7話 少年と偽りの王
数日後、シンガとカルムによって“シャチのクラス”に入ることになったユウはそのクラスの入り口前にいた。
「緊張するか?」
そう声をかけてきたのは担任のシャチだ。
寝癖だろうか、あちこち跳ねた山吹色の髪はユウに鳥の巣を連想させた。
「いえ、大丈夫です」
「そいつはよかった」
ユウがそう答えれば、シャチは軽い調子でかえした。
「んじゃ、行きますか。
……おーい、お前らちゃんと席につけ~転入生を紹介するぞ~」
そう言ってクラスへと入っていくシャチの後に続き、ユウもクラスへと入っていく。
入ったと同時に感じる視線。
その視線のほとんどに好奇心が見てとれたが、その中には好奇心とは違う視線も混じっていた。
(シンガさんが言ってたのはあの子かな?)
好奇心とは違うその視線の先にいたのは金髪金瞳、整った顔に笑みを浮かべてユウを見る少年だった。
「ユウと言います。これからよろしくお願いします」
ユウがそう自己紹介をすると金髪金瞳の少年はその笑みを一層深くした。
…それは獲物を見つけたような笑みだった。
『シャチ先生、学園長がお呼びです。至急学園長室まで来てください』
(ナイスタイミング!さすがシンガさん)
そのアナウンスはシンガとユウが決めたものだ。
シンガの手におえない生徒が担任のいないときにどう行動を起こすのかを知るために。
「俺が学園長室に行ってる間、皆は自己紹介でもしていてくれ」
そう言ってシャチは、クラスを出て学園長室へと向かった。
「おい、転入生」
席を立ち、ユウの前に金髪金瞳の少年が大柄な少年二人を従えるようにして向かってきた。
「俺はショウト。右にいるのがモキチ、左がタクボだ」
薄気味悪く笑いながらそう声をかけるショウトにユウは笑顔でよろしく、と答えた。
「じゃあ、自己紹介もすんだし……お前今すぐに俺に土下座しろ」
「え?」
そう言ったショウトのユウを見る目は弱いものを虐げることを楽しむ者の目だった。
「当たり前だろ?俺はこのクラスの王だ。一番強く、力もある。新しく来た奴は王に土下座でもして敬意を示すのが決まりだろ。
………それか」
「ここで服を全部脱ぐかだ」
女の子には酷だから土下座で許してあげるんだよ?
ショウトがそう言ったとたんクラスの女子生徒達が俯いてカタカタと震えだした。
男子生徒達も顔色を青白くさせ、小さく震えている生徒もいる。
「……ざ……るな」
ぽつりと零れたユウの言葉は消えそうなほど小さかった。
「怖くて声出なくなったのか?可愛そう…」
「ふざけるな、って言ったんだ」
ショウトの言葉を遮るようにして放たれたドスの利いた声に、笑っていたショウトは思わず顔を青くする。
だが、ショウトは青い顔のまま果敢にも言葉を返した。
「女だからって調子にのってんなよ。力もない奴がいきがるな。
……今すぐ謝れば許してやる」
粘りつくような笑みを浮かべ、これが最後のチャンスだと言うようにユウへと言った。
そんなショウトに、ユウはただ一言だけ呟いた。
「寝言は寝てから言ってくれないかな?」
そう言葉を放つユウの口は笑みを浮かべているが、目には凄まじい怒りを宿していた。
─震える人達にお前はなにをした?
─顔を青白くさせている人達になにをした?
悪意をもって放たれた言葉。
しかも、自分を『女』だと言った。
「お、お前っ!いい気になるなよ?!
自分は女だから手をあげられないと思ったら大間違いだからな!!」
なおも自らの主張を押し通すためにショウトが口を開き言葉をならべても、もはやその行為全てがユウの怒りを強めていくだけのものになっている。
「第一俺は女じゃない。一番強い?力がある?王だ?…笑わせるな。
偽りの王を演じて喜ぶただの道化師だろ?」
ユウがそう言ったとたんに、ショウトの青かった顔が赤を通り越して黒く染まった。
「黙れ黙れ黙れ黙れっ!おいっ、モキチ!タクボ!こいつを燃やしてやれっ」
モキチとタクボがショウトの言葉通りユウを燃やすための魔法を放とうとしたが……
「がっ?!」「ぐふっ?!!」
魔法を放つ前にユウがモキチとタクボの鳩尾に、それぞれ拳と蹴りを入れた。
鳩尾に入れられたモキチとタクボは呻きながら床へと倒れる。
気を失うまではいかないが激しい痛みが二人を襲う。
「火の魔法は中で使うよう指示するなんて馬鹿なの?」
「言わせておけばいい気になりやがって!
我が敵を貫き、その身を焼き尽くせ![フレイム・ランス]!」
詠唱を終え、炎で出来た槍がユウへと放たれる。
それに生徒達が悲鳴をあげる。
誰もがユウが炎の槍に貫かれ燃える姿を想像した。
そう、誰が予想できただろうか。
見るからに華奢な少年が“炎の槍を片手で掴む姿”など。
ユウは左足を軸にして体を捻ることで炎の槍を避けると魔力を纏わせた右手で炎の槍を掴み、捻った勢いのまま回転し開いていた窓に投げつけた。
炎の槍は、勢いよく窓から飛び出して彼方へと消えていった。
「あ、ありえない。俺の[フレイム・ランス]を掴んで投げるなんて……」
床に崩れ落ちるショウトは、呆然と窓の外を見つめる。
その様子をユウはただ静かに見つめていた。
クラスの生徒達は、シャチが慌ててクラスに駆けつけるまでただ呆然と動けずにいた。
グダクダですみません!上手くまとまらなくて…
次回も頑張ります!