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おにぎりを作ろう

 何かをするにはもってこいの気持ちの良い朝日が差し込む早朝。

 朝食を終えたジュリはルーンバルツの所へ行き、調理場の一角を借りて、早速作業に取りかかった。


 まずは指輪から昨日買った物を取り出す方法だが、色々としてみた結果、取り出したい物を思い浮かべ指輪を振ると取り出せることが分かった。


 入れるにしても出すにしてもどんな物か思い浮かべる必要があるようで、これはもし何を入れたか忘れた場合一生取り出せなくなる可能性がある。


 忘れないためにとりあえず昨日買った品物を全部出し、メモに控えてから中に入れるようにすることにした。



 そして今ジュリの目の前にあるのは昨日買ったお米とカフィ。


 まずは時間の掛かるコーヒー作りだ。

 サクランボのような赤い実の皮を、一つ一つ取っていく。

 果肉は少なく、大きな種を包むように少しついている程度だ。


 数粒の皮剥きはなんてことないが、山盛り一籠分もある量を一人でするのはしんどい。

 そこで役に立つのが使い魔だが、蝶では手がないので皮を取るのは難しいだろう。


 そこで新しい使い魔を作ってみた。


 ジュリの膝ほどの高さの向日葵のような花。

 しかしただの花ではなく、根は足のようになっていて自立歩行ができ、蔓が手のように自由に動く。

 そして大きく裂けた口。



「ぎょぎょぎょ」



 と、奇っ怪な鳴き声をあげる、奇妙な花が出来上がった。

 しかも、皮剥きを手伝ってもらうためなので、一体ではなく十体も同じ花が作ってしまい、揃ってぎょぎょぎょー!と生まれたての赤子の産声のように雄叫びを上げている。


 ちょっと恐い……。

 もっと可愛らしいのをイメージしていたはずなのだがどうしてこうなった。



「……思ってたのとなんか違ったけどまあ良いか。皆、皮剥いていって」

「ぎょぎょー!」



 使い魔達が皮剥きに精を出している間、ジュリはお米の精米に取りかかる。

 まず必要になるのは臼とお米を突くための棒。


 外に出ると地面に手を付き魔力を流す。

 するとそこから葉が生えどんどん成長していき大きな木になった。


 立派な気になったのを満足そうに見上げると、今度は今作ったばかりの気を風の魔法で切って丸太と長い角材を切り出す。


 丸太は皮を切り落とし中心を抉るように削り丸く整え臼に、長い角材は周りを削り落とし握りやすく突きやすい棒にした。


 臼と棒のセットをもうワンセット作ると、これを使ってもらうための花の使い魔を二体作る。

 


「臼の中にお米入れてね」

「ぎょぎょ」



 この花の使い魔もジュリが作ったので全属性を持っている。

 風の力で米を二つの臼の中に入れたのを確認して、ジュリは棒を持って臼の中のお米を突いて見せる。



「こうやって、お米を突いていくの。お米からぬかが取れて白くなるまで突き続けてね」

「ぎょぎょ」



 棒を使い魔に渡すと、見よう見まねでトントンとお米を突いていく。



「そうそう、そんな感じ」

「ぎょぎょぉぉ」



 次第に要領を掴んできたのか、ドドドドドっと、もの凄い速さで突き始めた。

 使い魔なので人間のように疲れるということもない。

 この速さでいけば数時間もあれば白米になるだろう。



「私コーヒーの方見てくるからお願いね」

「ぎょーぎょー」



 調理場に戻ると、皮を剥き終えた花達が各々思い思いのブレイクタイムをしていた。



「あれ?」



 おかしい……。


 使い魔には一体につき一つの命令をすることができるが、使い魔は普通その命令を遂行したら使い魔を形作る魔力は消え、使い魔そのものも消えるのだ。


 しかし皮を剥くという命令を終えたはずの使い魔達はまだ消えずに存在している。

 これはいったいどういうことなのか。



「なんでまだいるの?」

「ぎょぎょ、ぎょぎょぎょ」

「うん、何言ってるか分からない」



 何か伝えようとしているのは分かったが、言葉が分からない。



「消えないの?」



 そう問い掛けるとうんうんと頷く。


 

