精神科医浦原
浦原メンタルクリニック。私はそのドアをミシリと開けた。待合室には、心理学入門といった医学書や雑誌が整然と並べられている。
その中に、なぜか「赤ずきん」が混じっているのに気づき、言い知れぬ違和感を感じた。吸い寄せられるように手を伸ばす。と、「受付番号13番の方」と、看護師に呼ばれた。
「医師の浦原です、どうぞ」
浦原医師に促され、椅子に座る。
清潔。一言で言えばそれが第一印象だった。アクセサリー類は着けておらず、私物と思しきものはブランド物とは縁遠い、けれど念入りに手入れされた鞄一つだ。白衣にもシワ一つない。
「大変でしたね。でも、もう大丈夫ですよ」
驚くほど静かなトーンでそう言われ、とっさに身構えてしまう。
「落ち着け、と言っても無理ですよね。しばらく待ちますので、ゆっくり状況を整理しましょう」
待つ。待ってもらえる。それは、私が今一番望んでいる事だった。
両手を胸から膝に戻し、事態を説明した。
「なるほど。その公園に飛ぶのはどれくらいの頻度ですか?」
「週に二、三回です。二年ほど前から」
「では、あなたが飼っているワンちゃんについてですが⋯⋯」
「ええ!?」
まだ犬を飼っていることなど説明していない。浦原医師が続ける。
「ああ、驚きました?なに、簡単な事です。あなたから犬の匂いがしたもので」
自分の匂いをクンクンと確認する。特に匂いはしない。先生は満足気な笑みを浮かべて、「それと、もう一つ」と付け加える。
「バッグからリードが覗いてますよ」
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