行うは難し
レイアス・ランク4歳。
愛称はレイ。
先日の魔力測定で無の単属性と判明。
単属性はそこまで珍しくないが無の単属性はかなり希少らしい。
魔力量は少なめで現在1つも魔法を使えない。
魔法に対する耐性が低く魔力酔いしやすいためあまり外出できない。
両親と兄が2人に姉が1人。
長女は既に結婚しており長男は学校で寮生活をしている。
家族仲は良好。
従業員は執事とメイド長にメイドが3人、庭師1人、料理長と料理人が2人の合わせて9人。
2階建ての屋敷はかなり広く、庭も四季折々の景色を楽しめまさに貴族って感じがする。
「でもどちらかというとざいせいがかつかつなんだよなぁ。」
この世界に来て、否、レイアスを乗っ取った、もしくはレイアスと融合してから早3ヶ月。
僕になる以前の記憶もしっかりあり、それほど困ることもなく順調に調査は進められた。
その結果僕は4歳の誕生日を迎えて3日後にこの世界に来た事、領地経営はなかなか良好だけど土地があまり豊かではない事、父親の足がすごく速い事、メイド長がかなり力持ちな事、庭師が元騎士だった事、執事は御約束通り万能な事等がわかった。
「まずはしょくりょうじじょうをかいぜんしたいよね。」
この世界は最高で残酷だ。
なぜなら僕の大好物の卵かけご飯が食べられないのだ。
大好きな米はあるのに。
ランク伯爵家の領地内では珍しいことに小麦だけでなく稲作もされていた。
しかしながらそもそも卵を生で食べるという概念がこの世界にはなかった。
次に鶏などの家畜も魔力を宿しており、魔力耐性が低い僕が食べると魔力酔いしてしまうので基本肉類だけでなく野菜等も火が通った状態で出される。
サラダは温野菜、牛乳はホットミルク、氷も魔法でつくるから冷えた飲み物もこのままじゃ飲めそうにない。
この世界に来て1週間経った頃、卵かけご飯が食べたくなった僕はこっそり鶏小屋に向かった。
ちょうど鶏達は運動のためほとんどが出払っていたので問題なく小屋に入ることができた。
そして僕は卵を手に入れたのだ。
よし、これで卵かけご飯が食べられる!僕は意気揚々と歩き出すと遠くに父親の姿を見つけた。
あっ父上、と思った時には猛スピードで距離を詰められ卵は父親の手の中に。
「どうして卵を持っていたんだい?」
「たまごかけごはんがたべたいのです。」
「たまごかけごはん?」
「ごはんになまたまごをかけて、ちょうみりょうであじをつけたものです。」
米はあるのに醤油や味噌はないため塩で食べることになるが、塩の種類は結構あるので卵かけご飯に合うものもあるだろう。
僕の頭の中は卵かけご飯でいっぱいだった。
大好物の卵かけご飯が遂に食べられるのだから仕方ないと思う。
「レイ、残念だけどたまごかけごはんは食べさせられない。」
「えっ!?どうしてですか?」
「先ず顔色が悪い。おそらくこの卵を持ったことで魔力に当てられたんだろう。次に生で食べると言ったが卵は火を通さないと駄目なんだ。色々問題があるんだよ。だから…」
父親の言葉を聞き終えることなく僕はまるで落とし穴に落ちたように意識を失った。
そして目が覚めた時には日が変わっており、両親から鶏小屋には頑丈な鍵がつけられたことと僕の体質についてこんこんと説明された。
ふて寝してしまったのは許してほしいと思う。
「やっぱりしょうゆとみそがほしいなぁ。だいずっぽいのもあるからつくれるよね。たまごかけごはんがいまのところむずかしくてもみそしるはゆずれない。」
材料は確か味噌は大豆と塩と麹と…あれ、そういえば麹菌ってどうつくるんだろ?
醤油にも使うはずだよね。
菌っていうから茸とかそういう系?
否、カビの一種だったような気もするような?
……駄目だ、わからない。
前の世界では当たり前のようにあったから作り方なんて気にもしなかった。
本当に恵まれた生活を送っていたんだなぁと改めて実感する。
「…でもさきにつちをかいりょうしよう。しゅうかくりょうをふやさないとほかのことまでてがまわらないものね。」
土を豊かにするといえば肥料。
では肥料といえば─思い付くのは腐葉土とか堆肥、石灰とかも良いんだっけ?
うーん腐葉土と石灰はなんとかなりそうだけど堆肥は無理だな。
糞に病原菌とかいそうだし。
それにこの世界、上下水道完備されてるんだよ。
ぼっとん系を想像してたから本当にびっくりした。
ゲームって素敵。
ああそういえばどうしてここが『無償の愛に彩りを』の世界だと気づいたか。
その理由は名前と髪と瞳の色、そして─執事。
ミニゲームを高得点でクリアするとたまにランク家の万能執事マルユが出て来て「お見事です。」と言って去っていくのだ。
最初は名前欄に?しか書かれていないがクリアするごとに?から執事に、執事から執事マルユとなり、ミニゲームクリアの称号を手に入れた時にランク伯爵に仕える執事であると判明する。
マルユはゲームの立ち絵そのままだった。
老けないのか、それとも老けているから変わらないのか謎である。
そういう理由でこの世界が『無償の愛に彩りを』だとわかったのだ。
「うーん。てっとりばやくもりのつちをはこんでくるとか、おちばをあつめてはっこうさせる…はっこうってどうやるんだろ?せっかいもまきすぎはよくないだろうし。…むずかしいなぁ。」
田舎の祖父母が畑をしていたけど収穫された野菜しか興味なかったからさっぱりわからない。
年に3回は訪ねて行ったけどたまに畑が花畑になっていたのが不思議だった。
あれ何の花だったんだろう。
祖父が祖母のために植えてたんだろうか。
あー駄目だ。
打つ手なしにも程がある。
僕って何にも出来ないな。
ちょっとへこむ。
卵かけご飯があればおかずはいらない。




