ガム
結局、先輩には例の疑問、つまり先輩といる時に限って急に意識が飛ぶこと、を訊けなかった。
ただ、病院に行ってきたと言った瞬間、少なからず先輩は動揺を見せた。やっぱり先輩は何か知っている。
だが、先輩のことだ、何か深い事情があって言えずにいるのだろう。
私たちは市役所こども課の職員だ。先輩は窓口、私は事務を担当している。
子どもと接したくて就いた職業なのだが、実際に向かい合うのは書類の山。世の中そう上手くは行かない。
窓口業務をテキパキとこなす先輩は、とてもカッコいい。あっちでハンコを押したと思ったら、こっちで子どもをあやしている。
そして、合間を縫って私に声をかけてくれる。
「松代さん、体調大丈夫?少し顔青いわよ?」
「いえ、大丈夫です。それに……」
先輩に顔を近づけて、小さな声で「お薬も飲んでいますから」とつけ足す。
正直なところ、浦原先生の見立てはまだ不完全だ。病気かどうかもまだはっきりとしない。
だが、それをつつみ隠さず教えてくれたところにまた信頼を寄せることができた。先生が飲めというのなら必要な薬なのだろう。薬効もさして気に留めないまま、薬を飲んでいる。
「今日はガムくれないんですね?」
思えば、先輩は事あるごとにガムをくれた。私が噛まないのを知っているのに。
「2人きりの時にね。職場でガムはちょっとね」
2人きり。そういえば、先輩がガムをくれるのはいつも2人きりの時だけだった。頻度も、大体二週間に一度と決まっている。そのタイミングで2人きりになれそうになければ、呼び出しがかかるのだ。
ガム、噛んでみようかな……先輩の秘密に迫りたくて、好きでもないガムに興味を持った。
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