5話 少年の涙
ユウは目を覚ました。
目の前には白い天井。ツンと鼻をさす薬品の匂い。
腕や脚には包帯が巻かれている。
「……病院、か」
ユウは暗い声でそう口にだす。
自分は森にいたはず…
「よかった。目が覚めたみたいだね」
そう言って病室へと、一人の男ーカルムーが入ってきた。
「……だれ?」
ゆっくりと上体を起こし、ユウはカルムをじっと見つめる。
茶髪に翡翠色の瞳。気が弱そうな男に見えるが、どこか侮れない雰囲気のする男。
「あ、自己紹介がまだだったね、俺はカルムって言うんだ」
「あなたが…カルムさんが俺をここに?」
「あぁ、君をここに連れてきたのは俺じゃなくて「ワシじゃよ」っ!シンガ様?!」
いつの間に来たのかシンガがカルムの隣に立っていた。
((えっ、いつ入って来たのこの人……))
音も立てず、気配すらも感じさせずに病室に入ってきていたシンガに、ユウとカルムは目を見開いて驚いた。
「さて、ユウ…と呼んでも良いかな?」
「えっ、あ、はい。大丈夫です」
ユウに柔らかく微笑みながら優しくシンガは声をかける。
そんなシンガに少しおどおどとユウも答える。
「あれ?でもなんで俺の名前……」
「…リーン村での事をワシは知っておる」
「……っ?!」
シンガの言葉に息を飲んだのユウの体はカタカタと震えだした。
……そしてユウは自身の体をぎゅっと抱き締める。
「…お主がしたことを知っている」
「シンガ様……」
病室のベッドの上で自身の体を抱き締め、震えるユウの姿はとても痛々しかった。
ごめんなさい。ごめんなさい。
と小さく呟く声が聞こえる。
本当はこんなことを、ユウの心の傷を抉るような事をシンガはしたくはなかった。
それでも言わなければ、伝えなければならならかった。
「お主がしたことは決して間違いではない」
誇っていいのだと伝えたかった。
なにも間違ってないと伝えたかった。
ゆっくりとユウに近づき、そっと優しくユウを抱き締める。
「お主は、村の者達を守りたかっただけだろう?」
「皆を守るために力を使ったのだろう?」
「だからお主がしたことは間違いではない」
そこで言葉を切りユウの瞳を見つめながら、優しく微笑みながら
「だからお主は決して化け物ではない」
そうシンガが言うと、ユウは静かに涙を流した。
「お主は化け物ではない。
……よく耐えたのぉ、よく皆を守ったのぉ」
再度ユウの体を抱き締め、優しく背を撫でる。
「っ、本当に、俺、は、化け物じゃ、ない?」
「あぁ」
「俺は、皆、を、まっ、守れた?」
「皆、感謝していた。お主に悪いことをしたとも言っておった」
ボロボロと涙を流し、小さな声で
「守れてよかった」「…ありがとう」
と言っていた。
ユウの背中を優しく撫でながら、シンガはユウが去った後のリーン村と村人達についてをユウに聞かせた。
「おぉ、そういえばリーン村の者達から手紙を預かっておったな!」
「シンガ様」
それまで静かにユウとシンガの様子を見ていたカルムが、シンガから預かっていたユウ宛の手紙をシンガへと渡す。
「これはリーン村の者達からユウへの手紙じゃ、ワシとカルムは少しここを離れるでな…」
涙をぬぐい手紙を受け取ったユウの頭をひとなでするとシンガは、カルムと共に病室を出ていった。
◇◆◇◆◇
一人になった病室で、ユウはシンガが自身に言ってくれた言葉を思い出していた。
嬉しかった。
俺は皆を守れていた。
俺がしたことは間違ってなかった。
でも……
手紙を持つ手が震える。
シンガさんはこの手紙はリーン村の人達からだと言っていた。
あの日を思い出して怖くなった。
シンガさんは、俺を化け物じゃないと言ってくれた。
「……よしっ!」
意を決して手紙を開く。
手紙には謝罪の言葉と……感謝の言葉が書かれていた。
『ごめんなさい。貴方は、私達を守ってくれたのに…』
『私達を守ってくれてありがとう』
『貴方のお陰で私達は、生きていられます』
『本当にありがとう』
あの時一緒にいたマヤ達からの感謝の言葉
『ユウおにいちゃん、たすけてくれてありがとう』
『ユウにいちゃんかっこよかった!』
『わたしと、ママとパパをたすけてくれてありがとう』
あの日守れた小さい子供達からの感謝の言葉
『ありがとう』
温かいその言葉が、『ありがとう』の言葉が
嬉しくて涙が後から後から流れてくる
「あっ、」
次に目に入った文を見て余計に涙が流れた。
『あの日傷つけてすまなかった。妻と子を守ってくれてありがとう』
『俺達は、取り返しのつかないことをしてユウを傷つけた』
『許してくれとは言わない。だが、これだけは言わせてくれ。
守ってくれて本当にありがとう』
『都合のいい話かもしれないが、リーン村に住む俺達は皆、ユウの帰りを待っている。』
『だから、何時でも帰ってきてくれ』
「う、あぁ、あぁぁぁぁぁあっ」
シーツを手繰り寄せる。
拭っても拭っても涙が溢れて止まらない。
怖かった。
辛かった。
そのすべてを流しだすかのように涙は止まらなかった。
その後、泣きつかれて眠ったユウを病室に入ってきたシンガが涙で濡れたシーツを新しいのに変え、ユウの頭を優しく撫でたあと静かに病室を出ていった。
長いっ!……と感じた人が多いと思います!
ごめんなさい!なかなかまとまらなくて……
投稿遅れてすみませんでした。
これからも頑張りますので、
ブローディア~護りたいもの~をよろしくお願いします!






