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親友と僕と

―人類滅亡まであと29日―

 日付が変わり新しい一日がやってきた。ベットの中で一晩中考え事をしていたので少し眠たいが、定刻にはきちんと目が覚めていた。習慣というものは本当に恐ろしい。いつも早めに起きて僕と夕の分お弁当を作る。といっても作り置きして冷凍してある料理を回答して弁当箱に詰めるだけの簡単なものだ。学食で食事をとってもいいのだがおまりおじさんたちに迷惑をかけることは気が進まなかった。冷たい水で顔を洗ってからさっさとお弁当に詰めていく。あとは朝食として卵焼きと味噌汁くらいあればちょうどいいだろう。卵を溶きながら火をつける。溶いた卵をそこに流し込む。ジュワーという心地の良い音と卵の焼けるいい匂いが辺りに漂う。昔は焦がして黒くて苦いものを一人で沢山食べていたが今ではそこそこ自信があるくらいまで成長している。今日も調子よくきれいなきつね色の卵焼きが完成する。食べるのがもったいなくなるくらいだ。次は味噌汁に取り掛かる。これもインスタントをやめ自分で作っている。凝りだしたらきりがないのでやめているがもっとおいしいものを作ってみたい。僕が料理教室なんかに通う画は想像したくもないけれど。でもたとえ人類が滅んでもこの時間だけは守り通したいとも思っている。

ちょうど味噌汁が出来るころになると、がさごそと音がして夕が起きてきた。普段はしゃっきりとしているのだが朝だけは苦手らしく魂の抜けたピエロのようにふらふらと出てくる。今日も寝ぼけているのか菜箸で食事を始めようとしている。卵焼きと味噌汁とご飯という何とも味気ない朝食だが、これが僕らの日常でもある。朝食の間は無言なのも日常だ。(これは主に夕に問題があるといえばあるのだが。)朝食を終えふらふらと戻っていく夕を見送ってから僕も制服に着替え学校へと向かう準備を始める。久しぶりに出してきた冬服は固まってしまっていてなれないが、それもすぐになれるだろう。行って来ますと言って家を出ると秋らしい朝の冷たい空気が広がっている。

僕の通う学校は夕の通う中学と近くに面しており途中までは通学路が一緒になっている。通学路に立つ銀杏の木もいい感じに黄色く染まり、その葉を黒いアスファルトに散らし、鮮やかに染め上げている。 

 「もう秋だなあ。」

 「秋だねー。」

背後で声がした。いきなりだったのでリアクションに困るがこれが彼女なので仕方がない。

 「何ぼーっとしてるんだよマナ。いつも暗いのに今日はもっと暗いよ。まるで不審者みたいに見えるから笑って笑って。」

朝から余計なお世話であるが悪意はなく善意だけで行っているのだからこれまた仕方がない。彼女は彼女なりに本気で僕を心配してくれている。枝幸保種しのさきほたねは僕の一番の親友でそれはこれからも変わらない。

 「保種。暗いはないだろう。こうもうちょっとオブラートに包んでだな。」

 「んーそこは否定しないんだね。じゃあ陰険?」

 「心の中まで否定するなよ。僕はそこまでひどいやつじゃない。」

 「今更何を言ってるんだい、マナが悪いやつなわけないじゃないか。マナはいいやつだよ。」

さらっとこういうことを言うのも保種らしかった。あまりにも自然で保種に言われると本当にそうである気になってしまう。男女間の友情なんて……とう人もいるかもしれないが僕の中で保種だけはその例外だった。保種にはいろいろと世話をかけっぱなしで何もしてやれていない。でもそういうと保種は決まって『友達なんだから気にすることないさ。』と笑顔で返してくる。保種はそういうやつだ。若菜にもたまに相談に乗ってもらうことはあるのだが若菜は人の悩みまでも真面目に悩みすぎてしまうため相談するのがためらわれた。反対に保種は楽観的に見えて実は本質を見抜くことに長けていた。今だって自分は普段通りにふるまていたつもりだったのだが保種を前にしてそれは無意味な抵抗だったみたいだ。

「……ありがとな、保種。」

「急に言うと気持ち悪い。まあもっとぼくを褒めれくれていいんだっけどね。そういえばマナって今日提出の課題やって来てる?」

「ああ当然だろ?もしかして忘れたのか?」

「マナ、脳にも限度があるんだよ。そんな些細なことは一々覚えてない。」

「課題があることは覚えていたのにか?」

「そんなことはどうでもいいんだよ。学校についたらうつさせて。」

「僕じゃなくてもいいだろ、ほかに友達なんてたくさんいるじゃないか。保種はすごい人気者だしな。」

「あれは友達じゃなくて友だちごっこだよ。彼らに菓子を作るのは気が進まないね。」今の世界はごっこ遊びが大好きなんだ。電車の中でみんなスマフォを見てるだろ?あれもごっこ遊びのひとつだよ。仲間ごっこ、友だちごっこから外されるのが嫌だからやってるだけなんだよ。そんなことを言い出したらSNSなんてその最たるものだよね。だからぼくには友だちごっこじゃない『友達』ってのは数人くらいしかいないんだ。その一人がマナってことだね。」

 「友だちごっこね……。俺には違いが分からないんだけど保種は何か彼らに一線を引いているのか?」

 「それは当然。だってごっこ遊びにはまりすぎてもいいことないしね。あs日は所詮遊びなんだよ。それにのめりこむのはただの間抜けだけさ。いいかいマナ。僕が友達に求めるものは何もないんだよ。ごっこ遊びは遊びなんだから何かしらのものを求めているんだ。だからなにも与えてくれないって思うものは仲間外れにしちゃうんだよね。利害とかじゃなくて何も求めない。それが友達なんだよ。」

保種はすがすがしい顔でそう言い切った。

 「今さっき課題を見せるように求められたような気がするんだが………」

 「違うよ。何かを返してもらうことを求めてないってだけ。マナはその課題を見せたから次はみせろなんて要求しないだろ?そんなものさ。だから本当の友達っていうのは恋人と似ているかもしれないね。ほら、君がいてくれるだけでいいみたいな。」

 「だったら俺たちは恋人同士か?」

 「カヤちゃんが聞いたらすごく怒りそうな発言だね。なぜだかマナじゃなくてぼくがすごく怒られそうだ」

そう若菜ももちろん彼女のことは知っている。若菜との仲を取り持ってくれたり、若菜に僕の家を教えたのも保種らしい。聴いてもはぐらかせれてしまうので真相はわからずじまいだけど。

 「まあぼくたちはお似合いの親友と言ったところなんだろうね。それはそれでぼくはとてもうれしい。なによりそういう人がいることがね。そしてそれが自他ともに認められているなんて、こんな奇跡はあり得ないよ。でマナ、ちゃんと課題は見せてくれるんだよね?」

いいことを言っていたはずなのに肩透かしを食らった気分だ。いたずらっぽく笑っている保種の顔を見て、人類が滅びようとしていても保種だけは変わらないんじゃないか、なんて思ってしまうほどに保種の顔は輝いていた。


マナって響きがいいですよね。

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