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コーヒーを作ろう 1

 一日経ち、昨日水に漬けていたコーヒーの様子を見に行く。

 ジュリの後ろからは昨日作った花の使い魔達がついてくる。

 どうやら一日経っても消えなかったようだ。

 消えるどころか、ぎょぎょぎょと朝から元気いっぱいだ。


 その不気味な容姿は、通りすがる全ての神官達がギョッとした表情を浮かべる。

 一体だけならまだしも、十二体もいるのだからなおさら恐いはずだ。

 作ったジュリもちょっと後悔しているが、よく見れば愛嬌もあるのだ。

 


 使い魔は睡眠も必要ないので、特に命令も受けていなかった使い魔は、夜中の暗い神殿の中をぎょぎょぎょと言いながら全員で練り歩いていたようで、夜の番をしていた神官が怖がっていたらしい。

 申し訳ないことをした。


 止めさせて下さいと神官が泣きながら訴えてきたが、使い魔にできる命令は一つ。

 ここで夜は歩くなと命令してしまえば、その間使い魔に他の命令をすることができなくなってしまうので、神官達には我慢してもらうしかない。


 

 調理場に置かしてもらっていたバケツを使い魔に持ってもらい外へと出る。

 中を確認すると良い感じでふやけて種の周りの果肉が取れやすくなっている。


 いったん水を捨て、新しく水で満たすと魔法を使い、洗濯機のように水を動かして種を洗浄していく。

 すると、種の周りに付いていた果肉が取れ、種だけとなる。


 続いてござのような敷物を地面に敷くと、その上に種同士が重ならないように並べて天日干しをする。


 この後何日も干しておく必要があるので、天候が崩れると厄介なのだが、この世界樹のあるレイシェアスは特に世界樹の力が強く表れている。

 それはジュリの力の影響が特別出やすいということでもあり、それは天候にまで影響を及ぼす。

 つまりジュリが晴天を望めば晴れが続き、雨を望めば雨が降るということだ。

  

 他の国でもやろうと思えばやれないことはないというのだから、管理者がこの世界で持つ役割や力というものは改めて考えても凄い。


 天候の左右を一人の人間の意志一つで決めてしまえるのだ。

 それはある意味恐ろしいことではないだろうか。


 管理者の機嫌を損なえば国一つ滅ぼすなど容易いことだろう。

 


 生活の行く末を左右する、そんな選択肢を一人に与えてしまって良いのだろうかと疑問が浮かぶ。

 過去管理者が何人いたか知らないが、悪いことに使う人はいなかったのだろうかと少し気になった。



「まあ、私がそんなことしなければ別にいっか」



 何か悪いことだとすれば神様が何か言ってくるだろうと、それまでの思考を彼方へぽいっと投げ捨てた。

 今重要なのは喫茶店であり、そこで出すコーヒーなのだ。



 種は時々かき混ぜながら天日干しして数日。

 その間は使い魔に監視を頼んでいたので、その間は夜中に神殿を練り歩くということはなかったので神官達はほっとしただろうが、コーヒー豆が出来上がれば、また好き勝手に動き始めるだろう。



