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使い魔を作ろう


 思い立ったが吉日、早速ルーンバルツに頼みに向かうジュリ。

 部屋の外には槍を持ったがたいの良い神官服の男性がジュリの部屋を守るように立っており、ジュリが部屋から出てきたのを見ると近付いてきた。



「どうされましたか?」

「ルーンに会いたいの」

「でしたら、私がご案内致します」

「お願いします」



 別に一人でも行けるのだが、まだ来たばかりの神殿。勝手に動き回るのははばかられた。


 ジュリが歩くと通りかかった人達が、皆脇によって跪く。

 棚ぼたで管理者になったような自分に必要ないというのに。

 偉くなった気分と喜べれば良いのだが、どちらかというと居たたまれなさが先立つ。

 せめて跪くのだけでも止めさせられないか、ルーンバルツと交渉してみようとジュリは思った。



 ルーンバルツの元へ案内されながら廊下を歩いていると、ふと壁に掛かった鏡が目に入った。

 なんの気なしに鏡を見ながら横を通ると、自分の姿が鏡に映った。

 その姿を見たジュリはギョッとし、鏡に近付いた。



「何じゃこりゃあぁぁぁ!」



 自分の顔をぺたぺたと触れると、当然鏡に映った人物も同じ動作をする。

 それにより鏡に映った人物は自分であると核心したのだが、いったいどういう事なのか。


 ジュリの元々の姿は、茶色い髪に染めてはいたが、黒目に平べったい、まさに日本といった顔。

 だが、鏡に映った人物はミルクティーのような髪色に深い深い緑の瞳。そう、まるで世界樹の葉の色のような。


 それだけでも驚きなのだが、一番はジュリの容姿。

 特に可愛いわけでも不細工というわけでもない、何処にでもいる平凡な容姿のジュリだったが、鏡に映るのは誰に聞いても恐らくほぼ全てが可愛いと評するだろう美少女がいた。



「何これ、本当に私?」



 ジュリの元々の面影はある。だが、少し垂れ気味のぱっちりとした二重の目、シミ一つない絹のような白くきめ細かい肌、小さく鼻筋の通った鼻。

 どれもがジュリと似ているようで全然違う。


 どうしてこんな顔にと驚愕していると、神様が言っていた言葉を思い出す。



「そう言えば神様が用意した肉体に入ってもらうって言ってたような」



 てっきり前の自分と同じだと勝手に思っていたが、よくよく考えれば向こうでは一度死んでいるのだから同じ体とはいかなかったのだろう。


 もしかしたら神様の好みの顔で体を作ったのかもしれない。

 いや、別に不細工になったというわけではないのだ。むしろ美人になったのだから文句はない。



「まあ、可愛くなったんだし良いか」



 多少以前の面影もあるので、そこまで酷い違和感はない。

 新しい世界に来て心機一転、整形したとでも思えば問題はない。



「あの、ジュリ様……どうかなさいましたか?」



 案内をしてくれていた男性が、躊躇いがちに問い掛けてる。

 突然鏡に向かって叫びだしたジュリに困惑顔だ。



「いえ、何でもないです」



 気を取り直して男性にルーンバルツの所まで案内してもらった。

 開口一番喫茶店に行きたいと告げてみる。



「喫茶店でございますか?」

「はい!けど、喫茶店だけじゃなく、この世界の人の暮らしも見れたらなって思ってて。

 そう言えばこの近くに町はあるんですか?」

「ございますよ。

 レイシェアスは小さな島国ですが、世界樹があるため、世界中からこの神殿に祈りを捧げに多くの人々がやって来るのです。

 人が集まれば自然と商人が集まるので、神殿の外には世界的に見ても大きな町が広がっておりますよ」

「その割にはこの神殿は静かですね」



 部屋からここまで神殿を歩いてきたが、神官を数人見ただけだ。

 世界中から人が来ると言う割に、神殿の中は静寂に包まれている。



「ジュリ様がいらっしゃるここは、神殿の中でも世界樹のある最奥に位置する場所ですので、ここまで入ってこられる人は厳選されております」

「そうなんだ。まっ、大きな町があるなら喫茶店も勿論ありますよね?

