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ルーンバルツとの話を終えたジュリは、ジュリのために用意されたという部屋に案内された。
「こちらでございます」
案内してくれるのは、ジュリの世話役として付けられた女性神官のツェスカ。
茶色い髪をぴっちりとアップにし、ふんわりと柔らかに笑う優しそうな人だ。
そんなツェスカに案内された部屋を開け、中に入ると、その豪華さに開いた口が塞がらなかった。
一目で高いと分かるような毛足の長い絨毯。
座り心地の良さそうな大きなソファーと細工も施されたテーブル。
全てが品良く並べられていた。
「一通りご案内致しますね」
「は、はい」
ツェスカはずんずんと奥に行き、一つの扉の前に立つ。
「こちらが寝室となっております」
扉を開け中に入ると、とても一人用とは思えない大きなベッドが置かれている寝室があり、さらに奥にも扉が二つ。
その一つを開けると、中には沢山の服や靴が並べられていた。
ウォークインクローゼットのようだ。
「これは?」
「こちらは全てジュリ様のためにご用意したものでございます。お好きにお使いになって下さい。
なにぶんジュリ様がお越しになると神託が下りたのも急のことでしたので、これだけしかご用意出来ず申し訳ございません。
早急に手配致しておりますので今暫くお待ち下さい」
これだけと言うが、決して狭くない部屋に見渡す限り服が並べられている。
まだ前の世界で生きていた頃持っていた自分の服の数より多い。
「いえ、これだけあれば十分ですよ」
「そういうわけには参りません。ジュリ様は管理者であられるのですから。世界で最高の物を取り揃えさせて頂きます!」
拒否したところで勝手にしそうな勢いのツェスカに、ジュリも反論することを諦め「ありがとうございます」ととりあえずお礼をしておいた。
部屋を出るともう一つの扉へ。
そこはお風呂とトイレのある部屋だ。
トイレと風呂場は別になっており、こちらも部屋と同様、十分な広さがあり、汚れ一つなく綺麗だ。
そのことに少しほっとする。
毎日使うトイレとお風呂の綺麗さは重要だ。
この世界がどの程度発展しているのか来て間もないジュリには分からない。
だが、水回りを見ればある程度の生活水準が分かるはずだ。
水洗トイレに、蛇口をひねるだけで出てくる水、シャワー、湯沸かし器。
科学の発展した前の世界のような生活とまではいかないが、出来るだけ近い水準である事を祈りつつ、ツェスカの説明を聞く。
「こちらはトイレですが、使い方は分かりますか?」
「いいえ」
見た目はジュリもよく知るトイレの形。
「用を足されましたらこちらにある石に魔力を流して下さい」
手本を見せるようにツェスカが、トイレの後ろの壁に埋め込まれている丸い青い石に魔力を流す。
すると水が流れトイレの中が綺麗に洗い流されていく。
ぼっとんじゃなく水洗トイレだと分かり、静かに喜ぶ。
「下水設備がちゃんとあるんですね?」
「下水設備?いえ、これは水の魔法で洗浄、闇の魔法で吸収しております」
「魔法……」
この世界は科学の代わりに魔法が発展しているようだ。
次にお風呂を見せてもらったが、浴槽の所に蛇口のような物が二つあり、その蛇口の上にはこれまた丸い石が乗っている。
そこにツェスカが手を置き魔力を流すと蛇口から熱いお湯が出てきた。
「もう一つの方からは冷たい水が出てきますので、お好みの温度に調節なさって下さい」
「これも魔法ですか?」
「はい、水と火の魔法が掛けられております」
ジュリは蛇口の上に付いた丸い石を撫でてみる。
つるつるとした感触のある石。
「これって魔石?」
「はい、魔石でございます」
魔石に関することは神様に与えられた知識の中にあった。
魔石は魔力が固まった物で、水なら水の力が、火なら火の力が宿っている。
それを手に入れるには三つの方法がある。
一つ目は自然界の魔力がゆっくりと集まり固まった物。
これは時間がとても掛かる上、どこに出来るか分からないので自力で探す必要がある。
