおおぉん!!!!


 先程より、更に派手な音が響く……

 

 またも『爆炎』が発動されたらしい。

 人間ではない、異形の者達が、絶叫に似た咆哮をあげる。

 魂を破壊される、変わった死を覚悟した、怯えの感情も伝わって来る。


 またも爆発と振動が伝わって来た。

 何度も、何度も……


 こうして……

 『城側』の、最後の防衛線が……突破された。

 この独特な『爆炎』の爆発音は、戦いが始まってから、何度響いた事だろうか?


 辺りは徹底的に破壊され、真っ赤に燃え上がっていた……

 

 こうなると、もはや城はその体裁を為していなかった。

 とてつもない戦闘力を持つ者同士の、度重なる激しい戦いで、単なる瓦礫や土くれの山、殆どが廃墟と化していたから……  


 そして……また何度か戦いがあり……多くの魔族共が死んだ。


 結局、残ったのは……『ふたりの男』だけであった。

 かつて城の大広間であったと思しき場所で、今、ふたりは対峙していたのだ。

 

 丁度、10m位離れているだろうか。

 お互いに、非常に目力めぢからのある、鋭い視線を「ズバンズバン」投げ合っている。


 男のうち、ひとりは……

 「この世界を救え!」と命じられ、神から遣わされた人間の勇者だ。

 夥しい敵からの攻撃により「ぼろぼろ」となった、傷だらけの革鎧をまとっている。

 持っている魔法剣も同様に「ぼろぼろ」で、所々大きく刃こぼれしていた。


 不思議な事に、男の周囲に『仲間』は居ない。

 これは、大変珍しい事だといえよう。


 そもそも世に有名な勇者の殆どが、複数の優秀な仲間……魔法使い、僧侶などとパーティやクランを組み、基本的にチーム戦にて悪へ戦いを挑む。

 圧倒的な強さを誇る魔王軍へは個の力より、結集された集の力が有利。

 それがお約束に近い、『業界?』の常識なのである。


 しかし!

 この男は何と!

 

 剣技、格闘技は勿論、超大型の攻撃魔法等を駆使し、たった『ひとりっきり』で、延べ数十万と言われた魔物を倒していた。

 普通に考えても、とてつもない強さである。


 そしてこの勇者は……けして若者ではない。

 はっきり言って、青春などとうに過ぎた、おっさん真っ只中の『むさい男』だ。

 

 風貌は……

 肩幅が広く、首が極端に太く短い、がっちりしたマッチョ体格。

 体格に似合った、大きい顔の造作もごつく、粗削り。

 

 五分刈りの髪は漆黒。

 眉毛は濃く太い。

 顔の真ん中に座った丸い鼻は、とても大きい。

 大きなどんぐり目の中に瞬く、薄いブラウンの瞳。

 顎には、「ちりちり」した不精髭がたくさん見える……

 

 カッコイイ勇者の冒険譚になれた人は違和感を覚えるだろう。

 巷で多くの者が持つ、『勇者とは、若き逞しいイケメン』というイメージには程遠いから。

 こんな、いかつい顔をしたおっさんではあったが……

 確かに、神から『認定』された勇者なのである。


 実はこの勇者……異世界からの『転生者』であった。

 仕事中、いきなり訪れた不慮の死で転生した際……

 ある神から、この世界へ召喚された意義を知らされ、律儀にもその役目を果たそうとしていたのだ。

 

 頑張ったのは、単なる正義感だけではない。

 

 自分が、突如死に……

 前世に取り残されてしまった、気の毒な妻と娘、ふたりの幸せに直結していたから。

 勇者たる彼の働きにいかんよって、母娘ふたりの未来には大きな加護と幸せが与えられる。

 神からそのように神託を受け、契約といえる約束を交わし、モチベーションが上がった事も大きいのだ。

 

 また戦いが進むにつれ、この世界の人々から深く感謝された事も、勇者のやる気に拍車を掛けていた。


 片や……

 この勇者を、凄い目付きでにらみつける、もうひとりの男は……

 頭のてっぺんから、つま先まで、邪悪に染まった魔王だったのである。

いつもお読み頂きありがとうございます。

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