「うーん、普通の人が作った使い魔と管理者が作った使い魔は違うのかな?」



 神様から与えられた知識の中にその答えはなかった。



「後でルーンにでも聞けば分かるかな。

 まあ、いいや。消えないんだったこのまま手伝ってもらおう。良い、皆?」



 すると揃ってぎょぎょぎょー!と声を上げる。どうやらオッケーということらしい。


 皮を剥いたコーヒーの実は、果肉が付いた状態の種をバケツに入れ水を注ぐ。

 後はそのまま水に漬けておく。


 コーヒーの方はこれで良い。


 今度は昨日買った食材の中からきゅうりとキャベツを指輪から取り出し、一口大に切ったら塩と生姜を入れてもんで置いておく。

 少しすれば浅漬けの出来上がりだ。



 調理場には何人もの料理人がいたが、皆ジュリを遠巻きにしているものの、何をしているのかとどこか興味津々だ。

 異世界の料理を作ると言っているので、料理を作る者として興味があるのだろう。


 料理より使い魔の方が気になってちょっかいをかけていた者は、蔓でぐるぐる巻きにされていたが見なかったことにする。

 簀巻きにされ床に転がされている人の上に足を置き、ぎょぎょぎょーっと、勝利の雄叫びを上げているが気にしない。


 

「あの、魚ってありますか?」

「はい、ございますよ。レイシェアスは島国ですので新鮮な魚がたくさん捕れますので。どのような魚をお好みですか?」



 調理場には氷の魔石を使った大きな冷蔵庫がある。

 その中には野菜に果物の他に魚もたくさんと入っていた。

 料理人を取り仕切る料理長のジョエルに魚の味を聞きながら、塩焼に合う魚を選ぶと、魚に塩をまぶしジョエルに焼いてもらう。

 ジュリが焼いても良かったのだが、料理長と言われる手慣れた人の方が上手に焼けるだろう。


 焼けた魚はあら熱を取ってほぐしておく。



「そろそろお米できたかな」



 外に様子を見に行くと、さらに加速してお米を突いていた。

 疲れている様子がないのはさすが使い魔だ。


 臼の中を確認すると、ぬかが取れて玄米から白米に変わった米があった。



「できてるできてる。ご苦労様」

「ぎょぎょー」



 役目を終えた使い魔だが、米を突いていた二体も、やはり皮を剥いていた使い魔同様命令を終えたのに消える様子はない。


 最初に作った蝶は映像を見るために魔力に戻し取り込んだから、消えてしまったというより消したのだが、そうでなければあの蝶も消えなかったのかもしれない。



 出来上がったお米は風の力で米とぬかとに分別する。

 米ぬかは今後使う機会があるかもしれないので、袋に入れて指輪に収納する。



「よし、じゃあ、お米を炊こう」



 調理場に戻ると、お米を水で洗い、少し置いた後火に掛ける。


 炊飯器などないので水と火加減が難しいが、様子を見ながら炊いていく。

 そうして出来上がったご飯。

 少し水分が多かったようだが、立派なご飯だ。


 あら熱を取り、塩を付けた手で三角に握っていく。

 中に入れるのは先ほど焼いてほぐしておいた塩魚だ。


 ぎゅっぎゅっと丁寧に握っていく。海苔がないのは残念だが、おにぎりの完成だ。



「うう~、長い、長かった」



 まさかおにぎり一つ作るのにこれほどの時間が掛かるとは……。

 異世界生活は思ったより大変である。

 もし使い魔という存在がいなければもっと大変だっただろう。


 出来上がったばかりのおにぎりを食べてみる。



「うん、美味しい」


 作っておいた浅漬けも一緒に食べればなお美味しい。

 そんなジュリを見ていた料理人達から、うぇ、食べてるよといった眼差しが向けられているのに気付く。



「皆も食べてみて」



 そう言って差し出すが、誰も手を伸ばさない。


 

「いやぁ、だって、なぁ?」

「鳥の餌ですよね」

「美味くなさそうなんですけど」



 彼らの常識が手を伸ばすことを躊躇わせているようだ。

 しかし、食べたら分かる。お米の美味しさは。



「いいから、食べなさい。管理者命令よ」



 ここぞとばかりに管理者の権利を行使する。

 そう言われたらこの神殿で暮らす人は誰も逆らえないのを分かった上での言葉だ。


 料理長が意を決したようにおにぎりを手に取り口に運ぶ。

 それを部下達がはらはらと見守っているが、ジュリにしたら失礼な話だ。別に毒物を与えているわけではないのだから。



「うん、悪くない」

「でしょう、でしょう。ほら皆も」



 料理長が食べたことにより他の料理人達も手を伸ばし始める。



「案外いけるな」 

「うん、鳥の餌とは思えない」

「こんな食べ方もあるのか」



 と、好評を得た。




 その後、料理人達からおにぎりの話を聞いたのか、ルーンバルツが「私にもジュリ様の世界の食べ物を食べさせて下さい!」と、仲間外れにされたことを嘆いていた。






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