二つ目は人が自分の持つ魔力を精製して石にする方法。
この世界の人は一人に一つの属性を持っている。
そのため自分の持つ属性の石しか作ることが出来ず、尚且つその人の資質により石の大小、質の良し悪しが変わってくる。
それに己の魔力を消費するので、多くは作れない。
三つ目は魔物を倒し、その体内にある魔石を採取する方法。
そう、この世界には魔物が存在する。
人と同じように魔力を持ち、属性を持っている魔物の体内からは魔石が取れるのだ。
一番確実に魔石を採れる方法だが、魔物を倒さなければいけない。
弱い魔物だと質の悪い魔石しか取れず、質の良い魔石を持つ魔物は強くて倒しにくいという欠点がある。
こんな設定がある辺り、ゲーム好きな神様が作った世界だと感じる。
「この世界ではこれぐらいの生活水準が普通ですか?」
「いいえ。このレイシェアスは魔力の根源たる世界樹があるため良質な魔石が沢山取れるのです。
それ故、魔石を生活に組み込んだ技術が発達しており、また、管理者のおられるこの神殿は、世界の中で最も生活水準が高いと自負しております。
レイシェアスでは他国より安価に魔石を手に入れられますが、あくまで他国に比べればなので、レイシェアスの国民でもここほど魔石を豊富に使った生活はしておりませんね。
魔石の値段が高い他国ではさらに水準は下がり、水は井戸から、お湯が欲しければ沸かし、トイレも地面に穴を掘っただけの物だったりします。
ここのような生活が出来るのは大国の王族ぐらいでしょう」
「なるほど」
他国の話を聞くと、他国はかなり生活水準が低いようだ。
「説明は以上ですが、分からないことはございますか?」
「多分大丈夫です」
「では私はこれで失礼致します。
何かございましたらこちらでお呼び下さい」
そう言って、ジュリにベルを渡し部屋から出て行った。
一人となり、静まり返った部屋の中、ジュリはゆっくりとソファーに腰を下ろし、小さく息を吐いた。
そして目を瞑り、意識を集中させる。
自分の中に感じる大きな力。
それは神様からもらった魔力だ。
「これが魔力か」
これまで魔力など感じたことなどないのに、今ははっきりとその力を感じ取るとこが出来た。
手の平を広げ火をイメージする。
すると、ポッと手の平の上に炎が現れた。
自分の魔力で作った炎だからなのだろう。熱さは感じない。
手の平の上の炎をぎゅっと握り締めることで消すと、次に水を出現させる。
ゆらゆらと形を変えながら手の平の上をたゆたう水の固まり。
魔力の使い方も知らないはずなのに、息を吸うように自然と使いこなせるのは、神様が与えてくれた知識と、世界樹と同調したおかげだろう。
水を消すと、一度手を握り締め再び開く。
そこには小さな種があり、その種に魔力を流していくと、種から芽が出て葉を作り最後は花が咲くまで成長した。
この世界では誰もが一つの属性を持っている。
火、水、風、地、植物、氷、治癒、空間、闇、光の内のどれかを。
しかし管理者は全ての属性を使えるのだ。
「うん、チートってやつね」
お風呂に使われていた魔石のように、火と水の力を使えばお湯が沸かせ、水と闇があればトイレも清潔に使える。
普通は属性は一つしかないので魔石を使う必要があるが、全ての属性を使えるジュリは魔石がなくてもそれらが使える。
どうやらこの世界は前にいたジュリがいた国より生活水準が劣るようだが、これらの属性を駆使すればさして苦もなく生活できるだろう。
神殿の外で喫茶店を始めても心配はない。
だが、複数の属性を使えるのは神か管理者だけなので、他人には知られないよう注意する必要がある。
「まずはこの世界の食文化かな」
喫茶店を始めるにあたり、どんなメニューを出すか、この世界の喫茶店はどういう物か知る必要がある。
まずは偵察だ。
レイシェアスの外へ行って、この世界の喫茶店を見に行こうとジュリは考える。
「ルーンに聞いてみよう」
ジュリは意気揚々と立ち上がり、咲かせた花を花瓶に入れると部屋を出た。