02.蹴り飛ばした
ダークブラウンの髪と、ブルーの瞳、真っ白な肌を黒いマントで隠し。エミィは街へ足を踏み入れる。
彼女の手には大きなキャリーバック。その中身はお嬢様らしいドレス、ドル札、わずかな食料。
生まれてから一度も踏み入れた事が無い、新たな世界に胸を躍らせていた。
ーーーバンッーーー
「キャッゴメンナサイ」
とっさに謝るエミィ。そんな彼女を押しのけ、キャリーバックを奪う大きな男。
男は街中をすばやく逃げてゆく。
「ヒッタクリですわ。ケニー!」
ケニーを呼ぶが、此処にはいない。仕方が無いと思ったエミィは。
男を追う。
見たことも無いフランス風の家を飛び越え、風となる。
あぁ、なんて気持ちがいいのでしょう。
王宮に居る時は、いつも部屋に閉じ込められていたものだから。
エミィの瞳はより一層輝く。
だが今は。暢気に楽しんではいられない。
あのキャリーバックには、私の全てが入っているのだから。
「お待ちください!」
男に向かって叫ぶ。
「お嬢ちゃん。んな事言って、俺様が待つわけねぇだろ!」
「そんな事言ってられるのも、今の内ですわ。」
「あ?」
「私の名はーーーーーーーー」
ーーードカッーーー
「エミィ・モロガンよ!」
エミィに蹴り飛ばされた男は、エミィと叫びながら遠ざかる。
キャリーバックを置いて。
「痛ってぇ!お前ッ何者だ!」
「私は単なる姫、ですわ。」
* * *
「ヒッタクリですわ。ケニー!」
甲高い、女の声が聞こえる。気がついた時には俺はもう、その女の傍にいた。
女は男を蹴り飛ばし、名乗る。
「エミィ・モロガンよ!」
と。
男が逃げ去っていても、女は目つきを鋭くし。フードをより一層深く被る。
「キャッ」
女の叫び声と共に、そいつは地面に倒れこんだ。
* * *
「大丈夫かッ?」
男の声がする。優しい方。突然倒れた私を助けてくださった。
「え、えぇ。大丈夫です」
「名前は?ほら、家送るからさ。」
彼のそばかすだらけの肌はピンク色に染まってる。
「エミィですわ。エミィ・モロガン」
「エミィ?珍しい名前だな。」
「そんな事ありませんの。貴方は?」
「カオス・ロリッタ」
「カオス・・・・。助けてくださり、どうもありがとう。」
「ぃやいや。何もしてないよ?俺は。エミィがアイツ蹴り飛ばしたんだよ?」
「・・・・分かっております。これだからいつも、王宮の者に叱られて・・・・・」
「お、王宮!?」
「あっ何でもありませんの。」
私が姫だと言うことは、誰にも知られないようにしなくては。
でないと、何時連れ戻されるか・・・・・・・。




