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adagio  作者: 神崎みこ
番外編/拍手再録
16/17

38. 嫌いって言って

 私が好きな人には、好きな人がいる。

わかっていたことなのに、理解することは難しい。

水面下で何度も失恋をして、だけど私はまだ諦めきれずにいる。



 あまり女性がいない学部でも、全くいない、ってことはなくて。

だからこそ少人数の女同士のやりとりには気を使う。

問答無用のグループ割りならいざしらず、それ以外の時間を彼女たちと過ごすのだから。

一人でいい、と言い切るほど私は強くない。

当たり障りのない会話を交わし、過去問を融通しあい、そしてご飯を食べる。

性格が合うわけでもなく、本当のところから仲がよいわけではない私たちは、それでも今日も笑いあう。


「高井くんって、彼女いるんでしょ?」


以前お弁当を差し入れしようとして、こっぴどく断られたクラスメートに突込みが入れられる。

背が高くて、どこか周囲とは違う雰囲気をもった彼は、密かに人気がある男子の一人だ。

少し怖くて、けれども友達と話している姿は、同じ年だと思えるほどかわいい。

そんな私も、彼のことを好きな女の子の一人なのだけど。


「いるっていうか、なんかはっきりしないんだよねぇ」


断られて、大勢の前でかわいく泣いて見せた彼女は、けろっとしながらそんなことを口にする。

確かに、彼女がいる、という話は聞かない。

だけど、誰か気になる存在がいることも本当らしい。

どれもこれも間接的に聞いた話だけど。


「あ、でも、この前見たよ?」


別のクラスメートがおにぎりをほお張りながら声をあげる。


「女の子と一緒だった。でも、あれ高校生だしなぁ」


高井君が女子高生と仲よさそうに歩いていた、という噂は随分前に私も聞いたことがある。

たかが数個の年の差なのに、大学生と女子高生、という言葉にすると、何かちょっと違う響きがあるような気がするのは私だけではなかったらしい。

首をかしげて、それでもおにぎりを食べ進めるこの子は、高井君にはクラスメート以上の興味はないようだ。


「高井君も、はっきりしてくれればいいのにねー」


私にとってはあれ以上ない拒絶だと思うのだけど、彼女たちにとってはどうやら違うようだ。

諦める様子すらない彼女は、完全に決別したあとの気まずさを想像もしていないに違いない。

だけど、私にとってはその前向きな姿勢はうらやましくもある。

あちこちに聞き耳を立てて、勝手に遠慮をして。

そして言い訳をして一歩も動かないでいる。


「いっそ、嫌いぐらい言ってくれればいいのにね」


言われることなど本当に予想もしていない彼女たちの会話は続いていく。

曖昧に笑いながら、適当なところで相槌を打つ。

嫌い、って言われたら。

そう考えて、勝手に酷く傷ついて、私はやっぱりうずくまったまま動けない。

全員昼ごはんを食べ終わり、つかの間の休憩時間を楽しむ。

次の時間は彼と一緒だと、少しだけ幸せな気持ちを味わいながら。

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