13.空間と存在
「でも。どうして彼方は生きているの・・・・?」
エミィ・モロガンは恐る恐る問いかける。
「魔法。掛けられたのよ。」
「え。魔、法?」
御伽噺で聞いた事のあるその響きに動揺するエミィ。
「時・・・・次元を渡れる能力を貰った。」
「・・・・・?」
「この日の為に。私は生かされた。」
「え。」
「彼方を。この次元に連れてくる為。私は魔法を使える様になったのよ・・・・?」
「誰に・・・・。誰がそんな事。」
「あっちの次元の彼方。」
「え・・・?私?」
「そう。」
「ちょっと待って?あっちの次元の私って?」
「あぁ。説明してなかったわね。」
「・・・・・・・・・。」
「人は。次元が割れる時、分裂し、一つの存在が二つの存在になるの。
この世界にはいくつも次元がある。その一つ一つに、一人の人間の分身たちが。存在してるの。」
「じゃあ。私は何で別の次元に・・・・?」
「あっちの彼方が呼び出したのよ。」
「でも。私。あっちの次元では私に逢わなかった。」
「そりゃそうよ。自分に逢うなんてありえないわ。」
「じゃあ何故?」
「彼方を救う為。」
「え。私?」
「違う。彼方じゃない。もう一人の彼方。」
「・・・・・・・・?」
「あの時。ヘリィはミスを犯したわ。」
「ヘリィ?あの時?」
「ヘリィとはもう一人の彼方の名前。あの時とはカオスが死んだ時。」
「・・・・。」
「カオスが死んだのは計算外だった。
一人の人間が別の次元で死ぬと、自分の生まれた、故郷の次元へ戻るのよ。」
「・・・・・・・?」
「だから彼方がカオスに寄り添った時、カオスと一緒に。カオスの故郷の次元へととばされた。
その次元こそが。さっきまで彼方がいた所。そしてヘリィも其処で生活していた。」
「・・・・・・・・。」
「彼方がカオスと共にヘリィのいた次元へ行くから、ヘリィは、この次元に飛ばされたわ。
同じ人間が同じ空間にいてはならないから。」
「・・・・・・・・・・。」
「この次元に来たヘリィはまず。ケニー・フォレアンに捕まったわ。そして今。牢獄にいる。
ヘリィを救えるのはエミィ。彼方しかいない。
だからヘリィは私を使って彼方をこの次元に呼び出した。この次元は彼方の生まれ故郷よ?
ここが。彼方のアロネダなの。」
「ここが・・・・?」
「そう。」
「でも。可笑しいわ。」
「何が?」
「私がこの次元に来たのなら、ヘリィは元の次元に帰れる筈でしょ?」
「それが。無理なのよ。」
「どうして・・・・?」
「ヘリィもここで生まれたから。」
「え?私がここで生まれた。なのに何故、同じ人間が同じ所で生まれるの?」
「彼方はミスから生まれた存在なの。」
「え?」
「元々は双子だと、思われていたわ。
でも。別の次元で彼方が存在していない事が判った。
そうなると、答は一つよ。
同じ次元で分身が同時に生まれてしまった。
そういう事。
出逢うことなく、平行線に続いてゆく筈だったヘリィとエミィは。
出逢ってしまったの。」
「私が・・・・・。」
「だからヘリィは別の次元へと送り込まれた。
だけどね。
故郷の次元に帰る事は出来ても。
自分の意思で別の次元へと行く事は出来ない。生きている限り、ね。
だからヘリィは、彼方に助けを求めてる。」
「ヘリィ・・・・が?」
突然エミィの瞳に稲妻が走り。
記憶を連射させる。
ひったくりに逢って、パン屋の叔父さんに出逢って。
たくさん追いかけられて。
逃げて。逃げて。
隣でいつも笑ってたのは・・・・。
カオス。
彼方だったのね。
エミィ・モロガンの記憶は全て戻った。
メリーの事も。
カオスの事も。
「覚えてる。」
全ての真実が、綺麗なシャボン玉の様に弾けだした。
そんな瞬間。
再び同じ存在が、同じ空間に、存在してしまった。