神と僕と
始まりは唐突でいてそしてそれは終わりでもある。まだ朝早い時間帯のせいかあたりに人影はない。運動場から来週の大会に向けて朝練に励む生徒たちの声が聞こえるだけだ。ガラスを挟んだこちら側ではまだ朝独特の冷たい空気が残っている。そんな中に僕は出雲満神と向かい合っている。教室のちょうど真ん中にある机の上にちょこんと腰かけて入口の方にたたずむ僕を見ている。クラスのアイドル的存在である彼女に呼び出され朝早くの学校に来ていた。いつもは小柄で愛らしい、まるでアライグマと形容するのがふさわしい彼女が今は別人に見える。
「何?分からないの、ならもう一度言ってあげる。」
その透き通った声ががらんとした教室に響く。彼女はまるで冗談でもいうかのようにではなく、真剣な表情で僕を見つめながら話す。普段は冗談ばかり言ってクラスを沸かせる、そんな彼女と変わらぬ声で話すからこそ、僕は彼女の希薄に押されてしまう。それほどまでに彼女は真剣で真面目だ。
「人類はあと一か月で滅びるよ。」
しかし、その表情と対照的にその内容は冗談のようで非現実的だ。
「今その事実をしている人類は君一人だけだ。君はこの事実をたった一人だけならば話すことを許されている。一か月後人類は滅びるけれど、その事実を知っている人だけが生き残れる。けれどもし仮に君が二人以上の人間に話してしまったらその時点でゲームオーバー。人類はあっけなく滅んでしまう。」
ゲームの説明書を読むかのように彼女は話す。真剣な表情に似合わずちぐはぐでまるで人間ではないように感じる。彼女から目を離したいのに離せない。僕の目は彼女にくぎ付けになり、その話を一言でも聞き逃さないように耳を傾ける。
「……どうして、僕なんだ。」
「ん?気まぐれだよ。この世界の人類は滅んでしまう。それはずっと前から決まっていたことだし変えることはできないよ。でも有効活用ぐらいはしないといけないよね。わたしも少し手が空いていたから付き合ってみることにしたんだ。神様だってサイコロを振って見たくなることもあるんだよ。」
「出雲は神だったのかよ……信じられねーな。」
「神だよ。私は神だ。中でもあと片付けってところだね。救う神あれば救う神あり。そして作る神あればこわす神ありってところかな。そうそう、消すって言っても隕石が降ってきたり異常気象が起きたりするんじゃなくて消えるって感じかな。人類はどうしようもないけれど人類が作ったものは面白いからね、残しておくんだ。だからそう、消しゴムでノートの文字を消す感覚かな。ほらあれって消しても跡が残ってるでしょ。あんなかんじ。うん我ながらいいたとえだね。」
会話を心底他の惜しんでいるかのように話す。しかしその表情は始めから変わらない。瞬き一つしていない。上との会話を僕は何気なくこなしていた。理性では信じられないが僕という個性が納得してしまっている。つまり僕は彼女の言葉を心から信じていた。
「うん。納得してくれたみたいだね。そのきみの性格はすごくいいと思うよ。とにかく何でも納得する。理解とは別に受け入れる。それって阿新しいものに触れる時に必ず必要になってくるんだから。」
帰す言葉もない。その言葉すら僕は受け入れて納得している。自分はそういう人間なんだと彼女の言葉を受け入れている。徹頭徹尾顔色を変えぬまま彼女は僕に問う。
「さあ人類滅亡まであと一か月。一か月後には間違いなく人類は滅ぶ。君が救えるのは世界中でたった一人だけだ。さあ君は誰を救って誰を見殺しにするんだい?眞岸暘?」
そういって彼女、いや神は心底楽しそうに笑う。初めて表情を変え、僕の心を見透かすかしているかのように笑う。
―――――人類滅亡まであと30日――――――
始まりは唐突でいてそれは人類の終わりでもある。僕はそのはじまりをただ一人知っており、その終わりをただ一人知っている。
さてこんな状況になったらあなたは誰を選びますか?今までいなかったリア充主人公にする予定です。 でもそんなタイプのキャラクターは守りたいものが多すぎて悩みそうですね。(笑)