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第一歩

 かつて、私は、我が国、アトランティア王国の騎士団団長を務める高名な騎士だった。私を滅して職務に徹し、民を守るためならば自身の命も省みなかった。

 いや、命以外だろうと、私は騎士としての誇り高き使命のために、文字通り、全てを犠牲にしてきたといえる。

 そんな私を国民は英雄だと祭り上げ、若い騎士達は騎士の鏡だといって憧れを寄せた。


 ある時、国の極北にあたる山間部で、巨大な翼竜が現れたと報告があった。

 訴え出て来たのはその山麓の小さな村であり、その時点での被害は、死人もなく、さして大きなものではなかった。しかし、先に突然変異型で凶暴化した地竜が街を襲うという事件があったこともあり、私は騎士達を率いて、翼竜の討伐と調査を目的に、報告を受けた明朝、現地へと発った。


 ―――――――――――――――それが、あの恐るべき陰謀の一端だったとは、誰が予想しただろうか?


 私達がそれを知ったのは、首都グラスグレイを離れ、遠い北の地に着いた時だった。


「ここだな…。では、山に調べに入る。皆、気を抜かないように」

「はい!!」


 いくつかの班に別れ、私達は山の中を探索した。それからしばらくが経過し、出発地点に全ての班が戻って来た。誰も何一つ収穫がないままだった。

 かなりの人数でその一帯を調査したが、結局、報告にあった翼竜はおろか、小飛竜の姿さえない。近隣の村人は確かに見たと言っているし、そもそもこの地域は竜や大型の獣を狩って日々の糧を得ている狩猟民族である。彼らが彼らの獲物や、危険を感じた敵の存在を見誤るとは到底思えない。また、そんな巨大な翼竜が全く姿を潜めるというのも、その他の竜までもがいなくるなどありえない。


 ―――――――――これは、どういうことだ?


そう思っているところに、危急の知らせが入った。

 伝令の若い兵士が、私達の陣営に飛び込んできたのだ。


 「大変ですっ!!竜が……竜が………っ!」


 「竜?竜が一体どうしたというんだ?」


 私が尋ねると、彼は息を切らせながら、大声で叫んだ。


「数々の竜が首都を襲っています!!」






 直ぐさま私達はグラスグレイへと舞い戻った。

 しかし、時既に遅し。地竜に始まり、小飛竜まで、そして、翼竜―――おそらく、報告にあった―――が首都に集結し、街を襲っていた。建物は崩壊し、人々は恐慌し、逃げ惑っている。

 私は部下達に民衆を守り、安全な場所に避難させるよう指示し、荒れ狂う竜達に立ち向かった。

 いくら剣を振るってもきりがなく、切り倒したそばから新たな竜が襲い来る戦場の中、私はこの凶事の原因を考えていた。

 何故、突然これだけの竜が一挙にここに集まり、街や人々を襲うのだろうか。よく見ると、本来温厚だといわれる種も中に混ざっている。北の山で翼竜が出現したという情報すら怪しい。私達が出向いた先には消え、同一と思われる竜が首都に現れた――――――――。


 まるで、誰かが私達をグラスグレイから引き離すように手引きしたかのような――――――――――………。


 その考えが頭を過ぎった瞬間、すうっと体温が下がったように感じた。

 可能性として、何者かが竜を使い、国の転覆を目論んでいる、という仮定が浮上した。


 (まさか………。いや、もしそうだとしたら……!)


 信じ難いことではあったが、私には一つの心当たりがあった。

 竜を喚び、意のままに操る術が古代魔法にあると聞いたことがある。それは、魔法陣や素材だけではなく、竜についての知識にも精通していなければ成功しない。

 私はそのどちらも会得している人物を知っていた。

 王国の宰相であり、優秀な学者としても知られているシド・サルバドール。

 彼は幅広い分野に造詣が深く、特に古代魔術に関しては権威とまで称されている。彼以上の識者を私は未だかつて知らない。また、これほどの事を実行できるのも彼以外にいるとは思えなかった。


 (彼ならば竜族の召喚術を知っていてもおかしくはない………。以前、竜について尋ねた時、それらしきことを言っていた。だが、まさか彼がそんなことを………)


 とにかく、今は考えている暇はない。可能性があるのならば、私はすぐさま動かねばならないのだ。

こうしている間にも竜はとめどなく押し寄せ、被害は増え続けている。私は彼を捜すことを決めた。

 術式を展開するには、巨大な魔法陣を描ける広さと、風の吹く場所というのが大きな二つの条件である。午前中、私が出掛ける前に城内で仕事をしている姿を見掛けたので、そう遠い場所ではないはずだ。


 (となれば………)


 私は部下達に、自力で歩ける者は同盟国である隣国に避難させ、負傷者や老人は見付けられる限りの地下室などに匿うように指示し、崩れ落ちる街の中を駆け出した。












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