14.三日月は否に笑った
「お兄ちゃんの事、思い出したのね・・・・?」
「彼方が、カオスの妹のメリー様?」
「メリーで良いわ。」
「お兄ちゃんはね。さっき説明した通り、向こうの次元の者なの。」
「・・・・・・・・・。」
「お兄ちゃんが次元を移動したという事は、もう一人のお兄ちゃんが、この場所にいる筈なのよ。」
「ハ、ラン?」
「ありえないわ。」
「どうして?」
「だって彼は今、お兄ちゃんと同じ次元にいるんだもの。あっちの次元にね?」
「・・・・そっか。」
不思議な空間に包まれ、この次元の仕組みを理解し始めるエミィ・モロガン。
彼女は頭の中で整理する。
この世界には、幾つもの次元がある。その次元はパラレルワールドの様に永遠に広がってる。
一人の人間はその、パラレルワールドの数だけ分身し、それぞれがそれぞれの次元へと行く。
何者かによって、別の次元へと飛ばされれば、別の次元に居た分身は、最初に飛ばされた分身の次元に行く。
その繰り返し。
そして分身の一人が死ねば、その分身の生まれた次元へと、飛ばされる。
つまり、何者かによって飛ばされる前の次元へと帰れるという事。
カオスもその一人だった。
カオスが死んだ時、エミィ・モロガンは彼に寄り添っていた。
だから、彼が生まれ故郷の次元へと向かった時、エミィはその力に巻き込まれ、次元を移動したのだ。
エミィが次元を移動した事によって、カオスの本当の次元で生きていた、エミィの分身、ヘリィはこの次元、つまりこの空間へと飛ばされた。
そしてヘリィは、エミィを追いかけていたケニーに捕まり、今も尚、苦しんでいる。
人は。
自分の生まれ故郷の次元に自ら移動する事が出来る。
だがヘリィは違った。
ヘリィとエミィははじめ、双子だと思われ、育てられた。
だが、別の次元にエミィ・モロガンという存在が一人少なかった。
この事から。
分身が2人、同じ次元で生まれてしまったという事になる。
エミィもヘリィも。この次元で生まれたのだ。
ヘリィは今、エミィに助けを求める為に、メリーを使った。
でも、何故?
メリーが死んだのは何年も前の話よ?何故その時にメリーを魔法に掛けたの?
この日を待っていたの・・・・・?
「お兄ちゃんの事はともかく。次元の真実は今、私と彼方、それからヘリィしか知らない。
他の人間が知った所で、記憶が抹消されるから。彼方の様に、ね?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「だから次元は尽きる事無く続いているのよ・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「彼方は。ヘリィを救いたい?」
「・・・・救いたいわ。」
「なら、誓って。」
「え。」
「この次元では、ヘリィ・ロモネがエミィ・モロガンだと思われている。
だから彼方が、ヘリィにならなくてはならない。たとえ分身だとしても。所詮違う人格。名前も勿論違うわ。」
「・・・・・・・・そう。」
「だから、彼方は姫という名を捨てなくてはならないの。
その覚悟がある?」
ーー姫という名を捨てるーー
エミィ・モロガンの瞳は今までよりも一層。蒼く輝く。
「捨てるわ。私はもう。姫じゃない。」
「強いのね。彼方は。」
メリー・ロリッタの瞳は哀しみに浸る。
だがその哀しみはすぐに消え、焦りに変わる。
「急ぎましょう。ヘリィを救いに。」