 種は良い感じで乾燥している。

 しかしこれで終わりではない。

 コーヒーは豆となる物の周りを殻と薄皮が覆っているのだ。

 それを脱穀する必要がある。


 お米を精米する時に使っていた臼を使って脱穀する。

 それをするのは勿論使い魔達だ。



「ぎょぎょぎょ」

「ぎょぎょ」



 トントンと臼の中の種を棒で突くと、段々殻と薄皮が剥けてくる。

 しかし綺麗にとはいかないようで、粗方剥けたら後は手作業で殻と薄皮を取っていくしかない。


 ちまちまちま。と、作業するのは中々に大変だ。使い魔達に手伝ってもらいながら剥いていく。

 そうして取り出した種子。これがコーヒー豆だ。



「うんうん、良い感じだー。

 よーし、今度は焙煎しに調理場に行こう!」

「ぎょぎょー」



 調理場では料理人達が色々と作業していたが、ジュリが顔を出すと料理長のジョエルが手を止め近付いてきた。



「ジュリ様、今日はどうされました?」

「コーヒー豆を焙煎したいの。調理器具貸してもらえる?」

「ええ、構いませんよ。必要な物があったら仰って下さい」

「ありがとうございます」



 早速剥いたばかりのコーヒー豆をフライパンに入れ、炒っていく。

 パチパチと音が鳴り始め段々と色づいていく。焦げ茶色になったら火から外し冷ます。



「うん、香ばしい匂いがする。

 すり鉢ってありますか?」

「ございますよ」



 本当はミルで挽くものなのだろうが、あいにくここにはないのですり鉢で細かくしていく。


 最初はジュリ自らごりごりと潰していたが、この作業、力も必要で中々骨が折れる。

 ここは使い魔にバトンタッチだ。



「ぎょぎょー」



 疲れない使い魔は一定の速さを崩すことなくすり潰していく。



「うーん、ミルが欲しいな」



 今後喫茶店を開きコーヒーをメニューに出すなら、この作業を毎回するになる。

 すり鉢だと大きさも不揃いになるのでできればミルが欲しい。



「どうにかならないかな……」



 そう、できれば魔法で何とかできるのが一番だ。



「砕く、潰す、切り刻む……。切るか」



 切るなら風だ。木を切った時も風を利用した。

 それなら器の中のような小さな物の中で風邪を発生させたらどうなるだろうか。


 試しにボールの中にまだ挽いていない豆を入れ蓋をして中に風を発生させてみた。

 思い浮かべたのはフードプロセッサー。

 ボールの中を風の刃がぐるぐると回転しているイメージだ。



 中でガリガリっと音がし、次第に音が滑らかになる。

 蓋を開けてみると、綺麗に粉砕され粉になったコーヒーができていた。



「ぎょぎょ」



 簡単に粉にしてしまったジュリに、横で一生懸命すり鉢を擦っていた使い魔が手を止め悲しそうに鳴いた。

 どうやら使い魔の手は必要なかったようだ。

 もっと早くやれよと使い魔達が言っているような気がして、ジュリはばつの悪そうな顔をする。


 まだ挽き終わっていないすり鉢に残された豆も同じように風で一気に粉にした。



「ぎょー」

「ま、まあ、今度からこうすれば良いよね。

 それにこれができるって分かったんだから、挽肉とか活用法はありそうだし」



 フードプロセッサーで料理の幅も増えるだろう。



「よし、今度は抽出して、コーヒーを作ろう」



 お湯を沸かし、コップの上に綺麗な布を被せ、コーヒーの粉を乗せる。

 濾紙がないので、布で代用だ。

 お湯をゆっくりと回し入れると、抽出された黒い液体が下に落ち、コーヒー独特の香りが鼻腔をくすぐる。



「できたぁー!」

「ぎょぎょぎょー」



 嬉しさを押し殺せずパチパチと手を叩くと、使い魔達もそれにならって手を叩く。


 しかしこれで終わりではない。

 重要なのは味だ。



 まずはそのまま何も入れずブラックで一口。



「うー、うん、……うん?」



 ちょっと微妙な反応なのは、ジュリが向こうの世界で飲んでいた市販のコーヒーより雑味を感じるから。

 しかしちゃんとコーヒーの味はする。



 だが、お店で出せるレベルかと聞かれると首を傾げてしまう。


 何が悪いのだろうか。処理の仕方は間違っていないはず。

 後は焙煎の時間、とコーヒーの実自体の品質の問題か。



「うーん、これは改善の余地ありだなぁ」



 せっかくできたのだが、どうせなら美味しいコーヒーを作りたい。

 どうすべきか。



「いっそ、コーヒーの木から作ってみるか」



 世界樹の管理者であるジュリは、植物の属性が特に強い。

 作ろうと思えば最高品質のコーヒーの木ができるはずだ。



 そうと決まればルーンバルツに許可を貰いに行こう。


 勝手に神殿内にコーヒー農園を作るわけにはいかない。









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