 是非見に行きたいんだけど」



 そして早くこの世界に慣れて喫茶店を開きたいのだ。



「それは構いませんが、必ずお供を付けさせて下さい。

 レイシェアスの町は信者が多いので、世界樹の御許で馬鹿をする者は少ないと思いますが、ジュリ様に万が一のことがあってはなりませんので」

「それは良いですけど、できれば町を案内できる人、この世界のことを分かりやすく説明できる人を付けてくれるとありがたいです」

「そうですね、すぐに手配しましょう」

「じゃあ、早速……」



 今すぐ町に行こうと腰を上げたジュリ。しかしルーンバルツがすぐに止めに入る。



「いえ、町の散策は明日にいたしましょう。

 もうすぐ日も暮れますし。今日いらしたばかりなのですから、今日はゆっくりとおくつろぎ下さい」

「そうですか」



 行く気になっていただけに、ジュリは肩を落とす。



「焦らずとも管理者であるジュリ様は寿命がないのです。

 先はまだまだ長いのですから少しぐらいのんびりしていても大丈夫ですよ」

「確かにそうですね。もうすぐ自分のお店が持てると思ったら気が急いちゃって」



 そう管理者は不老。

 重要なのは、決して不死ではなく、普通の人のように肉体が傷付くと死ぬこともある。

 だが、病気にはならないらしいので、病死という可能性はなく、年を取らないので老衰することもない。

 なので、肉体を傷付けない限り永遠でも生きられるのだ。


 だから特に焦る必要はないのだが、ずっとこの日を夢見てきたのだ。

 多少はテンションが上がりすぎるのは仕方がない。



「ジュリ様がお店を持たれた時には、伺わせて頂きます」

「是非是非、大歓迎です!」



 ルーンバルツとの話を終え、自室に戻ると、折角なので魔法を使って色々試してみた。

 普通の人はあまり使いすぎると魔力切れを起こし、最悪死んでしまうこともあるのだとか。

 だが、ジュリの魔力は世界中の魔力を循環させている世界樹から供給されているので、世界樹が枯れでもしない限りジュリの魔力が切れることはない。

 ますますチートだ。



 全ての属性を使ってみたが、問題なく全て使える事を確認した。

 それで分かったのは、世界樹の管理者なだけに、植物の属性が最も使いやすかったということだ。

 神様からもらった知識によると、色んな植物を作り出せるが、この世界にない植物は作り出せないらしい。

 世界樹と同調しているため、世界樹の知らない植物は作り出せないということだ。


 試しにチューリップを出してみようとしたが何をどうしても出てこなかった。

 他の花は作り出せたのにだ。

 きっとこの世界にはない花なのだろう。


 管理者であっても神様ではないので無からは作り出せないということか。


 向こうでよく食べていた野菜や果物がこの世界にもあることを密かに祈った。

 でなければもう一生食べられないという事になるのだから。



 次にジュリが取りかかったのは使い魔の作成だ。


 己の魔力で作り出す、製作者の命令を忠実に遂行する生き物。

 生き物と言っても魔力の固まりなので本当に生きているわけではない。

 その行動も製作者の意志によるもので、自分で考えて行動できるわけではないのだ。

 心を持つ生き物を作れるのは神だけ。


 それでも、自分の思い通りに動いてくれる使い魔は是非とも欲しい。

 喫茶店の経営にも役立つだろう。


 問題はどんな使い魔を作るかだ。



「犬、猫、兎、鳥……うーん」



 どれもぴんとこない。


 その時、窓の外でひらひらと舞うものが目に入った。



「これだ!」



 何にするか決まったジュリは早速使い魔作成に取りかかる。


 意識を集中させ、それの色、形を明確にイメージする。

 使い魔作成に大事なのは大量の魔力とそのもののイメージ、それとその使い魔への命じること。


 使い魔の作成には多くの魔力を消費するので出来るものは限られる。

 作る途中で魔力切れを起こしてしまうことも珍しくない。

 だが、ジュリには無尽蔵の魔力があるので魔力切れの心配は無用だ。

 イメージさえしっかりしていれば。


 そして作った使い魔に命じられる命令は一つ。

 複数の命令をするには、それだけの数が必要になる。

 今は試しに作ってみるだけなので複数作る必要はない、一つだけだ。



 そうしてふわりと現れたのは、虹色の羽を持つ綺麗な蝶。

 蝶はひらひらと舞い、ジュリが差し出した人差し指に止まった。



「おお、できた」



 右から左からと、蝶を観察していく。

 虹色の羽をした蝶は芸術品のように綺麗の一言で、窓から入ってくる光が反射しキラキラとして、うっとりするような美しさだ。


 自分の美的感覚に狂いはなかったと、心の中で自画自賛する。


 見た目は蝶そのもので、これが使い魔だとは誰も思わないだろう。

 だが、あまりの綺麗さに誰かに捕まらないか心配ではある。

 少し失敗したかなと思うものの、ジュリに後悔はない。

 それにジュリの魔力で作られただけあり、全属性の魔法が使える。

 身の危険を感じた場合は反撃良しと組み込んでいるので、捕まりそうになっても返り討ちにするだろう。



 ジュリは蝶を指に乗せたまま、立ち上がり窓を開ける。

 すると、蝶はジュリの指を離れ外へと向かう。



「よろしくねー」



 蝶は挨拶をするように一度くるりと旋回してから、空へ向かって飛んでいった。

 ジュリの命令を遂行するために。






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